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再会は花のように  作者: 猫寝子cat
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side:F 第2話「邂逅(前編)」

長くなってしまったので前後編に分けます。


「魔力視……?」

「はい、文字通り魔力を視る技術……魔法を使う相手との戦闘では必須になります」


 生まれ故郷を出発して早一時間、王都へは丸二日かかるため、その間少しでも役立つ技術を教えてもらえることになった。


「フィソステギア殿、魔力感知は使えますか?」

「えぇ、一応」


 この世界には魔力という見えない物質が空気中に沢山漂っている。

 それを扱い形にするのが魔法なのだが、そもそも魔力を感じとれなければ魔法を使うことも出来ない。


「魔力感知か〜……俺も使えたらなあ」

「こればっかりは生まれつきだから仕方ないよ。でもその分アサは体が強いじゃん」

「おう! 俺の拳は鉄よりかてぇからな!」


 これが、魔法を使えるか否かを分ける唯一にして最大の要素。

 魔力を感じ取ることが出来なければ魔法は使えない。

 その魔力を感じ取れるかどうかは生まれた時に決まってしまうため、魔法使いには努力ではなれないのだ。


「その魔力感知はどのように?」

「普段はなんとなく、でもしっかり形まで感じるのは、目を瞑って集中しないと……」

「なるほど……では目を瞑り、私の動かす魔力に集中してください」


 そう言ってアリウムさんは、虚空に指を走らせた。

 僕は目を瞑り、漂う魔力を感じることに集中する。

 すると真っ暗な世界の中に、ぽつりぽつりと淡い光が浮かび上がってきた。

 ふらふらと揺れたり、ちかちかと瞬いたりするそれは、まるで夏の夜に飛ぶホタルのようで、とても美しい。

 その中で、一際強い光を放つ魔力の線が、ゆっくりと円を描いていた。


「……くるくると、魔力が円を描いてます」

「はい、しっかりと感じられているようですね」

「んぐぐぐぐぐ…………っはーーー! ぜんっぜんわからん!」


 アサの悔しがる声が聞こえる。

 悔しがるアサの様子が目を瞑っているのにありありと浮かんできて、くすりと笑みがこぼれる。


「ではその円を、目を開けた状態でも見られるようにしていきましょう」

「……はい」


 集中力を保ったままゆっくりと目を開くが、鮮やかな世界に優しく光る魔力は存在しない。

 ……やっぱりすぐはできないか。


「だめです、見えません」

「最初は誰だってそうです。ゆっくり出来るようになっていきましょう」

「はい……ありがとうございます」


 何度も言うが、魔法使いというのはとても希少だ。

 そんな魔法使いが故郷のように小さな村にいる訳もなく、魔法を教えてくれる人というのはいままで出会えなかったのだ。

 そのためずっと独学でやってきたので、こうして教えて貰えるのがとてもありがたい。

 

「でも魔力を視るっていっても一体どうすれば……」

「そうですね……では窓を想像してみてください。今貴殿が見ているのが窓に嵌め込まれたガラス、そして向こう側には魔力の満ちる世界があります」


 窓……そしてその向こうの世界……。


「しかし貴殿が見ている窓にはいま磨りガラスが嵌め込まれていてその先が透けて見えていない……これが今のフィソステギア殿の視界です。なので磨りガラスを透明に、世界を透けさせる……というのでしょうか。正直に言うと私も感覚的なものなので、上手く表現できている自身はないのですが……」

