6-1 アンダーグラウンドfeat. 宮水ASS事務所のカップ麺は食べ放題
冬雪はクロと一緒に宮水ASSの事務所に戻ってくると、食材を冷蔵庫に入れていく。
「そっちが冬雪くんか」事務所でインターネット対戦ゲームをいそしんでいる女性みたいな中性的な情報処理係の玉風がカップ麺を食べながら言う。「はじめまして、ユーフォンさん、これからよろしくお願いします」
冬雪が深々と頭を下げる。玉風は手を上げて頭を上げるようにジェスチャー。先輩というだけで別に自分が偉いわけでもない。玉川は冬雪の頭の上からつま先まで見て、バランスのいい身体だなと思うも、ショタというにはもう厳しい冬雪は別段興味深いわけでもないなと思う。
「カップ麺、一杯買い込んであるから好きに食べてね」玉川にそう言われて頷く冬雪。「ありがとうございます。生活厳しくなったら頂きます」
食費を切り詰めているので少し助かると本気で思う。「そんなレベルだったら普通にご飯くらいはご馳走してあげるよー」
「あはは、また宜しくお願いします」
「クロもいく」クロもずんと出てきて言うので「クロ子ちゃんならいつでも歓迎だよー、なんならいまからでもいいよー」
標準語の中にどこかの訛りがある玉風「玉風さんって出身は中国でしたっけ?」と冬雪が尋ねて、「福建省」と答えるが、どうも嘘くさい。
「なんか、海外の人のなまり方じゃなくて、地方の人のなまり方っぽいですね」
何故なら自分も福岡県から来ているのでイントネーションが微妙に違うから「日本、長いからねー」冬雪はもうこれ以上この事を聞くのはやめよう。この人、多分ブリジットが言っているらしい中国地方人が濃厚だ。
「それはそうと、玉風さんは仕事の請負とかをされているんですよね? あと、従業員の募集とかも」
「……そうそう。冬雪くんが来たのも僕の仕事じゃ……なくて、だよ」仕事じゃ! と言った。間違いなく言った。「あぁ、でもあれ普通にネットで見つけましたよ」
「アンケートあったでしょ? あれ、答えてもらってる間に個人情報調べてふるいにかけてたんよー」
確かに、体力・武術に心得のある方という事でクリックするとアンケートがあった。あれはハッキングをかけたり、個人情報を抜かれていたのかと今になって冬雪はぞっとした。という事はこの玉風は冬雪の知られたくない過去なんかも全て知っているんだろう。やはりとんでもない世界に飛び込んでしまった。
情報は銃よりも強いというのが今のご時世。玉風は宮水ASSの要なのだろう。「そんなびびらんといてー! 個人情報は丁重に、が宮水ASSだからー」
「あはは、でもそんな技術とか凄いですね。僕には一生理解できなさそうです」
それに玉風はブリジットのエスプレッソマシンを勝手に使ってコーヒーを淹れる。「それはお互い様、僕は冬雪くんみたいな暗殺術もクロ子ちゃんみたいな身体能力もないから、チームプレイじゃ……ん!」
確かにそうだ。適材適所で働くから裏稼業はやっていける。
「そういえば、榊さんから二人に仕事の依頼だよー」玉風がそう言って、嫌々依頼内容を二枚コピーして二人のに渡してくれる。内容はこの前のご婦人の買い物の付き合いではなく、ガチの護衛任務。カリフォルニアにあるワイナリーの令嬢。酒蔵フェスティバルと当日までの護衛、最終日依頼主に引き渡し終了。
「……日当、こんなに高額なんですか? 二十四時間当たり一人五十万」
移動費用や食費等も含まれているらしいが、相場の数倍から十倍以上はあるんじゃないだろうかと冬雪は思う。大抵ボディーガードで1日5万~10万といったところだ。
「まぁ、そんなもんじゃないかな? 知らないけど」
いい加減な答えが返ってきた。それを補足するように玉風は言う。
「こういうの、料金あってないような物だからさー」
「クロさんと俺でそんな大事な人の護衛……ちょっと緊張してきたけど、頑張ります! お願いしますねクロさん!」
そう意気込む冬雪。クロはオーガニックバナナを食べながら、カップ麺にお湯を入れて3分間を刻もうとしているタイマーをじっと見つめている。「うん、大丈夫」とクロが答えた声をかき消すようにピピピピピとタイマーが鳴った。




