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1ー5 アンダーグラウンドfeat. 福男レースだけじゃない②

芸術家、美術家の全てを敵に回しそうな事をゴッホのヒマワリを見て言う榊。実際、当時の画材や技術、そして当時の作家の得意とするなんたるか、研鑽し、命を込めた、想いを込めた背景等も含めて芸術という物は評価される。榊にはそういう鑑識眼はない。描かせればゴッホよりももっと写真のように忠実なヒマワリを描く物も今の時代ごまんといるだろう。榊という男はどちらかといえばそういう人間を評価するタイプだった。


「これって、他の七枚は守らなくていいという考えでいいんですかね? 全部とか言われると全従業員投入になりますけど」

「8枚目だけで構わない」


 その解答はありがたかった。つい最近新人が一人入ったので、誰か一人を新人の研修期間として付き添わせてやりたかった。その為、この仕事は榊自身と従業員の誰かもう一人のツーマンセルで行おうと考えている。大谷記念美術館は西宮市、裏稼業の殺しはないが、大けがは負うかもしれない。


「そういう事で宜しく頼む。榊、あっちの和菓子も食べてみよう」

「ほら、マオさん来て良かったでしょ? どれもこれも甲乙つけがたい美味さで、えびす様に感謝しかない」

「お前みたいな奴は宗教なんて信じないと思ってたがな」


 榊は可愛い練り切に頬を染めながら、それを切るのを少し躊躇しながら、「えびす様は商売の神様ですからね」

「そんなゲン担ぎをするような青さでもないだろ」マオは分からないなと首をひねる。「商売繁盛で笹もってこい。洗脳されるくらい聞いてきましたからね」

 マオは同じ練り切をみて、小鳥やらその年の干支やらに作られているそれを切ってしまうのが、もったいなくてできない。そんな練り切を見ながら、


「そういえば、毎年大勢が走るんだったか? ここじゃなくて大阪だったか?」


新年、十日えびすにおける福男レース。


「今、なんつった?」


 丁寧な話し方から一転。

 親の仇でも見るような眼で榊がマオを見る。マオはこういう状態の榊の事を知っている。これは西宮という地域を馬鹿にされた時、芦屋市や尼崎市の裏稼業の業者と揉めた際などに見せる榊が激怒している状態の反応に他ならない。

「ちょっと、どうした?」とマオが腫れものを触るように話す「西宮がえびす神社の総本社や! あんな今宮の美少女巫女ばっかり集めて集客するところと一緒にしなや! 福男レースは西宮の専売特許や! ダボくれぇ!」


 榊が据わった眼でそうマオに言うので、マオは焦りながら、和菓子が置いてあるブースを指さして再び言う。

 そんな声は聞こえないかもしれあないが、「私が悪かった。怒っていたらえびす様の福が逃げるぞ、さぁ、お菓子を食べよう」と提案。ここが西宮市じゃなければ殺されていたかもなとそう思う。

 しかし、榊の怒り顔は段々と収まっていく。

 怒り散らすよりも、西宮えびす神社で行われている祭事の方を重く受け取ったのである。そして頷いて静かに和菓子を選びに行く。

 冷や汗物でマオはふぅと安堵する。

 一瞬何事かと思った周囲。それにマオは「ごめんなさい」と榊に謝ってみせる。すると周りの客は子供が何か粗相をしたので、父親が怒ったのだろうくらいで、納得し、再び色とりどりの和菓子たちに意識を持って行く。なんとかなった、良かった。


「マオさん、今度福男レースを穢したら許しませんよ」と未だ機嫌が悪そうに言う。ハンカチを取り出すと、マオは焦りからでた冷や汗を拭いて頷く。「肝に銘じておくよ。福男レースはこの神社の祭典だな」

 

 段々と榊の機嫌がよくなっていくので、マオは少しばかり冷静になりながら、もう食欲なんて今の一瞬の出来事でなくなったのだが、とりあえずまだ食べていないどら焼きを一つもらう。

 榊は全種類コンプリートするつもりなんだろう。「今年の健康診断の血糖値大丈夫かな」

 そう呟く榊、和菓子を毎月こんな量食べているのかと思うと、マオはよりお腹が一杯になる。というか胸やけがしてきた。

「そんなに怒らなくてもいいだろう。さすがにヒヤっとしたじゃないか。一応これでも私はお前たちの宮水ASSの元請けみたいな立場なんだからな?」


「それはすみませんでした。いや、他の業者が来てないかなと思って」

「は? 何言ってんだ」

「一応、重要な仕事って事は受け止めてるんですよ。こんなところでお菓子食べながらですけど」


 榊が大声をわざと出したのは、明らかに堅気じゃない連中がいれば分かるからだという主張をした。確かに相当な死線を潜り抜けてきたであろう宮水ASSの榊であればそういう反応を見分ける事もできるかもしれない。だが、マオはその榊の言葉は半信半疑で聞いていた。本当に単純に、西宮を馬鹿にされたと激怒したんだろうと。


「とか言って榊。お前絶対、私にムカついて怒鳴り散らしただけだろう? さすがに私でも分かるぞ」

「まぁ、だいたい」

「だいたいじゃなくて100激怒だろう。私はここに来る事を誰にも伝えていない」

「でもハリマオ会がマオさんを100信じてるとも証明はできないでしょ? 俺はハリマオ会もマオさんも信用してませんよ」

「まぁな」


 信用が第一と表の世界では言うが、裏稼業をやっていると、自分の従業員以外は信用してはならない。もし、自分の従業員に裏切られる時はそれは潮時といえる。


「クロはようやく一人で仕事ができるようになってきたし、さらに一応新人教育も同時進行しないといけないので、色々もらいますよ」と榊が言ってそれをマオは頷いて承諾した。クロの事はマオもよく知っている。恐ろしい殺人鬼と聞いていた。

「よくまぁ、あれをここまで手懐けたもんだよ」

「腕が違いますから。にしてもえびす水産で一杯やって帰りません?」


 口の中が砂糖で甘くなっていたので、塩っ辛い物を食べてビールで流したいなとそれにもマオは快諾した。

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