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8.三姉妹の関係

8.三姉妹の関係


 玄関に脱ぎ捨てられたスニーカー。有紀も早紀もスニーカーは殆ど履かない。しかし、勇馬のものにしてはサイズが小さい。

「まさか!」

 早紀が居間に駆け込むと、案の定だった。いつもは有紀と勇馬が居ちゃついているソファーにどっかと腰を下ろしてタバコをふかしている女。平瀬家の三女、麻紀だった。

「あっ、お姉ちゃんおかえり。今、ちょうど勇馬がメシの支度をしてくれてるんだ」

 早紀に気付いた麻紀は慌ててタバコをもみ消し、その事実をごまかすように早紀に声を掛けた。

「あんた、まだタバコ吸ってるの?止めなって言ったでしょう!」

「吸ってないよ。ちょっとふかしただけ」

 キッチンの方を見ると、勇馬が何か作りながら手招きをしている。早紀が勇馬のところへ行くと、勇馬は早紀の肩に手をかけ、カウンターの陰に隠れるようにしゃがみこんだ。

「あの子が君たちの妹なのは解った。けれど、僕はああいう子とは接したことが無くて、正直手に余る。しかも、有紀に連絡したらこんなメールが帰ってきた。これってどういうことなんだ?」

 勇馬の携帯に表示された有紀のメールを見て早紀は苦笑した。


 平瀬家において三姉妹の評判は三人が子供の頃からこうだった。天真爛漫な有紀にしっかり者の早紀。そして、いつも早紀の後をついて回る金魚のフンのような麻紀。 麻紀は小さいころから早紀になついていて、どこへ行くのにも付いて回っていた。有紀もそんなまきを可愛がっていたが、麻紀は有紀とはあまり口を聞かなかった。

 ところが、中学に入ってから麻紀の性格がガラッと変わった。麻紀は公立の中学に通った姉二人と違って私立の中学にに入ったのだが、素行が悪いと噂されているような連中と付き合いだしたのだ。必然的に服装や言葉遣いも変わってきた。有紀はそんな麻紀を毛嫌いするようになり、家に居ても顔を合わせることもしなかった。けれど、早紀はそんな麻紀にいつもと変わらず接し、しょっちゅう説教をしていた。麻紀も早紀の言う事だけはよく聞いた。


 そんな麻紀が突然やって来た。有紀が返したメールの内容にも頷ける。

「私が何とかすると伝えて」

 早紀は悠馬にそう言うと居間に戻り麻紀の隣に腰を下ろした。

「おやじと喧嘩でもしたのか?」

「ご名答!まったく、あの親父ったらやってらんないよ」

「何があった?」

 聞けば服装のことで母親が学校に呼び出されたと聞いて怒鳴られたのだと言う。そんなことは最近の平瀬家では日常茶飯事なのだが、今回は付き合っている友達のことまでケチを付けられたと言うのだ。

「それで家出してきたのか?」

「そこまでじゃないよ。ちょっとお姉ちゃんの顔が見たくなっただけ」

「そうか。じゃあ、この後はどうすんだ?」

「メシ食ったら帰る」

「まあ、そう慌てるな。もう遅いし、家に電話してやるから今日は泊まって行け」

「えーっ!」

 声がしたのはキッチンからだった。何とかすると聞いたから、上手く言いくるめて帰ってもらうのかと思っていた勇馬が泊めると聞いて、思わず声を出してしまったのだ。

「いいから、私に任せて」

 早紀はそう言って、勇馬を睨みつけた。

「勇馬のメシも悪くはないが、面白い店があるから出かけよう」

 早紀はそう言って立ち上がった。







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