「い、いえ! とてもわかりやすいです!! ありがとうございます!!」


 一度目を瞑り、アリウムさんの描く円を意識する。


「世界を……透けさせるイメージ……」


 現実世界の、その向こう側を見るように……。

 ゆっくりと目を開けると、とてもうっすらとだが魔力の円を視認することができた。


「あ! 見えた!! 見えました!!!」


 喜びと共にアリウムさんにそう報告し、改めて魔力を見ようとすると、先程の円は見えなくなってしまっていた。


「あれ、また見えなく……」

「一瞬でも見えただけ上出来です。素晴らしい才能をお持ちですね」

「あ、ありがとうございます……」


 これだけの事でも嬉しそうに褒めてくれるアリウムさんに少し照れながら感謝を述べる。


「では、今度は自分で魔力で形をつくり、それを見るというのをやり続けてください」

「は、はい! わかりました」


 さっきも一瞬しか見れなかったのに、上手く出来るだろうか……と心配になっていると、すかさずアリウムさんが声をかけてくれた。


「大丈夫です。今は少しだけでも、しばらくすれば見えるようになりますよ。何事も継続です」

「頑張ってみます……」


 出来ることはなんでもして、少しでも強くならないと……もう魔王軍との戦いはすぐそこまで迫っているんだ。


「なぁ! 俺にはなんかないか!」

「そうですね……ではアサ殿は……」


 僕を見ていて自分もなにかしたくなったのかアリウムさんに指示を仰ぐアサを尻目に見ながら、僕は魔力視の訓練を開始した。





□⬛︎□⬛︎□⬛︎□





「うっし……次は負けねぇぞ……」

「こちらこそ、剣聖として負ける訳には行きませんので」

「いくぞ……」

「はい……」


 魔力視の訓練を続ける僕の横で、アサとアリウムさんが一触即発の空気を放つ。

 空気がピリ付き、魔力はまだ見えないのに二人の間に火花が見える。

 極限まで気が張り詰め……そして次の瞬間、一気に解放された。


「「叩いて被ってジャンケンぽん!!」」


 二人が同時に腕を振り下ろす。

 そして恐るべきことに、二人共手を見ずに攻防に入っているのだ。

 まだ自分が勝ってるか負けてるかも確認していないのにアサが傍にある棒で防御姿勢を取るが、それよりもさらに速くアリウムさんの棒がアサの頭に当たった。


「だーーっ!! ってーー!!」

「中々いい反応速度です。動きの見極めも悪くないですね」


 そう、一見遊んでいるようだがこれが二人の訓練なんだそうだ。

 最初のジャンケンの時点で既に普通ではなく、まず相手の手の動きから出す手を見極めて自分が勝つか負けるかを判断する。

 そしてそれがわかった瞬間棒で攻撃態勢、または防御姿勢を取る。

 この2人はそれが速すぎて、攻防が終わってからジャンケンの勝ち負けがわかるのだ。

 しかもそんなのほとんど運の筈なのに、毎回しっかり合っているから恐ろしい。


「くっそ……次こそ!」

「その意気ですよ、アサ殿……おや」


 ふと、アリウムさんがあらぬ方向を向いた。

 ……なにか感じたのだろうか。


「どうしました?」

「どうやらお客さんのようですよ」

「え?」


 お客さん? と頭に疑問符が浮かぶのとほぼ同時に、馬車が突然大きく揺れた。


「うわっ!」

「なんだなんだぁ?」


 急いで馬車を降り辺りを見渡してみると、数十人の男達が馬車を取り囲んでいた。


「こんなド田舎にお貴族様みたいな綺麗な馬車が通るなんて珍しいなぁ!」

「ここら辺は危険がいっぱいだからよぉ、オレたちが安全な場所まで連れてってやるよ! げひゃひゃ!」

「おめえたちも運がないぜ!」

 

