表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/39

16.うわの空

16.うわの空


 麻紀の引っ越し祝い以来、有紀と麻紀は妙に仲が良くなった。早紀だけがどことなくよそよそしい。

「有紀ちゃん、今日、拓馬が遊びに来るって!」

「まあ、それは大変!お掃除しなくちゃ」

 有紀はそう言って勇馬の方を見る。

「分かったよ。ちゃんとやっとくから早く行っておいで」

 勇馬が用意した弁当を持って、有紀と麻紀は揃って家を出た。早紀はそれを見届けてゆっくり席を立った。

「そんなに気にすることは無いんじゃないかい?本人が全く気にしていないんだから」

 そんな早紀に勇馬が声を掛けた。早紀は浮かない顔で何も言わずに家を出た。


 麻紀はあれから毎日のように“馬”に入り浸っている。未成年だからアルコールは飲めないし、家を出たのでお小遣いも貰っていない。だから、ただカウンターに座って拓馬を眺めているだけなのだけれど、たまに拓馬がソフトドリンクをご馳走してくれる。店がヒマな時はたまに厨房で料理を教えて貰ったりもしていた。

「麻紀ちゃんったら、拓馬さんに夢中なのね」

「あんなイケメン、そうそうお目にかかれないわよ。ジャニーズなんて目じゃないもの」

「それで、どうやって拓馬さんを口説いたの?」

「そんな、口説いたなんて…。店には毎日通っているけど」

「そう言えば、勇馬さんは長男で拓馬さんは三男でしょう?二男さんって、どこで何をしているのかしらねえ」

「二男?そう言えば見たことも、噂を聞いたこともないよね。今度、勇馬に聞いてみようよ」

「そうね」


 早紀は車で首都高速湾岸線を走っていた。助手席には加奈子が乗っている。後部座席には会社で扱っている商品が段ボールで6箱積んである。


会社に着いてもうわの空で仕事にも集中できずにいた。そんな早紀のところに上司が飛んで来た。

「平瀬君、これはいったいどういう事なんだ?」

 横浜へ送る商品が浦安へ届いて、両方の営業所からクレームが来ているのだと言う。納品の担当が早紀の名前になっていた。早紀には全く覚えがなかったが、商品名を見て「あっ」と思った。2日前に伝票を打ち込んだ商品がそれだったのだ。

「今からじゃ、運送業者の手配が間に合わないから、お前が取りに行って横浜まで届けろ!」

 そう言われたら、何も言い返すこともできない。上司は辺りを見渡して、手が空いていそうな加奈子に同行するよう付け加えた。


 加奈子がカーステレオにCDを挿入しながら言った。

「早紀のおかげで思わぬドライブが出来たわ。運転しているのが馬の助さんだったら最高なんだけどね」

「馬の助?それ誰?」

「あら、あなたに紹介してもらったのよ。ほら、あのお店のマスター」

 早紀は加奈子の横顔をみて、一瞬、寒気を覚えた。

「マジ?」

「うん」

 加奈子はそう答えると、スピーカーから流れてきた氷川きよしの曲を歌い始めた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