Game-12 6つ目のルール
資料室の中にいた一人の青年を階段の安全地帯まで引っ張り出して一息入れたところで、二人はようやく話を聞く体勢を取ることにした。
「──で、お前はなんだってあの部屋の奥にいたんだ?」
「いやぁ。実は自分、あの部屋で目覚ましたんだけどあそことにかく埃っぽいじゃないですか?だからとりあえず部屋から出てみたら窓が塞がれた状態でね?とりあえず近づいてみたんすわ───」
長々と要領を得ない説明を始めてしまったので中身は割愛しつつも青年の言うことは実に簡潔だった。
スタートが『資料室』の入り口の中で外に出て窓に近づくと例の罠が作動。かろうじて落ちることは免れるも慌てて資料室内部に戻って扉を閉めたところ、カギのかかる音がして出られなくなった。
八方手を尽くしたが扉は開くことはなく、諦めて部屋の奥に居座って事の成行きに任せていたところに響達が到着したといったところらしい。
「いやぁ~、だからマジで助かったんだよ!」
「そうかい…」
男───刈安稲葉というらしく、とにかく軽い。性格もそうだがとにかく緊張感というものがない。
普通の神経──それを語れるほど響もまともな神経はしていない──をしている感じもない様子で、今もチョコバーをかじりながら携帯器機をいじっている。
「とりあえずお前としては助かったと言うならそれなりの対価を払ってもらおうか?」
「へっ?こういうお助けって無償なんじゃ…」
「アホか。ふざけんのも大概にしとけ」
「マジで~?俺に渡せるものなんて──えっと、何か持ってたっけな…?」
ポケットから出てくるのは基本的にゴミ。たまに出てくるのは飴玉だったり小さなチョコ菓子だったりするがそれらは資料室の箱から大量に手に入っている。
「わりぃ。渡せそうなもんねーわ。無償でよくね?」
「よくないっての。だったら、お前のルールは何番だ?」
「ルール?って、器機に入ってるやつ?あれなら3番だぜ。使い道なさそうでこんなんでいいの?」
「ああ、それでいい。器機はこっちに見えるように画面向けてくれるだけでいい」
「そんなら応じるしかねーわなぁ。えっと、ほらよっと」
◼️ルール3
参加者は全部で15名存在する。プレイヤーはお互いに協力し、または欺くことも視野に入れてクリア条件を達成することを推奨する。
「…よし。確かに。これで十分だ」
「マジ?どう見ても役立たずなもんにしか見えねーんだけど」
「まあ、無いよりはある方がいいんだよ。中身は後で吟味できる」
「そういうもんかね」
これで全てのルールが明らかになった。とはいえ、ルール3を得た感想としては予想の範疇に収まっていて判断を下すようなものではなかった。
(本当に基本ルールなんだな)
「それで、響っちや寧々っちはこっからどうすんのさ?」
「…今なんて呼んだ?」
「響っち?」
「──…いや、いい。なんか言うのも面倒だ…」
会って数十分だけの相手にいきなり『○○っち』などという呼び方をされるとは思っていなかった。「やめろ」と言えば聞きそうだが、ウダウダと文句を言いそうなのが目に見えるので諦める。
「お話、終わったん?」
「面倒なことはとことん俺に押しつけといて何してたんだよ…」
「面倒って…。なかなか酷くないっすか?」
「資料室の奥の方はきっちり見とらんかったから軽く確認を。ほとんど何もあらんかったけど…」
「ほとんどってことは何かあったのか?」
「おーい。お二人さん、無視っすか~?」
やかましいやつだな。こっちの話が終わるまでは黙っていてほしいんだが…。
「基本的なもんばっかりやったわ。食糧とか飲料とか」
「そうか。結局、本体は見つからずか」
「そうやね。まあ、無いってことは持ってかれてるいうことちゃう?」
「そうだな」
だが、だとするならなぜカギやマガジンを置いていったのか。これはいったい何を意味するのか。
「おい、刈安。お前はこのあとどうするつもりだ?」
「呼び捨てっすか。まあいいっすけど。しばらくは二人についていってみようと思ってますよ?」
「ついてくるのか?」
「何か問題ある感じ…あっ!なるほど、それは気がきかなかった感じっすかねぇ?」
「違ぇよ。ゲスい言葉吐いたら殴り飛ばすからそれ以上しゃべんな」
両手をあげて『参りました』とばかりに息をつく稲葉に響は苛立ちを隠すことなくため息をつく。
「…で、このあとはどないする?」
「とりあえず1階まで下りるか。その先は明日に持ち越す。今日はなんだかんだと精神的に疲れた。この状態で北館の攻略は荷が重い…」
「そうやね…。しっかり休んでから向かった方がええよね、北館は」
「なになに?北館って何かヤバイところなわけ?」
「そうだな。すくなくとも、この東館とは別の意味でヤバイだろうよ」
北館へ行けばいよいよこの《ゲーム》への本格参戦となるだろう。プレイヤー同士によるゲームクリアのための戦いが待っている。
☆
東館の1階まで下りると今朝休んでいた教室へと入り三人はそれぞれに教室内に散って眠り始める。
寧々は壁に背中を預けて携帯器機を起動する。そして、器機の下部を確認する。
「これが、コネクタやね。これに──」
ポケットから取り出したのは器機に繋げることが出来そうな端子のついた小さな機械のパーツのようなもの。器機の下部にそれを差し込むと画面にダウンロードするかの確認画面が現れた。
画面にタッチしてダウンロードを許可すると器機は何かをダウンロードしていく。バーが100%を示すと端子を外すように表示されたために端子を外すと『ルール』の欄が点滅していた。
『ルール』欄を開くと基本ルール6つの下に《Sルール》という新たな項目が増えている。
(これが、他のプレイヤーを出し抜くことに繋がる本当のルール…)
知らず知らずのうちに寧々は獰猛な笑顔を浮かべていた。