2.飲まなきゃ居られない
2.飲まなきゃ居られない
早紀が目を覚ますと既に外は暗くなっていた。外からは有紀のはしゃぎ声が聞こえる。早紀はバルコニーに出て庭を見下ろしてみる。有紀と勇馬がバーベキューの支度をしている。有紀が早紀に気付き、手を振った。
「起きたの?勇馬さんが早紀の歓迎会をやろうって言うからバーベキューをすることにしたの。早く降りておいでよ」
全くいい気なものだ。結婚したって?しかも、今日?
確かに有紀は子供の頃から何を考えているのか解らないところがあった。おっとりしているのだけれど、いつの間にかやることはちゃんとやっている。夏休みの宿題にしてもそうだった。三人姉妹は同じ部屋だったのだけれど、早紀は有紀が宿題をしているところなど見たことがなかった。けれど、最終日に早紀と三女の麻紀が必死に宿題をしているのに、有紀だけはちゃんと終わらせているのだ。早紀も麻紀もそれが不思議でならなかった。
早紀が庭へ下りていくと、有紀がそばに寄ってきて、耳元で囁いた。
「あのね、このことはお父さんとお母さんには内緒にしておいてね」
「はあ?このこと?」
「だから、私が結婚したことよ。とは言ってもまだ籍を入れた訳ではないのだけれどね」
「お姉ちゃん、おかしいよ。私はこれからどうすればいいの?あんな見たこともない男と同じ家に住まなくちゃならないのよ」
「あら、勇馬さんはそんなに気を使わなければならない人ではないわよ」
「そう言う問題じゃないでしょう!」
早紀は額に手を当てて暗くなった空を見上げた。
「おーい、そろそろ食べごろだよ」
勇馬が二人に声を掛けた。どうやら肉が焼けたらしい。その時、不覚にも早紀の腹がグーゥと鳴った。
その日の夜、早速母親から電話がかかってきた。電話には有紀が出たが、早紀のことは心配いらないから安心して任せてなどと話している。母親に代われと言われたらしく、早紀に受話器を差し出したが、早紀は話をする気になれなくて首を横に振った。そんな早紀を気遣ってか、勇馬が声を掛けてきた。
「家のことは何もしなくていいからね。あっ、洗濯だけは自分でしてくれる?それから、朝は何時に出掛けるのかな?お昼はいつもどうしてる?必要ならお弁当を用意するけど?」
等々、勇馬はこの家の使い勝手を一通り早紀に説明して聞かせた。
「ここから会社に通うのだと、朝は7時には出たいわ。それに、お弁当はあればうれしいけど…」
早紀はつい、返事をしたのだけれど、この勇馬と言う男、益々訳が分からない。こいつはいつからここに住んでるんだ?
早紀は有紀がここで暮らし始めてから、学校が休みの日には何度も泊まりで遊びに来たことがある。勝手知ったる何とやらで、今更家のことをどうこう言われるまでもない。早紀は風呂に入ると、湯船に浸かって体を精一杯伸ばした。ここの浴槽は大きくてゆったり入れるのでいつも長風呂になってしまう。
「新しいバスタオル置いておくよ」
突然、勇馬が浴室のドアを開けて早紀に声を掛けた。
「きゃーあ!」
早紀は浴槽の端に丸めてあった蓋を思いっきり勇馬めがけて投げつけた。
早紀が風呂から上がると、有紀が勇馬のおでこに絆創膏を貼っていた。
「ねえ、早紀ちゃん、女の子がはしたないわよ」
「ふざけるな!女が風呂に入っているところを覗くやつに罪はないのか!」
「まあ、早紀ちゃんったら、それは勘違いよ。勇馬さんはバスタオルを届けた事を伝えただけ…」
有紀が言うか言わないかのうちに早紀はその場を離れた。
外はまだ肌寒い。早紀はスエットにパーカーを羽織っただけで家を飛び出した。確か、近くに居酒屋があったはずだ。
「今日は飲まなきゃ居られない」




