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6.美人のお目当ては

6.美人のお目当ては


 早紀の帰りが遅くなると聞いて有紀は早速ご飯をよそって席に着いた。

「早く食べましょう!」

 ミートローフに手を伸ばす。一口頬張る。

「このハンバーグ美味しい!」

 たいそう、ご満悦な表情で食事をする有紀を眺めながら、勇馬も食事を始めた。


 マスターは早紀の疑問に答えるべく、自分のキャリアについて話し始めた。

 もともとは、一流ホテルで料理長まで務めたのだと言う。その後、独立して始めたのがこの店だったのだが、美味い料理に場所は関係ない…。はずであったが、さっぱり客が入らず、三年前に今のスタイルに変更したのだとか。

 オープン当時はそこそこ繁盛していたらしい。奥さんと長男と三人でやっていくつもりだったのだけれど、手が足りず、ウエイトレスとして二人のアルバイトを雇ったと…。


 どおりで居酒屋らしからぬメニューがぽんぽん出て来るわけだ。そう言えば、長男が店を手伝っていたと言ったなあ…。なるほど、料理のプロだったわけか。まあ、その後は長話になりそうだったので、頃合を見計らって話題を変えた。

「ねえ、早紀ちゃん、こちらの方はずいぶんとおとなしいんだねぇ」

 そう言えば、加奈子のヤツ、この店に来てから一言も喋ってないなあ…。なにも、イメージが壊れるからって、気にしているわけでもあるまいし、それに、目当ての三男坊もまだ顔を出してないのに。具合でも悪いのかなあ…。そう思って加奈子の方を見たのだけれど、すこぶる元気そうだった。

「マスターって素敵ですね」

 加奈子が突然口を開いた。血色がよく見えた顔色の正体は“照れ”だったらしい。てっきりイケメンの三男坊が目当てなのだと思っていたら、こっち?


 食事が終わると、有紀は後片付けをする勇馬の背中に張り付いた。

「ねえ、お風呂に入ろうよ」

 有紀と勇馬はいつも一緒に風呂に入る。昨夜は早紀に遠慮して別々に入った。有紀は悠馬と一緒に風呂に入ることを好んでいる。風呂でするのが一番感じるのだと言う。風呂で上り詰めると、ベッドではしない。勇馬はどちらかというと、ベッドの方が好きなのだが、有紀の好みを尊重している。

「もう少し待って。片付けちゃうから」

「早くしないと早紀が帰ってきちゃうよ」

 有紀はそう言いながら、勇馬のズボンの中に手を突っ込んだ。勇馬は振り返り、有紀を抱えて風呂場へ向かった。


 今日は三男坊は店に顔を出さなかった。早紀は少し残念だと思ったが、マスターと加奈子のやり取りを見ているのはなかなか面白かった。加奈子は後ろ髪をひかれる思いで終電に乗るため、一足先に店を出た。

「じゃあ!また、追々聞かせてくれる?何しろ、マスターは私の親戚なんだからね。そう言えば、マスターの本名って…」

「ちょっと待て!親戚って何のことだ?」

「えっ!知らないの?おたくの長男坊とうちのお姉ちゃん、結婚してるんだよ」

「えーっ!!」

 驚いて腰を抜かすマスターを尻目に、早紀はいそいそと店を出た。









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