第四章 好きが世界を回す ― マニア資本主義の誕生
第四章 好きが世界を回す ― マニア資本主義の誕生
天野令己が買った宿屋は、いまや一つの街を越え、国を跨ぐネットワークになっていた。
それぞれの宿にはマニアがいて、狂気じみたこだわりで宿を進化させている。
ある宿では、風呂の湯加減を一秒単位で制御する温泉マニアが。
別の宿では、朝食のパンを「焼き音」で選ぶパン職人が。
また別の宿では、毎晩違う星座を投影する天文マニアが。
宿の名前はどれもシンプルに「AMANO INN」。
けれど、一つとして同じ宿はない。
王国の商人たちは不思議がった。
なぜ、あの宿だけがどんどん繁盛していくのか?
なぜ、従業員が辞めないのか?
なぜ、客が皆“笑顔で金を払っていく”のか?
答えは一つ。
金ではなく“好き”が動かしているからだ。
令己は気づいていた。
「給料のために働く人間」は、決まった分だけしか動かない。
だが「好きで動く人間」は、限界を超えて動く。
そして、“好き”を共有する人々が集まる場所には、自然と金が流れ込む。
令己は、マニアたちの経済圏を正式に名付けた。
マニア資本主義(Maniac Capitalism)。
理念はシンプルだ。
「好きに狂える人が報われる仕組みを作る」
AMANO INN の収益は、全員の“好き”に再投資された。
新しい宿の開発資金も、次のマニアの挑戦に使われた。
利益は循環し、誰も搾取されない。
そんな世界に、ある日、王国の財務大臣が視察に来た。
金貨を握りしめながら問う。
「天野殿、この仕組みは、利益を最大化するためのものではないのですか?」
令己は笑って答えた。
「違います。
これは“幸福を最大化する仕組み”です。」
財務大臣は理解できなかった。
だが帰るとき、宿の従業員全員が彼に手を振っていた。
その光景だけで、この仕組みが何を生み出しているのかを、彼は少しだけ悟った。
令己は夜、窓の外を眺めながら呟いた。
「好きが世界を回す。
それが本当の資本主義だ。」
遠くの山脈の向こうに、新しい宿の灯りが見えた。
マニアたちが今日も、好きなことをして、笑いながら金を動かしている。
その光景は、まるで**“情熱が貨幣になる世界”**の夜明けだった。




