勇者を辞めたいんだが死んだ母の霊が憑いてくる・続
前回の話にブックマークや評価を頂きありがとうございます。
需要があるのかと勘違いして書いてしまったので良かったらまた読んで頂ければと思います。
前話のあらすじ
勇者の啓示を受けたら死んだ母の霊が現れた。
王城からの旅立ちは最初から崩れた。
なんと母が霊となっており、憑いてくるというのだ。(誤字に非ず)
冗談ではない、ようやく母から開放され、王国からの対応に自分の自由を得たと思ったのに。これじゃあ昔に逆戻りじゃないか!
当初、協会に赴きこの呪縛から解き放てるよう試みたのだったが、
「神父様、私の母がどうやら父なる神の元へ導かれていないようなのです」
「君は……勇者殿ではないですか、私には見えませんがきっと勇者殿の事が心配で見守っていてくださるのでしょう」
つかえねぇ~~よ神父、迷える御霊を送ってくれよ!
『リュート、私の事は気にしないで。一日でも早く魔王を倒してくれればそれでいいから』
母がなんか言ってくるが、俺が気にするっての。
次は墓地だ。
先祖代々線香でお祈りすれば成仏してくれるってのが決まりだろ。
「んーと、どこだっけかな?」
『リュート、何探してるの?』
なんか聞いてくるが無視、自分の墓を探してるとか流石に言えんがな。
「お、ここだ。」
丁寧に掃除された墓石に小さいが、ちゃんと季節の花が添えられた父母の眠る墓がある。
まぁ、父は入っていないし、母は今後ろに憑いて来てるが……
「………」
『お父さんに出発の挨拶に来たのね、えらいわリュート』
欠片も成仏しようとしません、尚且つ心が少し痛いです。
『でも、なんで蚊取り線香なの?』
これしかなかったんです。
最後の手段、実家に置いてく
「じいさん、挨拶終わった」
「おお、そうか。リュート、息災にな」
母が亡くなってからすっかりと変わってしまった祖父に、とりあえず王城を後にしたことを告げる。
そう、祖父は俺を「一人で育てなければいけない」という重圧に………
ますます勢いづいてしまい、元からあった魔法の素養は勿論の事、武道家の資質まで見出してしまった。
現在『魔闘家』という世界で一人しかいない新種の職業についている。
ジジイ、もうお前が魔王倒しに行けよ!
年も年だから、旅には体が耐えられないとか言ってるが絶対嘘だと俺は思う。
『お義父さんに挨拶に来たのね、こういうのは大事だものね』
「おお、リリアさん。リュートの旅立ちの見送りに来たのか?」
『いいえぇ、身軽な身になったので憑いて行こうかと。まだまだ子供ですから』
「そうだのう、まだ15じゃしのう」
「おいおいおいおいおいおいおいおいおい!!ジジイ!なんで幽霊と普通に会話してくれちゃってるんだよ?!」
マジでありえんから!なんで何事も無い様に受け入れちゃってんのよ?!
「ん?話せて見れるんじゃから何も問題なかろう?」
『そうよ、触れはしないけどね?』
「『あははははははははははははは」』
笑うトコじゃねえだろうが!
「そ、そんでよ、流石に憑いてくるってのは……」
『まぁ、完全に憑いちゃってるから、それ以外に選択肢ないんですけどねぇ』
「そりゃあ、憑いていく以外にやる事無いのう」
「『あっはははははははははははははははははははは」』
だ~か~ら~!
笑って済ませて良い問題じゃねえだろうがぁ!!
あ、リリアってのは母の名前な。
その他にも、なんとかまこうと色々手を尽くしたが、霊である母からは結局逃げ出せなかった。
で、もう母が憑いてくる事は諦めた。
色々やった過程で分かったんだが母はある程度の力量がないと見えないようだ。
現に仲間にしようとした者達は誰一人として見る事が出来なかった。
そう、『見る事が出来なかった』んだ。
力量がないのは別に良い、これから強くなれば良いんだから。
しかし、職安で紹介してもらった奴らが次の日になってすぐに去って行った。
奴らは共通してこう言っていた。
「女が枕元に立って何か言いたげに、ずっとこっちを見てるんだ。」
母よ!なんて事をしてくれるのだ?!
『え~、弱い子には母さん見えないから枕元に立ったんだけど、それでもまだ聞こえないようだったから「リュートをよろしくね~」って
念を送ってただけよ?』
そのおかげで一人旅になったんだけど?
