Game-15 図書室
久しぶりの更新です。
建物を揺らした衝撃は北館のあちこちにいたプレイヤーに届いていた。
「な、何が起きた?!」
「どっかのバカが爆薬を使ったんじゃ…!?」
一つ上の階に居た二人組の男達は足下から響いた衝撃に焦り、すぐに衝撃の起きた場所から離れるように駆けていく。
同じく、先ほど三人を狙ってしかし命中させることのできなかった少女は隠れていた階段のすぐ手前で起きたその爆発に冷や汗が止まらない。
(ば、爆弾…!?そんな、物まであるって、あるなんて、聞いてない!)
歯がカチカチと鳴るのを気合いで押し留めながらも少女はもはやそこから廊下へと戻る気力は失われていた。
☆
一方、投げた側は投げた側で投げた物体──手榴弾の威力に閉口していた。
「…ヤッベーな、アレ。もしかして相手プレイヤー死んだ?」
「ど、どうなんやろう…。けっこう物陰とかはあるやろうしさすがにやり過ごしとるんとちゃうかな…?」
「投げた側が焦ってどうするんすか、響っち、寧々っち」
「そうは言うがな…」
廊下には爆発の影響を受けて埃が舞い、悪かった視界はさらに酷さを増している。マスクでも無ければ通り抜けすらできないほどに…。
「正直なところ、ここまでのことになるなんて俺も考えてなかったんだよ。しかも爆発の瞬間、建物揺れたぞ」
「まあ、戦争に使われるぐらいの物っすからねぇ」
「どないする?」
「気にせずにこっちの階段上がるぞ。わざわざ敵対プレイヤーのいる方に向かう必要無いだろ」
「それもそうやね…。煙いのも避けるってことで」
土嚢を乗り越えて階段を上がっていく。次の階には土嚢は無く、廊下を見ることなく進んでいく…も。
「こっちは屋上まで上がれる階段じゃなさそうだな」
四階まで続いていた階段はそこで途切れて壁になっていた。
「となると、あとは真中の階段か西館寄りの階段のどっちかやね」
「ちょっと廊下のぞいてみたけど今のところ誰も居ないっす。教室の中まではわからないけども…」
「あっ、図書室…」
「図書室?」
廊下を眺めていた響と稲葉は寧々の言葉で振り返る。そこには大きなスリガラスのついた扉がある。
他の特殊教室とは違い、図書室には鍵はかかっていないようで扉は簡単に開いた。
「せっかく開いていることだし、少し探索してみるか」
「大丈夫かな?」
「さあな。だが、さっきの爆発音で他のプレイヤーも相当に警戒してるだろうからすぐには来ないだろ」
「そうっすね。調べといて損はないと思うっすよ」
「決まり、だな」
図書室の扉を三人はくぐる。扉の先にはいくつもの本棚が並び、所狭しと本が並んでいた。
「ここも…、他の教室とは違って荒れてないんだな」
破壊が著しい教室や職員室とは違い、図書室には何かしらを壊したような跡は見当たらない。イスやテーブルには傷があるが、どちらかというと経年劣化に近く、長らく放置されていたことがわかる感じになっていた。
「こういうのを見とると普通の学校いう感じやね」
「そんなところで殺し合いさせられてる方としてはたまったもんじゃないがな」
「本は別段、変な感じはなさそうっすね。普通のそこいらの本屋に行けば手に入るような本ばかりっすよ」
本棚から本を抜き取ってはパラパラとめくっていた稲葉は手元の本を閉じると棚にしまう。
「普通に図書室っすね」
「だな。だが、こういう特別な部屋にはいろいろとある。調べる時は気をつけておけよ」
工作室と似たようなことが起きるとも限らない。適当に調査したら死にましたなど笑い話にもならない。
特に壊れていないというのは必ずしも危険がないというわけではない。実際、工作室がそうだった。
「しかし、ここにはめぼしいものはなさそう───ん?」
目についたのはカウンターに備え付けられている古びたパソコン。かなりの旧式ではあるが、画面の電源は入っている。
───つまり、通電している。
「なんでこいつは使えるんだ?」
