みじかい小説 / 001 / ミシンのねいろ
今日もリビングで母のミシンの音がする。
裁縫の先生をしていた祖母を思い出しているのか、母は週に一、二度ミシンを取り出しガタガタ言わせている。
今は古いTシャツを継ぎはぎして、夏のパジャマにするハーフパンツを作っている。
「あら、また失敗しちゃった」
そう言って縫った糸をほどくのは、もう何度目だろう。
おばあちゃんの手先の器用さは遺伝しなかったなぁ、とはいつもの口癖である。
いずれ母が亡くなれば、私も母を思い出してミシンに向かうことがあるのだろうか。
いや、そんな手垢のついたノスタルジーは私の最も嫌いとするところだ。
私はそう思いなおし、手元のスマホに意識を戻す。
耳では、多分にババくさいミシンの音を聞きながら。
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