Game-18 地下への入口
──道史と晴斗の二人が西館へと移動した頃。
三人は屋上にあった電源が何かわからぬままに北館の四階へと戻ってきていた。が、戻ってきてからその変化に気がついた。
「電気が、付いてる…」
「おおっ、明るいとやっぱり見やすいっすねぇ」
「それにしても、なんで急に電気がついたんやろ…?」
「俺達の可能性としては、やっぱり屋上の機械だろうなぁ…」
あれが北館全体のブレーカーの役割をしていたのだとすれば今の電気がついていることに説明はつけられる。なにせ、屋上には『電灯』の類いが一つもなかったのだ。
つけた側の自分達が気づけなかったのにもそれで説明がつく。
「ただ、北館の電気のブレーカーだったとして、だ。あれだけの後付けの小屋とかって必要だったのか?」
「どう、なんすかねぇ。そもそもブレーカーって屋外には普通設置しないはずっすからね」
「だよなぁ…」
何らかの理由で停電した時にいちいち屋上まで上がってブレーカーを上げる学校とか嫌すぎるし、明らかな欠陥だ。
──となれば、屋上のブレーカーは何らかの理由があるはずなのだ。屋上に置いた理由が。
「あっ。なぁ、響さん。灯りがついたいうことは、職員室漁れるんちゃう?」
「ん?ああ、あの真っ暗闇だった職員室か」
鍵を探そうとしたが瓦礫が凄いわ月明かりが扉からしか入らないせいで何も見えないわ、という職員室。確かに今なら電灯がつくはずだ。
「行ってみるか」
「職員室っすか?」
「ああ、一階にある」
「問題は、道中に他のプレイヤーに会うかどうか、っすね」
「まあ、確かにそうだが止まっているわけにもいかないしな。目的地としては一番近いんだし行くぞ」
階段を下り、一階に降りて職員室のある西館寄りの方へと歩いていく。
「…ん?」
「…どうした、寧々」
「あれ、なんやろ?」
「うん?」
畑代わりの花壇の一角に何か置かれている。近づいてみると…。
「鞄と拳銃…だが、ずいぶんとゴツい銃だな」
「あっ、たぶんこれマグナムってやつっすよ。大口径のめっちゃ威力の高い銃っす」
「詳しいな」
「マニアが友人にいるんすよ。まあ、俺のは聞きかじりなんで詳しくは知らないっす」
「いや、俺達からと比べれば十分博識だ」
「お二人さん。気になるのはこの盛土、なんやと思う?」
近くには引っこ抜かれた人参が山になっている。
「なんか埋めたんだろうな」
「死体じゃないっすか。あっち、階段の辺りにもう一人死んでるっす」
「マジで?」
確かに階段のところに男の死体があった。器機を持ってはいなかったため、男が死んでから誰かがここへ来ているのだ。
「じゃあ、男とやり合って死んだやつがここに埋まってるってことか?」
「そうじゃないっすかねぇ…。お仲間だったから弔ったとかそんな感じじゃないっすか?」
「ありえる、か…」
わざわざ埋めた理由はそれくらいしかない。
「…響さん。この鞄の中、器機が入っとるよ」
「は?」
寧々は鞄の中味を花壇の上にひっくり返していた。化粧品やノートなどの勉強道具に混じって、ソレは確かに存在していた。
「本当だな。埋めるのに忘れていったってことか?」
「埋めることしたってのに『ゲーム』での必需品忘れていくっすかね?」
「わからん。とりあえず──電源は入るな」
器機の電源を押すと灯りがついた。表示されたのは4番。
『ルール』はもう全てわかっているから見ず、『解除条件』の項目を開く。
《接触したプレイヤーの殺害(接触距離は1m以内。死体は接触対象外》
「やっぱり…、あったか。他プレイヤーの殺害の解除条件」
「しかもこれ、けっこうきつくないっすか?1m以内とか下手したら簡単に近づかれるっすよ。階段を上と下から来た時とか」
「だろうな…」
男が倒れているのが階段近くだということを鑑みても稲葉の言うこともわかる。おそらく、出会い頭の戦闘になって相討ちになったのだろう。
そのあとに他のプレイヤーが来て、こっちの4番のプレイヤーだけは弔った。なぜこちらだけなのかまではわからないが。
「とにもかくにも職員室を調べよう。何かしら収穫があればいいんだけど…」
器機は寧々が自身の鞄へとしまう。何かの役に立つこともあるかもしれないからだ。
