1話 そこには、家族がいて・・・
「 なぜ俺がここにいるんだろう。」
ベッドの上でそう考えていた。
実家にはここ10年間は帰っていない。と言っても別に勘当されたというわけではなく、自分から行くのをやめていたのだ。
俺の親は底が無いのではと錯覚してしまうほど優しい。俺が引きこもっていた間も毎日話しかけてくれて、それだけで心の支えになっていた。
優しい、だからこそ会いたくないのだ。きっと今の俺を見たら間違いなく心配させるだろう。これ以上親に迷惑をかけたくない。
それなのになぜ俺は実家の自室にいるのだろう。考えても始まらない。先ずは部屋をでよう。
顔を洗いに洗面所へ、そこでまた俺は衝撃を受けた。鏡に映ったのは見慣れたおっさん顏ではない、若い男の顔だったのだ。
激しい動揺の後、この顔が昔の俺の顔だと判明した。俺はどうしようもないほどに疲れているのか。
「じゅーくーん!朝飯できたよー!」
台所の方から声がした。それが母さんの声だと言うことはすぐに分かった。
俺、宮澤淳士を『じゅーくん』と呼ぶのは母さんしかいない。もうわけがわからない。俺は食卓へと走った。
そこには俺以外の家族が全員揃っていた。父さん、母さん、妹の昌美。
10年ぶりの家族揃っての朝飯。俺は不意に泣いてしまった。
ずっと錯乱していた俺だったが、朝飯を食べたことによって落ち着きを取り戻した。どうやらここは俺が高校生だった頃の実家のようだ。何が起こっているんだ?