苦味
人はいつか死ぬ。そんな事は分かっていた。
でも、さすがにこれは早すぎるんじゃないか。
ねえ、と声をかけてみてもピクリとも動かないその瞼。
彼の頬が青く冷たくなり、鼓動は完全に止まってしまっている。
それがあまりにも早すぎて触るのすら怖くなった。
「まったく…」
ポケットから取り出した、萎れた四つ葉のクローバーを眺めながらため息をつく。
『見ろよ章一、ほら』
『何ですか、草なんて摘んじゃって』
『俺、最近ツイてるんだよな。この分だと、営業成績が上がるかもしれねぇな』
意外と子供みたいな彼の、妙に嬉しそうだった顔が可笑しくて僕が笑うと、あなたは拗ねたように僕の肩を一発殴った。
「どこがツイてるんだか…」
辛うじて形を残しているその草をパクリと口に入れると、微かな苦味が広がった。
彼の口にキスをし、冷たい口に僕の不満と粉々になった苦いだけの幸せを流し込んでも、もう君は怒っても笑ってくれなかった。