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第2話 ダメで~す

 俺は困り果てていた。

 夕飯を食べ終え、美羽と二人でソファーでくつろぎながらテレビを見ている。


 それはいいんだけど……


「なあ、美羽」


「ん~、なにお兄ちゃん?」


「こんな格好じゃなくて、ソファーに座ってテレビを見たらダメなのか?」


 俺は彼女に膝枕されながらテレビを見ていた。もはや日常となったこの状況に、今日も期待せず問いかけてみた。


「ダメで~す。兄は義妹に膝枕をされながらテレビを見るんです」


 彼女は口を尖らせながら、俺の頭を優しくポンポンとする。


 学校では、犬猿の仲であるはずの美羽だけど、家では真逆で俺に対して距離感がバグっている。


 俺たちの親は、仕事上都合がいいからと、再婚しても外では別の性をそのまま使い、俺たち二人もそうしているわけだ。


「もういつまでこのやり取りするの? お兄ちゃんの部屋にある本”妹かわ”だっけ? あれにも書いてあったよ?」


「お前あれ見たのかよ!」


「うん! よかったよ兄妹が仲良しなのが伝わってきて!」


「どこまで読んだ・・・」


「最初の一巻だけだよ?」


 緊張を含んだ俺の声に、美羽は不思議そうに首をかしげる。

 それを受けて、ホッと胸をなでおろす。あのラノベは、一巻は少しスキンシップの激しい兄妹仲を描いているけど、二巻以降はさらにスキンシップが過剰となり恋愛方面に加速していく。


 そんなものを美羽に見られるわけにはいかない。


 あれはひっそりと処分……はもったいないから、妹のいる隆にあげることにしようと、心の中で決める。


 一度咳払いをして、話題を変える。


「それはそうと美羽。学校でのあれは、いくら兄妹だってバレないようにするためとはいえ、少し当たりが強すぎないか?」


 美羽の希望もあり、俺たちは他人のふりをしている。

 俺自身、柳瀬さんや他の同級生の前では、その方が都合がいいので協力しているけど、なにも険悪な感じにはしなくていいと思う。


 すぐに返答がないので、膝枕されたまま美羽の顔を見上げる。

 その美羽は、眉を下げて分りやすくしょぼくれた様子を見せる。


「ごめんね……学校ではなんか恥ずかしくて、ついあんな態度をとちゃった。怒った? 嫌になった?」


 今にも涙が出そうな、すがるような眼差しを俺に向けてくる。

 うっ……そんな表情されたら、文句を言おうにも言えないじゃないか。


「そんなことはないけど……まあほどほどにしてくれよな?」


 美羽の顔を直視できずに、そう答えるとパアと表情を一転させる。


「うん! わかった」


 嬉しそうに俺の髪をわしゃわしゃとしてくる。


「あーやめろはげる! はげたら婿の貰い手がなくなる」


「そしたら、私がもらってあげよっか?」


 美羽の思いもしない一言に驚き、彼女の方を向こうとする。

 たけど、美羽はそっと俺の頭をソファにおろし立ち上がって、背を向けてしまった。


 少ししてから“くるっ“とこちらを振り返った美羽は、イタズラな笑みを浮かべて呟いた。


「さーて、お風呂いってこようかな~お兄ちゃんも一緒に入る?」


「いいからさっさと行ってこい!」


「はーい」


 つまらなそうに返事をして、美羽はリビングから出ていった。

 その後ろ姿は、気分屋の猫がしっぽを振りながら歩いているようにも見えた。


 俺はソファに寝転がったまま、天井を見あげてため息をついた。


 美羽の、学校と家でのあまりのギャップに、俺の心は振り回される。

 家で二人で過ごしていると、あまりのデレっぷりに、実は俺のことを異性として好きなのではと思うことも多々ある。

 だけど、今日だけじゃなく、今までも美羽は学校にいる時は俺に対して当たりは強かった。

 その度に、家族になって暮らし始めた頃に言われた一言を思い出す。


――「学校であまり近寄ったり話しかけないでよ。あんたと家族だって周りにばれたくないから」――

 その言葉は、当時全てのオタク男子の夢である、同級生の美少女が義理の妹になるという、何回人生をベッドしたら、手に入るか分からない幸運に胸踊らせていた俺にはかなり効いた。


 俺は、学校では表面上つくったキャラを演じているけど、家では陰キャオタクのままなのだ。

 だからこそ思う。美羽は俺のことが異性として好きだから甘えてくるのではなく、家族になろうと必死に頑張っているのだろう。

 その頑張りの反動で、学校ではあんな態度になってるんじゃないかと。 


 俺は熱くなりかけた胸をいつものように戒める。 

 家族として歩みよろうとしてくれる美羽の気持ちに泥を塗るなと。今は美羽も兄妹の接し方が分かってないけど、いずれこのバグった距離感も落ち着き、俺たちは本当の家族になれるはずだ。


※※※


「ふふ、効いてる効いてる」


 リビングから出た後。私はリビングドアの、小さな窓から中を盗み見て、嬉しくて思わず声がでた。


 お兄ちゃんは、私の「妹のちょっとシュンとした様子からの、ドキっとからかい攻撃」の前に見事にドキドキさせられてるみたいで、天井を見上げて放心状態になっていた。


 お兄ちゃんが怜奈ことを好きなのは知っている。

 分かるよ? 玲奈はおしとやかで、男子の理想そのものです。みたいな女の子だもん。

 あんな子が近くにいて好きにならないほうがおかしい。


 だけど、私はお兄ちゃんが好き。付き合ってるならともかく、そうじゃないなら諦めれるものじゃない。


 お兄ちゃんには悪いけど、怜奈と仲良くならないにように、とことん邪魔をしてきた。

 学校だと、嫉妬からちょーときつく、お兄ちゃんに当たっちゃうこともあるけど……仕方ないじゃん。


 それで、何とか一年二人の仲が進展するのを防いできたけど、二年生になって状況が一変した。

 なんで同じクラスで、しかも隣同士なの! 意味わかんない!


 今日はそのことが、あまりにも悔しくて辛くて、いつも以上にきつく当たっちゃったのは失敗したな……。

 

 家だと素直に甘えれるのに。


 今の状況だと、これまでみたいに完璧に邪魔はできない、非常に危機的な状況。

 怜奈がお兄ちゃんのことを好きになる前に、妹である特権を最大に活用して私がお兄ちゃんを落とす!

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