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狭いワンルームマンションの一室。
元々狭いのに加えて、足の踏み場もないほどに散らかったR18な同人誌が、さらに窮屈さを際立たせている。
テーブルの上には食べかけのコンビニ弁当が放置されており、酸っぱい臭いを放っていた。
「うわっ! お兄ちゃんの部屋汚なっ! 」
「分かっていたことだろう? 」
部屋のカオスな有様を見て、バックステップを踏みながら吠えた絵里奈に、伏見は額を押さえてニヒル(っぽい感じ)に言う。
「四日前に片付けたばっかでしょ!? なんで数日でこんなことになるのよ! 」
絵里奈がフーフーと荒い息をつきながら言うと、
「フン、力量差というものを理解しきれていないようだな」
「なんでお兄ちゃんはそんなに偉そうなのよっ! 」
どこか人をイラッとさせるようなふてぶてしい表情を張り付けた伏見に、絵里奈はご自慢のツインテールを逆立たせて、ご立腹です!とぷりぷり怒る。
伏見こと、榊原 伏見を言い表すに言葉はそんなに必要ではない。「煽りが得意なクズ」と言えば分かるだろうか。
歳は18、顔立ちは中性的で整っており、体格はやや小柄でスラッとした細身。
人をくったような不遜な表情を常に貼り付かせている。
学校へは一応通っているが、不登校がちで学校に顔を出すのは1ヶ月に数回の頻度である。
一方の榊原 絵里奈は苗字で分かるように伏見の実妹で、中学三年生。
妹というポジションでありながら、姐御肌という言葉が良く似合う出来た人間で、教員や生徒からの信頼が厚い、眉目秀麗な美少女である。
「……しかし、無理はしなくてもいいんだぞ? 業者を呼べば万事解決。俺の居城はあっという間にピッカピカだ」
清掃会社のサイトが映し出されたスマホを「ほう」と感心したように眺めながら言う伏見、
「その業者さんに払う費用は誰が払うと思ってんのよ! 」
「マミー」
ゲシッと鈍い音を立てて伏見の脇腹に、絵里奈のハイキックが綺麗に突き刺さる。思わず伏見は膝をつき脇腹を押さえて蹲ってしまう。
「お兄ちゃんってば本当サイッテー!」
絶対零度の視線を寄越す絵里奈に、伏見は涙目で妹の顔を見上げた。
「い、いも、うとよ。今のは、流石に……お兄ちゃん、い、たかったぞ」
「うるさい! 掃除するから出てって!」
怒髪天の絵里奈は、痛みで腹を抱える伏見を容赦なく部屋から放り出した。