『リュートのお父さんだって一人で旅立って行ったんだから大丈夫よ』
一人で旅立って死んだんだよね?
大丈夫の欠片もありゃしないんだが……
『今回は母さんもいるんだから大丈夫よ』
保護者同伴の魔王退治なんて聞いた事ないんだけど?
てかマジで魔王退治しなきゃならんのかよ。
しょうがないからそのまま旅立ったんだが---
これがまたとんでもない逆境に落とし込まれた。
まず野営。
母が寝る必要ないから夜番をやってくれると思ったんだが、その間逆だった。
むしろ魔物を呼び寄せに行ってやがった。
『夜寝てる時だって、いつ敵が襲ってくるか分からないんだから。その訓練よ』
だからって連日連夜こんな事されてたら、強くなる前に死んでしまうと思うのは俺だけじゃないはずだ。
朝方から昼過ぎまで睡眠を取る事にして野営はなんとかする事にした。
気のせいか、道中行く先々で待ち伏せにあった。
何故だ?!
『ちゃんと準備してる魔物をやっつけた方が強くなるわよね?』
お前のせいか!!!
くっ、何故この辺りの奴らは毒ばっかり使うんだ。おかげでもう薬が残ってないぞ。
『最後に外傷系の毒を訓練する予定だったけど、母さん死んじゃったから出来なかったものね……』
母さん……
『だから今のうちにやっとこうと思って母さんがこっそり魔物に教えてあげてきたの』
またお前か!!!!!!
ようやく村に着いた、安全に寝れるし道具の補給もせねば、あれ?財布が……
『あ~、疲れた』
ん、母よ。どこに行ってたのだ?
『リュート、聞いて聞いて母さん軽い物なら動かせるようになったのよ』
ほう、それはよけいな災難が増えそうなので、あまり歓迎は出来ませんが。
『それでね、さっき孤児院があったからお金全部置いてきたの』
もう仕出かしてたぁ!!!!!!!!!
村でも俺の野宿が決定した。
そんな事で俺の旅は食料を調達しつつ、薬草を採取し薬を調合、寝る時は常に野宿、そんな感じになっていった。
本当に俺は勇者として旅立ったのか?
それで母なんだが、どうやら魔物でも高位のならば見えるようでそれを利用し魔物に情報を流していたらしい。
なんで今そんな事を言うのか?
ここは魔王の神殿なんだけどね、なんかねウチの母を象った像が飾られてるんだ。
聞いた所によると勇者の動向、弱点、妨害をしてくれる勝利の女神様という事だそうだ。
確かに!!
まあそれはまだ納得がいく。
この状況は全くもって飲み込めん。
「くっ、女神様を人質に取るなど。貴様それでも勇者か?!」
こう俺を罵ってくれてるのは魔王サンです。
魔王の間まで来たのはいいんだけどさ、俺の後ろにいる母に驚いて魔王が言ったセリフがさっきのだよ。
女神が人質に取られてると思ってる魔王さん。
「く、女神様を人質にされては……」
なに、この展開?
しかし、今がチャンス!勝てば官軍じゃぁ!!
「ぐあ、最初のダメージさえなければ」
ふう、なんとか倒せそうだな。
『せっかく鍛えたのにもったいないじゃない、もうちょっと頑張りましょうよ』
は?今母が魔王に投げたのは俺の会心の出来の回復薬じゃぁ……
「おおおおぉ!女神様の祝福があれば負けはせん!!」
『頑張って~』
お前本当にどっちの見方なんだよ!!
「貴様を倒し女神様を開放する!」
だから何なんだよこの展開はぁ!!
「が、やはり駄目だったか、申し訳ありません、女神様……」
ようやく倒したか、マジで死ぬかと思ったんだが。
『リュートは母さんが思ってたよりもずっと強くなっていたのね』
お、エンディングか?
『立派になったリュートを見て母さんもう何も思い残す事はないわ』
母がの姿が段々透けていく。
『リュート、元気でね』
そしてとうとう見えなくなった……
いない?
本当に?
マジで?
開放されたのか?
うおおおおおおおお!!!!俺は自由になったんだ~~~~~!!!!!!!
帰ったら家にいました。
こんなこったろうと思ったよ!!
『俺の死んだ母がいつまでも憑いて来る』