4-1 アンダーグラウンドfeat. 始末屋のスタイリッシュなお仕事①
コストコを出ると、ゆかりは助手席で車内をガンガン蹴った。
「なんなんですかあいつ! 止めないでくださいよ宋先輩!」とクロに対して怒りが収まらない様子のゆかり。「あのまま喧嘩したらゆかりちゃん大怪我で大損だよ」
大怪我をして大損、ようするに喧嘩でも負けるという意味。
「喧嘩なら負けませんからぁ!」そう言うゆかり、確かにゆかりはそれなりに腕が立つ。だからこそ宋は正直に言った。「ゆかりちゃん。あの子、クロは喧嘩という認識はないですよ?」
「殺し合い上等ですよ。ここ尼崎ですよ? ホームですよ?」
その殺し合いとなったら万に一つもゆかりに勝ち目はないと言おうとしたが、これからゆかりを相棒に一仕事こなさなければならない。これ以上機嫌を悪くされて仕事に支障が出る事を考えると、肯定も否定もしない方がお互いの為だろうと思う事にした。一応ゆかりは始末屋『よる』の大事な労働力である。
彼女のメンタル管理も仕事の内と宋は思うようにしている。「もし、クロを殺れたとしても、その後ろにバケモンが二人いますからね。分かってます?」
「そいつらも……」殺してやるよとは言えない。
「店長の脇腹が治っていない今、宮水と衝突したら終わりです」
別に敵対している組織というわけでもない。
「仕事柄、こっちが向こうに仕事を依頼する事も依頼されることもあります。お互いの請負で敵対した時以外は良い関係を築いておくにこした事はないですよ。プロ意識持ちましょう」バケモノが二人という言葉を聞いて委縮するゆかり、そう思わせるように宋が話した。
ゆかりは宋に尋ねる。「宋先輩ならどっちか一人くらい不意打ち込みで殺れますか?」
「十中八九無理です。ウチであれと相手ができるのは店長だけです」
「私と宋先輩二人がかりでどっちか一人でも?」
「えぇ、自分とゆかりちゃんが仲良く土の下か、尼崎港の下行きです」
その店長赤松はバケモノの一人、ブリジットからゆかりを守り逃走する為に怪我を負っている。「鉄腕の方は、確かにはんぱじゃない。殺気というか、使ってる武器もなんなら戦い方もおかしいじゃないですか、あれ多分軍人とかなんでしょ? ナイフも一杯もってるし、重火器だって守り屋が持ってるには違和感しかない物揃いだし、でも向こうの榊でしたっけ? クロの信仰する神様。宮水のボス、それに関しては私全然知らないんですけど、私一人ならともかく宋先輩と一緒だったらやってやれなくはないですか?」
宮水ASSの榊、実際ここ最近はあまり現場に出てこない。しかし宋は知っている。ゆかりが来る前、赤松について始末屋の仕事の際に宮水ASSとぶつかった。連中の護衛対象と関わりのある者の始末、当然護衛対象を守る為に榊が出てきた。目にもとまらぬというのはあーいうものだろう。銃を向けようとした宋を一瞬で無効化し、赤松と一騎打ち。
「結果として、榊さんは護衛対象を守る事に徹して、護衛対象の知り合いは店長がしっかり始末したので、私達の勝利ですが、榊さんからすれば護衛対象ではないわけで、結果勝負という一点では二人がかりで殺れなかった私達の負けです」
「マ?」
さすがに赤松と宋の二人がかりで仕留められない奴なんていないと思っていたが、その宋ですらてんで役にたたなかったという。
「下手すればの話ですが、クロ相手でも私とゆかりちゃん二人で仕留められるかはわかりませんよ。宮水ASSは従業員の精度が高いですから、あのルーキーももしかすると……」
「なわけないでしょ! あのルーキーカスですよ」
「どうでしょう」宋は、見ていた。あの宮水ASSの新人が「ポケットに手をいれてました」
「何? 凶器でもはいってたんですか?」
「おそらくは、隠し武器でしょう」
「ないない」と笑うゆかり「私の胸みてマスでもかいてたんじゃないです?」
「さすがにあんな場所でそんな事ないでしょ……」
宋が少し心配なのは、このゆかりの異常なまでの自信過剰。自信のある事は大切だ。ないよりある方がいい、今から仕事だし、やる気満々でいてくれるにこした事はない。が、それは普通の仕事の際、本当にひりつく仕事をする時に自信は油断を生み、結果として失敗、最悪死に至る。




