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プロローグ

なぜ人は罪を犯すのだろうか。

ふと、鏡を前に僕は思った。

少しばかり頭を捻り考えるも、出た答えは普段となんら変わりない。

『僕には関係ない』だ。

ここ最近、テレビでは犯罪やテロなどの事で色々騒がれたりしているが、当然僕は罪を犯したことがないから、犯罪者の気持ちなんて知らないし、分かりたくもない。

僕は、僕とその周囲が安全ならそれでいい。

僕は手に持っていた歯ブラシをカップに戻し、少し多めの水で口をゆすいだ――


それから僕は普段通り洗面所から出て、普段通りリビングに行き、普段通りテレビを付けて朝のニュースを確認する。

それが僕、白木しらき 憐斗れんとの日常だ。

だけど、その日は少し違った。

僕がリビングに出ると、テレビの前には先客がいた。

「父さん。珍しいね、父さんが家でニュースを観るなんて」

そう声を掛け、父さんの座るソファの近くまで行く。

「ああ。夜勤明けだからな。出勤までまだ少しある」

そう言うと父さんはコーヒーの入ったカップに口をつける。

「忙しくなるの?」

「そうだな。しばらくは忙しくなるだろうな。昨晩のテロで火がついたんだろ。ヤツら、各地で騒いでやがる」

「随分と迷惑な話だね」

「そうだな。まあ何にしろ、今は特に物騒だからな。憐斗、お前も外を歩く時は気を付けるんだぞ」

「わかってるよ。父さん」

僕はそれっぽい返事をし、テレビの方へ意識を向ける。

「また悪魔憑き(ローグ)の事件……」

70インチの画面には半壊した英国の宮殿が映し出されていた。くだんのテロ事件についてのニュースだと分かる。

「お前はああいう、人に迷惑かけるような人間にはなるんじゃないぞ」

「大丈夫、わかってるよ。父さん」

僕は荷物が入った鞄を手に取りながらそう言った。

リビングを出て、少し長い廊下を歩く。壁沿いに掛けてあるマフラーを手に取り、そのまま無造作むぞうさに首に巻き付ける。

僕はふと、父さんに言わなければならなかったことを思い出す。

「父さん、僕大学受かったよ」

僕はリビングまで届くように、少し大きめの声量で話す。

「そうか。頑張って立派な人間になるんだぞ憐斗」

父さんの口癖だ。

「わかってるよ。父さん」

父さんはいつも、僕に立派な人間になれと言う。

でも、平凡で頭もそこそこな僕が、父さんの言う立派な人間になれるはずがない。

現に僕は、中学も高校も父さんの言った理想通りにはいかなかった。

それでも僕は僕なりに頑張ってきた。たとえ父さんのようにはなれなくても、毎日の努力だけは欠かさなかった。

その努力が認められなくても。

小学生のある時、僕はテストで100点をとった。

小学生のある時、僕は学芸会で主役に選ばれた。

中学生のある時、僕はテストで学年一位になった。

中学生のある時、僕は生徒会長になった。

そしてある時、僕は気が付いた。

僕が何をしても、どんなに頑張っても、父さんは僕をめてはくれなかった。

それに気がついた時、何故か僕はとても無駄なことをしているように思えた。

父さんの言った理想、その通りの大学への進学が決定した今も父さんは僕を褒めてはくれない。

わかっていた。

父さんは僕なんかに興味はない。

でも、そんな僕も父さんには興味がない。


いってきます。僕はそう、小さく呟いた――


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