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アイツが、黒山杳が俺の目の前で飛び降りた。
別れて、友達に戻ったはずだった。
その間に、部活や、家族や、バイトで何かあったらしい。
学校で見るあいつは、表情を作っているように見えた。
突然、杳は俺を呼び出した。
「さいごのおねがい」と言って。
今でも思う。
なんで助けられなかったんだろうって。
別れた後、アイツが怖くてたまらなかった。避けていたら、いつの間にかあいつは壊れていた。
何かが壊れた笑みを浮かべ、俺を待っていた。
いつまでも頭から離れない。
泣きながら笑う、杳の顔が。
1ヶ月後。とある雨の日。
俺は子猫を拾った。
泥まみれで、ずぶ濡れで、震えていた。
いつもなら関わらないようしていただろう。
何故か、助けたくなった。
なんとか母さんを説得して、家でしばらく預かることになった。
とても小さい上、存在感がほぼ無かった。
泥だらけの体を洗ってやろうにも、逃げ回って隠れてしまうから、洗えなかった。
2~3日後、やっと触らせてくれた。
とてもおとなしい猫だった。
風呂で固まった泥を落として、綺麗に洗ってやった。
真っ黒で艶のある毛並みに、青空のような目の色の、とても綺麗な猫だった。
「ほんとに拾ってきたのよね?盗んでない?」
「なに、俺のこと疑ってる?拾ってきたんだけど。」
人物紹介
黒山 杳 クロヤマ ハル
学校で飛び降り自殺した女子生徒。高校2年生。五人家族。
河本 一優 カワモト カズマ
飛び降りの目撃者。高校2年生。母子家庭。