13.引っ越し祝い
13.引っ越し祝い
早紀は運転に集中できないでいた。母親の言葉が頭から離れない。
「お姉ちゃん!」
麻紀の声にハッとして急ブレーキを踏む。危うく赤信号を見過ごすところだった。
「私が運転変わろうか?」
「何言ってるのよ。あんたまだ免許持っていないでしょう」
「仮免まで受かってるから大丈夫だよ」
「そう言う問題じゃないでしょう。ちゃんとやるから心配しないで」
「本当?私、まだ死にたくないなあ」
もうあと数キロで家までたどり着く。とにかく集中しよう。早紀は気を引き締めてハンドルを握り直した。
勇馬は実家でもある『馬』に来ていた。有紀は乗り気ではなかったが、麻紀の歓迎会をしてやろうと考えたからだ。早紀が来たときには庭でバーベキューをやった。またバーベキューでは早紀に何を言われるかわからない。そこで、『馬』を貸し切ってパーティーをやろうと、父親であるマスターに相談に来たのだ。
「貸し切り?大丈夫に決まってんじゃねえか。ちょうど、今日はいい肉が入ってんだ」
「いや、肉はいい。今日は寿司パーティーにしようと思う。ネタは何がある?」
「何って、河岸が休みだから、冷凍ものしかねえぞ」
「どれどれ…」
勇馬は冷蔵庫を覗き込む。
「これだけあれば大丈夫!」
そう言って、冷凍のネタをいくつか冷蔵庫に降ろした。
「じゃあ、後でまた」
そう言うと、勇馬は店を後にした。さっき、早紀から電話があったときに、母親と気まずい話になって、せっかく出前してもらった寿司を食べ損ねたと悔しそうに話していたのを聞いて寿司パーティーを思いついた。
家に着くなり、麻紀は居間のソファーにドカッと腰を下ろして、叫んだ。
「腹減ったよー!何かない?」
そこへ、待ち構えたようにパンケーキとパフェが出てきた。
「うわっ!勇馬って気が利くなあ」
「ちょっとあんた、何してんのよ!早く荷物を運びなさいよ」
麻紀の荷物を抱えた早紀が、文句を言うと、勇馬はもう一皿パンケーキを運んで来た。
「疲れただろう?荷物は僕が運んでおくから一休みすればいい。その代り運ぶだけだからね」
「サンキュー!助かる。ところでお姉ちゃんは?」
「部屋でいじけてるよ」
「いじけ?なんで?」
「気にしないでいいから」
一休みして部屋を覗いた麻紀は悲鳴を上げた。悲鳴ではないのだけれど、それに近い声で叫んだ。
「すげえー!何?この部屋。チョー気に入ったんだけど」
机に本棚に洋服タンス。すべて白を基調とした家具が置かれていた。
「元々この家にあった物さ。使われていなかった物だから、最初は建付けとか悪いかもしれないけれど、そのうち馴染んでくると思うから」
「この家の人って、何者?」
「なにも乗って、普通のお金持ちさ。それより、早く荷物の整理をしちゃいな。夕飯は『馬』で寿司パーティーだから。さっき、食べ損ねたんだろう?」
「イエーイ!勇馬、大姉ちゃんの旦那にしとくのがもったいないなあ」
そう言って麻紀はせっせと荷物の整理を始めた。
早紀は有紀の部屋を覗いた。有紀はひたすら折り紙で鶴を折っていた。有紀は不貞腐れると、鶴を何羽も折る。
「ねえ、お姉ちゃん、お姉ちゃんと私達とで何か違いがある?」
早紀の問いに、有紀はピタッと手を止めた。




