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あまり良くない知らせだった。
黒いタートルネックの長袖、擦り切れたジーンズパンツに赤い口紅、グロスたっぷり。髪は塗ったような栗色で、艶が無い。年の頃は二十と少しくらいだろうかそれ以下か。彼女は、まるでコンパスのように長く細い足を器用に折りたたみ、小さく部屋の隅に座っていた。
部屋は四畳半くらいであろうか。いささか生活感が見える室内は、まだ四時半だというのに暗い。明るい緑色の畳が、豆電球の光に照らされている。
そして彼女の目の前には、塗装のやや剥がれた型の古い携帯電話が置かれていた。これもまた、黒い下地に赤いラインが一本だけ引かれていて、栗色のキャラクターキーホルダーがつながっている。
「一時間。」
まるで口から誤って零れ落ちてしまったかのように単語を漏らす。見かけによらず声は低めで、すこしつぶれている。大きなため息を吐いた後、下唇を前歯で噛みながら眉間に皺を寄せた。あろうことか、前歯にはくっきりと赤い色がついてしまい、ねちゃあ、としたグロスの味が舌を麻痺させた。
その表情のまま、薄目で壁掛け時計を確認する。カチコチという音はたてるのに、秒針はさっぱり動かない不良品の時計。彼女はそれを恨めしそうに見つめると、なにかを決意したように素早く立ち上がった。そして大手衣料品店で買った、誰もが持っていそうな黒いパーカーを羽織ると、ジーンズパンツのきつい尻ポケットに無理矢理財布と携帯を突っ込むみ、赤いスニーカーの踵を踏み潰しながら鍵もかけずに足早に部屋を出て行った。