カウンターを乗り越えてキーボードを適当に触ると白かった画面に『password?』の表示。
「パスワード、か」
「何かあったん?」
「おっ、パソコンじゃないっすか。しかも、古くさい型っすね」
本を物色していた二人もカウンターを乗り越えてパソコンの画面をのぞく。
「パスワード…。響さん、なんか適当に打ってみたらどない?」
「そうだな──」
とりあえず一番入りそうなものは『Reality Game』なのだが…。
「文字数は五文字っすね」
「五文字でアルファベットと数字で組み合わせたら何通りあるやら…。しかもよく見たら回数制限あるじゃねーか」
画面の右下には『あと九回』というカウント。おそらく、パスワードの入力限界可能数。
「──ん?」
入力限界可能数の横には何も無いはずだがクリックできるマークが出た。試しに押してみるが。
「何かのヒントってことか?」
表示されたのは今なら珍しい折り畳み式携帯が広がった状態の画像。画面部分には特に何かあるということはなく、本当にただそれだけのようだ。
「…わからん。そもそも何のパスワードかすらわからんし」
「他にめぼしい物はなさそうっす」
「いや、いくつか収穫あったよ」
寧々が持ってきたのは鋼の金属箱が三つ。
「どれも開けられてなかったのか?」
「一番奥の棚の本の裏に置いてあったり、テーブルの裏に直接つけてあったりいう感じで、普通にはわからん隠し方しとったわ」
「なるほどな。隠し方が巧妙なら発見を免れた箱があってもおかしくはないか」
とりあえず一人一つを開けるということで箱を開封する。
「食料っすね」
「こっちは…コレ、なんやろ?」
寧々の持っているのは小さな機械的な端子のついた何かのパーツのようなものが三つ。
「…ようやくお出ましか。いや、当たらなかったとはいっても撃たれはしたわけだしな。いつか出会すと思ってはいたさ」
こちらの箱から姿を見せたのは二丁の銃。一つはコルトガバメント。アメリカ軍も採用していた軍用拳銃。
もう一つはS&W M19。こちらをわかりやすく説明するなら『ル●ン三世』の『次元●介』が使っている銃。なんでもコレ一丁でいろんな弾が撃てるらしい。
銃器に弾は装填済みだが、M19に関しては替えの弾は持ち合わせがない。コルトガバメントは持ちマガジンを試してみたが、すんなり入ったので予備は二つ。
「やったじゃないっすか。強力な武器っすよ!」
「───で、誰が持つん?」
寧々の一言で固まる。手元にある銃は二丁。居る人間は三人。一人は銃が持てない。
かといって、置いていくわけにもいかない。他のプレイヤーの手に渡ればそれだけ脅威度は上がる。M19に至っては入っている弾は普通の弾っぽいが、確かマグナム弾とやらも撃てる銃だ。
そういう弾がないとも限らない以上、置いていくという選択肢はない。
「一丁は俺が持つ。稲葉、お前にM19の方は預けておく」
「いいんすか、俺で」
「確かこの銃、反動が強いとかだったはず。寧々に持たせて撃たせたら肩が外れるとかありえそうだし、そもそも装填されている六発しかないんだ。お前が万が一俺達に向けてそれで引き金を引いたとしても、撃ち尽くしたらお前は的だしな。次の銃器が見つかるまではお前も大人しくしてるだろ?」
「いやっすね~。お二人を裏切ったりはしね~っすよ」
「だと、いいがな。コルトガバメントは寧々に預けておくよ。マガジンも渡しておく」
「ええの?」
「まあ、銃って誰でも使えるお手軽武器だしな。寧々に持たせておく方が他プレイヤーを警戒させられるだろ」
二人に銃器を渡して、自分は入口の扉を静かに開ける。なんだかんだと長居してしまったが、結果的にはプラスに働いているかもしれない。周囲には動く影もなく、狙われている様子もない。
「さて、じゃあ屋上目指すか…」
本来の目的地はここではない。この館の屋上。そこには何が待ち受けているのか…。