10.奇妙な生活の始まり
10.奇妙な生活の始まり
休日の朝は目覚ましを掛けずにゆっくり寝るのが早紀の週末の過ごし方だ。有紀は朝食の支度をしても起きてこない早紀を最初は注意したけれど、勇馬と二人っきりの朝食は甘い甘い時間だったので、すぐにそんなことはどうでもいいと思うようになった。
いつものようにゆっくり寝ている早紀が目を覚ましたのは、突然、上から何かが落ちてきた衝撃によるものだった。
昨夜、麻紀を自分の部屋に泊めた早紀はベッドを麻紀に譲って、自分はその横で床にタオルケットを敷いて寝ることにした。そして、朝になり麻紀がベッドから転がり落ちてきたのだ。
「うわあ!びっくりした」
麻紀が突然声を上げる。
「びっくりしたのはこっちの方だよ。早くどいて」
「あれっ!」
一瞬、状況が呑み込めず、辺りをキョロキョロ見回してようやく、麻紀は起き上がった。
「そっか…。泊めてもらったんだっけ?」
「それで、今日はどうする?」
「うーん…。取り敢えず、お腹空いたから朝ごはん!」
有紀と勇馬はまるで新婚気分で、まあ、実際新婚なのだけれど、お互いに「あーん」などと食べさせたり、食べさせてもらったり。そのたびに見つめ合ってキスをしたり。そんなところに本来なら現れるはずのない早紀が2階から降りてきた。しかも、麻紀を引き連れて。有紀は慌てて勇馬から離れた。
「あら、珍しいわね。お休みなのに、こんなに早く起きて来るなんて…」
冷静を装っているが、明らかに有紀は動揺している。早紀はそんな有紀が可笑しくてクスッと笑った。
「あれれ?お二人さん、朝からお熱いですね」
二人のことなどおおよそ知るはずのない麻紀がからかうと、有紀はあからさまに不機嫌な顔をした。そんな有紀の態度に勇馬はうろたえるばかりで、助けを求めるように早紀の方を見た。
「あ、言ってなかったけど、この二人結婚してるから」
突然の早紀の報告に麻紀はパニックを起こしそうになった。
「えー!なんで?いつ?親父や母さんは知ってるの?」
同然の反応だ。麻紀は顔をひきつらせて右往左往している。
麻紀はトーストにイチゴジャムを塗りながら、有紀と勇馬をジロジロ見ている。どうして朝食がパンなのか解らないなどとぶつぶつ言いながら。麻紀も早紀と同じで朝食は和食はなのだ。
「有紀ネェって相変わらず自分勝手なんだね」
こういう事を誰にも相談しないで勝手に決めてしまう。なのに、両親は何も言わずに機嫌ばかり取っている。長女だからということもあるのだろうが、子供の頃から有紀だけが特別扱いされているように感じていた麻紀は物心ついたときから、有紀を姉妹ではない別な存在として見るようになっていた。
「お姉ちゃんらしいじゃない」
早紀は有紀をかばうつもりで言ったのだけれど、麻紀には反対の意味に聞こえた。
「ねえ、私もここに住む。学校だってここからの方が近いし。部屋は2階の物置でいいよ。けっこう広いし、少し片付ければ何とかなりそうだし…」
「えーっ!」
声を出したのは三人同時だった。
「そんなのお父さんもお母さんも許さないよ」
有紀は声を震わせながら、そう言って遠まわしに拒絶するのが精いっぱいだった。
「そりゃあ、いいや。親父には私から話しておいてやるよ」
早紀は有紀とは逆に面白いからそれもいいと言って笑っている。
「冗談じゃないわ。そもそもこのお家は…」
「この際、はっきりしたルールを作ろう。それに従うなら考えよう」
有紀の言葉を遮るように勇馬が言った。勇馬にしては珍しく有紀に逆らうようなことを言ったので有紀も早紀も驚いた。勇馬には何か考えがあるようだ。




