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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人の皮を被った悪魔のような犯人

作者: 湖城マコト

「酷いな……」


 殺人事件の現場へと足を運んだ生田いくた刑事は、被害者の姿を目の当たりにし眉を顰めた。死体に慣れていない若手時代なら、間違いなく嘔吐していただろう。

 成人男性と思われる遺体は、後頭部を中心に大きく欠損し、本来の頭の形を半分程度しか留めていない。これだけでも十分異常だが、何よりも特徴的なのが――


「お疲れ様です。生田さん」


 先に現着していた今年配属されたばかりの若手――西にし刑事が合流する。


「また例の奴か?」

「……はい。被害者の遺体からは、脳が持ち去られています」

「ブレインハンターか」


 世間を震撼させる連続猟奇殺人事件。これまでに8人の犠牲者が出ており、今回も同一犯の犯行ならば被害者は9人目ということになる。

 正体不明の殺人鬼――通称『ブレインハンター』

 その名は、被害者の頭部から脳だけを持ち去るという異常な行動に由来している。

 猟奇的な行為を示すことによる警察への挑戦、脳を食すことを好む狂気の美食家など、脳を持ち去る理由には様々な説が唱えられているが、真相は犯人のみが知るところだ。


「人間って、ここまで残酷になれるんですね」

「ああ、まるで人の皮を被った悪魔のような奴だ」


 今回の事件の犯人ほど、この表現が似合う奴はいないだろうと生田刑事は思う。


「必ず手錠をかけてやる」


 生田刑事の正義感が、そう強く心に誓わせた。

 こんな危険な奴を、これ以上、野放しにはしておけない。




 二週間後。事件は急展開を迎える。

 

 警邏中だった警察官が、人気の無い公園から発せられた悲鳴を聞きつけ急行。そこで、世にもおぞましい光景を目の当たりにする。

 現場には二人の男の姿あり、うち一人は後頭部を欠損した遺体となって地面へと伏し、犯人と思われるもう一人が、遺体から素手で脳を取り出していたのだ。

 警察官は動揺しながらも果敢に犯人の確保に挑んだが、犯人は取り出した脳を手にしたまま、軽やかな身のこなしでその場を逃走。

 すぐさま緊急配備が敷かれ、犯人確保のために100人を超える警察官が現場周辺へ投入される。その中には、生田刑事と西刑事も名を連ねていた。




「待て!」


 犯人と思しき人影を追っていた生田刑事は、西刑事と共に路地裏を駆けていた。

 犯人の異常性を考慮し、拳銃の携帯許可も下りている。


「西、お前は右から回れ」

「分かりました」


 別れ道で二手に分かれる。この道は先で合流するので、上手くいけば犯人を挟み撃ちに出来るはずだ。


「しっかりとその面を拝んでやるよ」


 この異常な事件を今夜で終わらせてみせる。生田刑事の瞳には強い覚悟が宿っていた。

 

 だが――


「やめっ! あああああああ――」

「西! 何があった!」


 突如として進路から聞こえて来た西刑事の悲鳴。ただ事ではない。


「西……」


 二つの道が合流する地点に駆け付けた生田刑事は、変わり果てた姿となった西刑事を見て言葉を失った。

 うつ伏せに倒れた西刑事は、後頭部が大きく抉れていた。

 すぐ側には犯人らしき若い男が立っており、あろうことか――


「食ってるのか……」


 犯人は西刑事の抉れた後頭部に躊躇なく手を突っ込むと、手づかみした脳をそのまま口へと運び、満足気に粗食し始めた。

 とてもこの世の光景とは思えない。カニバリズムなどという言葉で片づけれない程の異常さを、生田刑事は目の当たりにしていた。

 吐き気が食道を刺激しているが、吐き出すのは全てが終わってからだ。殉職した西刑事のためにも、今は目の前にいる異常な殺人鬼を確保しなければいけない。


「動くな!」


 粗食を続ける犯人に、生田刑事は銃口を向ける。


「この悪魔め!」


 西刑事を失ったことに対する悲しみ。遺体を弄ぶ犯人の残忍さ対する憤り。様々な感情が、怒号となって生田刑事の口をついた。


「よく分かったね」


 生田刑事の言葉に反応を示した犯人が、唐突に粗食を止めて振り向き、脳漿と血液の滴る口元で愉快そうに笑った。


「ふざけているのか?」

「ふざけてなんかいないよ。これは事実さ」


 脳に混じっていた頭蓋骨の欠片を吐き出すと、犯人は思わぬ行動に出た。


「証拠を見せようか」

「何を――」


 唖然とする生田刑事の前で、犯人は自らの右頬に爪を食い込ませると、皮膚をまるでビニールのように軽々と裂き、切れ目から両手で上下に皮膚を破り捨てた。


「何なんだ、お前は……」


 破り捨てられた皮膚の下から現れたのは、血走った赤い目をした山羊のような頭部。素顔を晒した瞬間に、頭皮を突き破って二本の大きな角も出現した。

 それはまさに、人間のイメージする悪魔の姿に近いものであった。


「君が言ったんだろ。悪魔めと」

「そんな……あ、悪魔なんて」


 目の前に立つ非現実的な存在に、生田刑事は完全に委縮してしまった。拳銃を握る手は震え、極度の緊張による動機と息切れが体を支配する。


「丁度いい。そろそろ新しい顔が欲しかったんだ」


 不敵に笑う悪魔は、黒々とした両手で生田刑事の頭をがっちりとホールドした。


「な、何を……」

「君の皮を貰うよ」


 ――まさかこいつ、本当に……


 悪魔の目が怪しげな光りを放った瞬間、生田刑事の意識は消失した。




 数時間後。

 路地裏で二つの遺体が発見された。

 一人は犯人の確保に向かっていた西刑事と特定。

 もう一人は全身の皮膚が剥ぎ取られた惨たらしい状態で発見され、身元はまだ特定されていない。

 警察は現在。逃走した犯人及び、行方不明となっている生田刑事の捜索に全力を上げている。




 了

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