 ボロ切れのような服に少し錆びたサーベル、これが盗賊とやらだろうか。

 普通なら命を危機を感じて焦る所だが、僕達の中にそんな人は一人もいない。

 アサが一歩前に出て、ニヤリと笑う。


「あぁ、たしかに運がねぇぜ」

「おぉ? 随分と物分りがいいじゃねえか! それじゃあとっとと荷物置いてきな!」

「俺たちを襲っちまったお前らがなぁ!」

「へ? ぶべらっ!」


 アサ渾身の右ストレートが盗賊の一人を襲う。

 意表を疲れた盗賊はその拳をマトモにくらい、見事な放物線を描いて飛んで行った。


「ふっ、きたねぇ花火だぜ」


 手をひらひらと振りながら、さっきの右ストレートのように見事なドヤ顔を決めるアサ。

 僕もアサに続いて前に出て、剣を抜こうとしてるアリウムさんに向き直る。


「アリウムさん、ここは見ていてください」

「よろしいのですか?」

「はい、僕達もこれまでダラダラと生きてきた訳じゃないので」


 な、とアサに問いかけると、おう! ど元気な返事が帰ってきた。


「わかりました、ではお手並み拝見させていただきます」

「えぇ、お願いします」


 盗賊達はいきなり仲間が吹き飛ばされた衝撃からやっと帰ってきたようで、リーダーっぽい人が体をわなわなと震わせながら怒りをあらわにしていた。


「いくよ、アサ」

「背中は任せたぜ! ステア!」


 二人で息を合わせて走り出すと、それに呼応するように盗賊たちも攻撃を仕掛けてきた。


「やっちまえおめえら!」

「「「おぉぉぉ!」」」


 人数の差というのはたしかに大きいが、盗賊がまともな戦略を取ってくる筈もなく、ただ突っ込んでくるだけだ。

 それの程度ならば、いくらでもやりようがある。


「あめぇなぁ! 盗賊さんよぉ!」


 両手でに持つ盾で攻撃を防ぎながら、足払いや突き上げなど巧みな体捌きで体勢を崩していく。

 すかさず僕が鞘に収めたままの剣を振るい、戦闘不能にする。

 するとその隙を狙い背後から盗賊の1人が僕に斬りかかってくるが、アサがアイコンタクトをしてきたのでそのまま振り返ることなく前に出てアサと位置を入れ替える。

 その直後背後でアサの気合いの入った声と鈍い音が響いた。

 自慢では無いが、僕達のコンビネーションは大分いい方だと思う。

 十年以上一緒に生活し、ずっと戦闘訓練をしてきた為、アサの考えていることが手に取るようにわかる。

 そのため、とてもスムーズにコンビネーションをとることができるのだ。

 きっとアサも同じだろう。


「初めての実践にしちゃあ上出来じゃねえの? なぁステア」

「うん、今までの訓練がちゃんとためになってる感じがするよ」


 入れ代わり立ち代わりながら舞うように盗賊の数を減らしていく。

 しばらくそうして戦っていると、アサがどこかにピッと指を指して叫んだ。


「道だ!」

「了解!」


 その指の先を見るよりも速く体を動かし、駆け抜ける。

 するとアサの言う通りあれだけいた盗賊はかなり減り、人の少ない空間が出来ていた。


「なっ!」


 そしてその先には、リーダーのような風体をした男が突然飛び出してきた僕に驚いていた。


「はぁぁぉぁぁぁ!」


 風を纏って速度を上げ、一気に距離を詰める。


「いっけぇぇぇ! ステア!」

「うん!」


 そのまま一直線に突っ込み、そのまま首に剣を走らせ……ずに寸止めをした。


「降参、してくれますか?」

「ひ、ひゃい! します! しますからどうか命だけは!!」

「ふぅ……おわったよ、アサ」


 剣を鞘に戻し、一息ついてからアサに声をかける。


「おう、おつかれ」

「うん」


 そしてコツンと拳を合わせ、僕達の人生初の実践は完全勝利で幕を閉じた。




□⬛︎□⬛︎□⬛︎□




 捕まえた盗賊を縛り上げ見回り兵の通る場所に置いた後、日が落ちてきたため近くの森で野営の準備を始めた。


「そういえばお二人とも、鮮やかなお手前でしたね」


 手際よくテントを設営しながら、アリウムさんが先程の戦闘の感想をくれた。


「勿論訓練でお二人がお強いのはわかっていたのですが、正直想像以上です」

「ほんとですか!」

「へへっ、あざっす!」


 二人で顔を見合せ笑い合う。


「個々人の実力は勿論ですが、特にコンビネーションが素晴らしいです」


 すぐに私と肩を並べて戦えるようになりそうですねと付け加えるアリウムさん。

 その瞬間、アサがガシッと肩を組んできた。

 僕も少し照れながら、それに応える。

 いつもながら気恥ずかしくて突き返してしまうが、今はすんなりと受け止めることが出来た。


「10年以上一緒に訓練してきたもんね」

「おう! 俺とお前が揃えばサイキョーよ!」


 王国最強の剣士である『剣聖』に褒めてもらえたのは、僕達の10年間は無駄じゃなかった、ちゃんと強くなれていたんだと思えてとても嬉しかったのだ。

 ……この時の僕は、浮かれてたんだと思う。

 やっと成人して、アサと、アリウムさんと旅に出て、盗賊をやっつけて……。

 それがとっても楽しくて、とっても幸せで……忘れていたのだ。

 僕が勇者であることを。

 『強くなる』、その言葉の重みを。


「ッ!! 伏せてください!!」


 突如、アリウムさんが叫んだ。

 あまりにも突然すぎて体が反応出来ず、僕達がその場で立ち尽くす中、アリウムさんは剣を抜き放ち虚空に振るった。

 その瞬間ガキンという鈍い音がしたと思ったら、砕けた氷の破片が辺りに飛び散ったことで遅れて攻撃があったとわかった。

 そしてそれと同時に青ざめる。

 今、僕達は攻撃が来たことにすら気が付かなかった。

 アリウムさんがいなければ、確実に死んでいたのだ。


「すぐに第二射がきます! 木の影に隠れて!」

「は、はい!」


 直ぐにその場を離れ、遮蔽物で身を隠す。

 丁度僕たちが隠れ終わったところで、また敵の攻撃が飛来する。

 今度はきちんと意識していたため、攻撃を認識することができた。

 

