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推しにお菓子の楽園を作っていたら、闇堕ち敵指揮官に執着されました~戦えない箱庭マイスターの、推し活スローライフ~  作者: おかかむすび


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2話.本物のドルチェル

「君が新しいマイスターなの? よろしくなのー」


 誰かに声をかけられた私は、ハッとするように意識が戻ってきた。

 はて。さっきまで、何を考えていたんだったかな。


 ま、いっか。忘れることは、大したことじゃないはずだ。

 それよりも、声をかけてくれた相手に返事をしなくちゃ。


「初めまして。私が新しいマイスターとして就任する、アマネです。よろしくね」


 マイスターってなんだ?

 自分でもよく分からないはずなのに、それが自分であるかのように受け答えをしてしまった。


 私の名前がアマネなのは、間違いないんだけど。


「僕は団子のドルチェルなのー」

「私はクッキーのドルチェルだよ」

「お団子君とクッキーちゃんだね。よろ、し……く……」


 ドルチェルって、どこかで聞いたことがある。というか、マイスターも聞いたことあるぞ?


 私は今一度、目の前にいる生き物をしっかりと見てみることにした。


 見た目は全長が15㎝程の、二足歩行をする人型生物だ。

 たどたどしい言葉を喋り、自分のことを『団子』や『クッキー』と自称する、ドルチェルなる生き物。


 お団子と名乗った方の子は、ぷっくり膨らんだ頬が特徴的。許されるならもちもちしたい。

 クッキーと名乗った方の子は、綺麗なきつね色の肌をしていて、元気いっぱいな感じだ。なでなでしたい。


「ほ、本物のドルチェルたちだ!」


 私は夢にまで見た光景を目に焼き付けながら、確信した。

 これは私が大好きすぎて全力で遊んでいた、『ロストスイーツ』というゲームの世界だと。


 私、マイスターとして転生したの? 本当にいいの?

 だって私、毎日家に帰ってはゲームを立ち上げて、この子たちを全力で愛でて推してたんだけど、それが今まさに目の前にいるよ?


 どうしよう! もっとお話したい! どんなことを聞こうかな!


 しかし、私の興奮はあるものを見て一瞬で消し飛んだ。


「…………」


 二人並んだドルチェル。その瞳に、かつてのゲームで見せた輝きはない。

 一人は力なく肩を落とし、もう一人は虚空を見つめたまま、まるでおもちゃの電池が切れたように無機質だ。


 今になって思えば、挨拶してくれた時に見せてくれた笑顔も、どこか張り付いたような、無理して歓迎してくれていたように思う。


 それに、よく見なくても二人はひどくやつれている。

 お団子君はまるで乾燥してしまった団子のように艶がなく、クッキーちゃんの肌は落としてヒビが入ったみたいにボロボロだ。


「……ごめん。辛いことを聞いても、良いかな」

「辛いこと?」

「なんだろー」


 私には、どうしてテレパシーがないんだろう。それがあれば、この子たちに嫌なことを喋らせなくても済むのに。

 でも、これだけは確認しないと私も動きようがないから……ごめんね。


「ここは、前哨基地であってるかな?」

「そうだよー」

「マイスターは、新しいマイスターなのー」


 ああ、この伝わりそうで伝わらない感じの会話、凄くいい。本当にドルチェルだ。


「二人は、えっと……道案内をしに来てくれてるで、合ってる?」

「そうだよー」

「戦うこともできるのー」


 うんうん。話を聞く感じ、やっぱり私が遊んでいた『ロストスイーツ』のメインストーリーにあった会話に近い。


 『ロストスイーツ』はいわゆるタワーオブディフェンスゲームで、前哨基地を守ったり、敵の拠点を壊していくゲームだった。

 ただ……。


「メインストーリーの攻略? 無理無理。私は推しを愛でる遊び方しか出来ないから」


 攻略センスが皆無な私は、残念ながらメインストーリーをクリアすることが出来なかった。

 最初の一面ぐらいはどうにかクリアできたような記憶もあるが、それもかなり昔のことなので、正直ほとんど覚えていない。


 それよりも私が全力で熱をあげていたのは、箱庭モードの方だ。


 箱庭モードでは、用意されている家具などを使い、マップを好きに飾る事の出来るものだった。

 メインストーリーではそれぞれ強力なユニットとして扱われていたドルチェルたちも、マスコットキャラクターとして箱庭の中に並べることができ、自由に動いているところを見ることが出来た。


 椅子の近くに行けば座ったり、ブランコをしたり、お店に並んだり……。

 それがとにかく可愛かった! メインストーリーをクリアしなくても全キャラ解放されていて、好きな見た目の子を並べたりして、それはもう楽しみまくった。


 しかもドルチェルたちはお菓子をモチーフにしているので、共通点のある子たちを並べると専用の会話を見れたり、意外性のある組み合わせの専用会話があったりで、それを探すのも本当に楽しかった。


 ボイスだけはなかったけど……それが今は、目の前にいる!