職員室の扉は前回と同じく施錠されている様子はなく、すんなりと開いた。
「灯りは、ついてないか」
「スイッチ、入れるよ?」
パチン、と音が鳴ると数度の点滅を経て電灯がつく。中は、想像していたよりは──
「マシ、かな…」
「そうやね」
中はあちこちの棚が壊れていたり壁に亀裂が走っていたりはしているが、どうにも経年劣化の果てに壊れてきているよう。他の教室での破壊行為らしき破壊は見受けられない。
「で、何を探すんすか?」
「とりあえず使えそうなものを、だ。ここだって灯りがないとそうそう入れない場所なんだ。必ず何かあるはず…」
今までの経験則から準備も無しに入れない場所には何かしらの有益な収穫があった。となれば、ここ職員室にもきっと何かあるはずだ。
「鍵棚があれば優先的に確認。あとは『ゲーム』に有利になれそうなものならなんでもいい」
「わかったっす」
「ほな探そか」
職員室の中は他よりも更に荒れている。無事な場所といえば壁に並ぶ棚だが外観的に無事なだけで棚の中はぐちゃぐちゃで何が入っているのか把握できない棚がほとんどだ。
「これだけ荒れ果てているわりにはこの扉、あんまり傷が無いな」
見上げてみると扉のプレートには『校長室』とある。ドアノブをひねってはみるが案の定といえばいいのか鍵がかかっている。
「まあ、ダメ元だったしここはいいか。とにかく鍵棚探さないとな」
「おーい、コレなんすかねぇ?」
稲葉は職員室の最奥の壁を見上げていた。そこには何かの見取り図が取り付けられている。
「この学校の見取り図、か?」
「そうちゃうかな。北館の部屋割りの配置的に間違いないと思うよ」
「じゃあ、この『地階』ってなんすかね?」
見取り図には職員室の下に『地階・プール』と呼ばれる区画がある。その区画に降りるためのルートのようなものも北館見取り図の両サイドから降りてはいるが…。
「そんな空間、どっかにあったか?」
「どうやろ…。無かった…とは思うけど」
「階段下に部屋とかなかったっすかね?」
「ああ~、どうだろ。さすがにその辺りまでのぞいてはなかったな…」
「行ってみる?」
「…いや。とりあえず鍵棚探してからだ」
「…そうやね」
「決まりっすね」
結局、鍵棚は見つかるがそこにぶら下がっていたのは西館屋上への鍵と体育館の鍵の二つだけ。
それ以外には特に何もなく、念のために見取り図を寧々が手持ちのノートに書き写すと職員室を出る。
「さて、じゃあ地階とやらに行ける場所を探すか」
「とはいってもどこを探すかやけど」
「とりあえず階段下にそれらしい場所がないか見てみればいいだろ。それでないなら他の場所を確認するしかないだろ」
最も近い階段。それは男が倒れている階段で、そこまでいくと三人はそれを見つけた。
「階段下に扉…と、何かが擦ったような血の痕」
「あの男のやろか?」
「いや、違うな。それにしては血の痕が男より手前で途切れてる。たぶん、花壇に埋められてる方のやつだろう」
「開けてみるっすよ?」
ドアノブをひねって開ける。扉の近くには血溜りがあり、まだ固まっていない。部屋の中央あたりまで擦れた痕があり、そこには一つ、蓋の開いた箱があった。
「これが外に供えられていたマグナム銃が入っていた箱、なんだろうな」
部屋の中を見渡してみるがかなり狭い。目立つのはこの箱ぐらいで他には何もない。
───と、寧々が床に這いつくばって床の埃を掃いていく。
「何かあったか?」
「うーん、ここ、タイルの切れ目の入り方がおかしい気がするんや」
「切れ目?」
見下ろしてみるがいまいちわからない。稲葉も這いつくばって見ている。
「あっ、本当っすね。寧々っちの辺りだけ中途半端に切れてるっす」
「だからこの辺に何かあると思うんやけど…」
そして、寧々はそれを見つける。不自然な一枚分のタイル。手を置くと押し込む。すると、稲葉の立っていた床が持ち上がった。
「うおっ?!」
「なんだこりゃ?」
大きなタイルが持ち上がった床をスライドさせる。そこには人が通れるだけの空間があり、ハシゴが備え付けられていた。
「たぶん、これが地階行きの道、だな」
「降りてみるっすか?」
「…当然だろう」
何があるかはわからない。だが、少なくともこの先にも何かある。それは確かだ。