「はぁっ!」

 

 次々と飛来する、氷柱の雨。

 かなりの速度と精度で飛んでくる弾幕を、アリウムさんは次々と捌いていく。

 最初こそ突然の奇襲で押され気味だったが、段々と慣れてきたのか余裕が見えてきた。

 その証拠に、アリウムさんが僕たちに話しかけてきた。


「私はここで弾き続けますので! これで魔術師を探してください!」

「は、はい!」

 

 そう言ってこちらに双眼鏡を投げ渡してくる。

 僕は急いでそれを構え、氷柱の飛んでくる方向を探し始めた。


「アサ! 多分ないと思うけど、もしあれが飛んできたら防御頼める?」

「おうよ! 俺に任せて安心して探せ!」

「分かった! ありがと!」


 弾道から発射元を予測し、くまなく見渡す。

 

「あれ、おかしいな……」


 しかし、いくら探しても狙撃手は見つからなかった。

 たしかに氷柱の発射元の目星はついた。

 しかし、そこにいるべき人影が見当たらないのだ。

 なにもない、ただの空間から氷柱が射出されている。

 しかしよく観察してみると、空間に揺らぎのようなものがあるのがわかった。

 そこでもしやと思い、魔力視を発動させる。

 これまで1度も成功したことはないが、何故か今なら上手くいくという確信があった。


「世界を、透かすイメージ……」


 極限まで精神を張り巡らせ、見えている世界のその向こう側へ手を伸ばす。

 ……するとそこに、風の魔力を身にまとい姿を隠した人影が高い木に立っているのが、ぼんやりと見えた。


「っ!! 見えました!! アリウムさん!! 距離は大体200メートル! あそこにある一番高い木の上です!」

「ありがとうございます! では反撃と行きますか!」


 僕達の間にいけるという希望が生まれ、改めて気を貼り直す。

 しかし、その一瞬に生まれた緩みをまるで待っていたかのように、絶望はやってきた。


「なっ! くっ……」


 突如、飛んで来る氷柱の速度が何倍にも速くなる。

 そして一瞬の内に、アリウムさんの左足に氷柱が突き刺さった。

 それは、恐ろしい程に正確で、悲しい程に無慈悲だった。

 まずまっすぐ一発飛んできて、それを切り下ろして防いだのとほぼ同時に来る頭への射撃。

 ただでさえ突然の速度の落差で反応しきれていないにも関わらず先程の下への勢いが残った剣では力を込めて迎撃できず、なんとか剣を当てることで軌道を逸らすことしかなかった。

 そして無理に迎撃したせいで少し体制が崩れ、今度は跳ね上がった剣を目掛けて飛んできた氷柱によって、剣が手から弾かれてしまう。

 そこに生まれた隙をついて飛来した、ここまでで一番速い一射がアリウムさんの左足を穿ったのだ。

 

「くっ、油断しました……」


 そう言いながら、優しく光る魔力を傷口に送るアリウムさん。

 おそらく治療魔法だろう。

 治療魔法は時間がかかるためおそらく応急処置程度だろうが、それでも止血できるのは大きい。


「アリウムさん! 大丈夫ですか!?」


 しかし足に小さくない穴の空いた様子はとても痛々しく、僕はたまらずアリウムさんの方に駆け寄った。

 

「私より上を! 相手から目を離さないでください!」

「っ! はい!」


 僕も治療魔法を手伝おうとしたが、そう言われ急いで先程人影が見えた場所を見る。

 するとそこには、先程までいた人影が綺麗さっぱりいなくなっていた。


「いない……? 見逃してくれたのかな……」

「そんな訳ないでしょ」

「っ!?」


 突然、背後から声が聞こえる。

 ……直感でわかった。

 この声の主が、ついさっきまで200メートル以上離れた場所にいた人影だと。

 いったいどうやって、とは思わない。

 あんな遠くからここまで正確に魔法射撃ができるんだ、それくらい出来てもおかしくない。

 ゆっくりと、声の方に振り返る。

 ……そこにいたのは、僕より少し年上くらいの美しい女性だった。

 闇夜の中で月光を反射する腰まで伸びた艶やかな黒髪、透き通るような白い肌、そしてそこに浮かぶルビーのように真っ赤な瞳。

 しばらくの間、息をするのも忘れて見つめてしまう。

 それくらい美しかった。


「私は魔王軍四天王の一人、チグリシア・ビスタリオ」


 しかしそれと同時に……。


「……あなたを、殺しに来たわ」


 そう告げる彼女は、何故か今にも泣き出しそうな程に悲しそうだった。

 

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