「二人とも、聞いてほしい」

「なになにー?」

「お話聞くよー」


 私はしゃがみこみ、出来る限り二人と視線を合わせて、宣言した。


「二人は一切、戦わなくていい。必要なものは全部私が揃えてくる!」

「え、いいの?」

「マイスター、大変じゃない?」


 そんな……そんな身体なのに、私のことを心配してくれるの? 嬉しい。嬉しすぎて涙が出そう。

 でも今は、二人は自分のことを大事にしなきゃいけない時だと思う!


「その代わり、全力でくつろいで、美味しいものを食べて、幸せになろう! それが私たちの目標で、どうかな?」

「幸せ……?」


 クッキーちゃんの言葉が胸に刺さる。

 幸せを感じたことがないなんて、そんなのあんまりだ。やっぱりこの子たちにまず必要なのは、戦うことなんかじゃない。


「仲間が捕まってるの。助けないとなの」


 この世界は、謎の敵によってお菓子が失われた。その時に人類のお菓子への想いがハートの結晶と呼ばれるものを生み出した。


 ハートの結晶はそれぞれのお菓子一つずつにあるんだけど、それすらに敵に奪われてしまい、人類の手元に残ったのは団子とクッキーだけだった。

 というのが、ゲームの一番最初のシナリオだ。


 まさに、お団子君が言った仲間というのは、ケーキやアイスなど、他のお菓子たちの核となっているハートの結晶のことだろう。


「大丈夫、任せて。それも私が、絶対取り返して見せる」


 他のドルチェルたちを見捨てるなんて、とんでもない。絶対に、みんなを幸せにしてみせる。


「でも、まずは二人の体調を万全にするところから、始めてみない? どうかな?」

「体調をよくする……」

「何をしたらいいの?」


 ドルチェルたちの状態が良くないのは、恐らくエネルギーが足りていないからだ。


「美味しいものを食べて、楽しいことをして、たくさん寝る!」


 体力が落ちている時にすることと言えば、まずはこれだと思う!


「美味しい物……団子?」

「違うよ、クッキーだよー」

「ええー、団子がいいのー」


 ドルチェルたちが言い合いしてる! なにこれ、すごい可愛い!

 そりゃあ、二人はそれぞれ団子とクッキーの精霊なんだから、自分の核となってるお菓子を一番おいしいと思うのは当然かも。


「じゃあ、お団子君には団子。クッキーちゃんにはクッキーを作るね!」

「いいのー? わーい!」

「やったー! 嬉しいー!」


 二人が初めて、本気で喜んでいる。これはもうやるしかない。

 そうと決まれば、必要なものを揃えていかないと。


「えっと、確かマイスターには支給品が……あったあった」


 ゲームの一番最初と同じように、マイスターには角砂糖が50個と錬金窯。それから、簡易浄化装置が支給されていた。


 角砂糖は、いわば万能材料である。これを錬金窯に入れることで、必要なものに何でも変換させられる。

 ただし、高価なものや大きなものは、当然それだけの角砂糖が必要になる。


 錬金窯もはっきり言えばチート級で、どんなものでも生み出せる。

 とはいえ、これも万能なわけではなくて、まずは素材を角砂糖に変換した後、角砂糖から別のものに作り替えなくてはいけないので、ちょっと手間がかかる。


 それと、作ったものを分解しても、同数の角砂糖が返ってくるわけではないところには注意だ。


 簡易浄化装置は、簡単に言うと人類の生命維持装置だ。

 実は、この世界は謎の敵による襲撃を受けて以来、人間が生きていける場所がほとんどなくなったという設定になっている。


 原因は、外に充満しているとされる瘴気のせいだ。

 これを長く浴びていると、人間は精神を汚染されるという非常に危険なもので、廃人になったり暴走して帰ってこない人になってしまうらしい。


「それじゃあ、この簡易浄化装置は置いていくね」

「いいのー?」

「どうしてー?」

「ここを最高の箱庭にするから、装置を置いていくのが合理的なんだよ」

「そっかー」

「そうなんだー」


 一か月ごとに瘴気の海が起きて、前哨基地が壊される?

 そんなことは、知ったことじゃない。


 何度も言うが、私はメインストーリーをクリアできなかったのだ。端から攻略なんてする気はない。


「タイムリミットが来たら。ドルチェルたちを連れて本拠地に撤退すれば大丈夫でしょ」


 世界の命運なんて、そんなものは二の次。

 今一番大事なのは、エネルギー枯渇を起こして疲れ切っている二人のドルチェルを癒すことだ。

お菓子は好き。でも美味しそうな食レポを文章にするのは苦手……。

だったらゲームシステムとしてその魅力を詰め込んでみよう、と思ってこちらの作品を書いています。

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