第7話 恋の自覚?(柳瀬怜奈)
映画館の席につくと、私は心地よい疲労感を感じた。
デートが始まってから、短い時間だったけど、私の心は大きく掻き乱されていた。
昨夜、若松くんをデートに誘ってしまったという事実に気づいてから、ずっと落ち着かずにあまり眠れてない。
そんな状態で迎えた今日は、朝からずっとソワソワしていた。
目の下に隈はできていないかな、顔色は悪くなっていないかなって。
そうして、初めての男の子とのデートに不安を抱えたまま、若松くんと合流したのだけど、彼の姿は学校のものとは違った。
少し落ち着いた色あいの服装に、フワッと気持ちウェーブがかかった髪型をしていた。
彼の普段とは違う特別な格好は、正直かっこいいって思った。
そして、私にキレイだと言った時、彼は照れたように顔をそらした。女の子にそういった言葉を、言いなれていない様子がかわいいと思うと同時に、私までつられて照れてしまった。
女の子と関わり慣れていない様子を見せたかと思えば、既に映画の予約を済ませ、下調べもしてくれているというのだ。
今日を楽しめるように色々考えて、エスコートしてくれようとしていることに、少しドキッとしてしまった。
そんな自分の感情に戸惑っていたら、軽い冗談を言って、私の心を和ませてくれた。
なに? その大人の余裕、本当に同級生?
その後は、妙にソワソワした気持ちだったけれど、不思議と心地よくて、自然体でいられた。
映画館のグッズ売場で、栞を見つけた時。
彼はなぜか私とお揃いの物を買うのを遠慮していたけど、むしろ読書友達とお揃いの物を買えるのは嬉しいと思ったから、栞を彼に手渡した。
手渡したのはいいけど、若松くんに指摘されるまで、彼の手に触れていることに気づかなかった。
あまりにも若松くんと一緒いるのが自然すぎて、美羽たちと同じ様な距離感に、いつの間にかなってしまっていた。
あわてて手を離してから改めて思うと、美羽たち女の子の手とは違う、少しだけゴツゴツしたそれは、男の子なんだということを実感する。
一緒にいると落ちつくけど、ふいに男の子なんだって自覚させられて、ドキッとしたりと、私の心はとてつもなく揺さぶられた。
そんな落ち着かない状況にも関わらず、若松くんとの会話は楽しかった。
アニメが好きだなんて子供っぽいかなと、少し恥ずかしいなと思いつつも、それを伝えたら、彼もアニメが好きと言った。
ミステリー小説だけじゃなくて、アニメが好きなのも一緒なんだと思うと、より嬉しさが込み上げてきた。
気づけば、デート前に感じていた不安なんて微塵も残っていなかった。
あるのは、彼と過ごす心地よさだけだった。
映画の本編がはじまる。
ふと、横に座る彼を見ると、不思議に感じた。
あれ? 若松くんってこんなにかっこよかった?
駅で合流した時の彼は、普段よりもたしかにかっこよかった。
だけど、今見る彼は一段とかっこよくて、目が離せなくなる。
「柳瀬さん。どうしたの?」
急に彼がこちらを向いて、優しく微笑みながら小声で囁いた。
ドキッとして、私は言葉を返せずに首を横に振る。
彼は首を小さく傾げながら、スクリーンに視線を戻した。
私も正面を向いたけど、心臓の音がやけにうるさい。周りに聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい。
自分が分からない、なにこの感情? 今までに感じたことのないそれに、徐々に映画の内容から意識がそれそうになったその瞬間。
――ドン!
スクリーンから銃撃の音が聞こえてきて、一気に目の前の光景に引き付けられた。
物語上で事件が始まり、いよいよといった雰囲気が出てきた。そこからは作品へ釘づけになった。
さっきまで感じていた、よく分からない自分の感情は忘れてしまい、あるのはこれからどんな展開が待ち受けているのだろうかと、ワクワクした気持ちだけだった。
後になって思うと、この時から私の恋は、はじまってたんだと思う。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます✨
本作は今後、カクヨムにて先行公開していく予定です。
ページ下部にカクヨムへのリンクを貼っています!
更新情報はブックマーク通知、またはページ下部のX(旧Twitter)アカウントからご確認ください。
複数作品を投稿しています!
少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、
ぜひ下の『評価(☆☆☆☆☆)』ボタンをポチッとお願いします✨
感想やブックマークも大きな励みになります!