2−6 アンダーグラウンドfeat.大人の会話は意外としょーもない②
「ボス、後で必要な部分だけコピーを取ってお渡ししますけど、なんか妙な連中が闊歩してますね。明らかになんか配ってますね。顔を隠してるからはっきりとは分からないですけど、これヤクザもんじゃないですよ。背格好のガタイもさる事ながら、異様に統率が取れているというか、なんというかプロ意識すら感じますね。こっちでは多分金銭と交換してますね。フィルムケースなんかに入れちゃって……お金は少し離れた所で募金活動している中東系? いやヒスパニック系の連中の所に入れるみたいですね」
「軍人やね」
「そうなんですか? まぁ、そう言われると納得ですけど」おそらく表情一つ変えずに淡々と粉をまいている。「これが単純にしのぎの活動なら表業界のヤクザの方々とどんぱちしてくれればいいんだろうけど、戦争のない軍人程安全に給料をもらえる職もないだろうに、なんの為にジョブチェンジしているのか知らないけど、二、三人捕まえてみようか?」
「そうですね……いや、やめておいた方がいいかもしれません」
「やっぱり二、三人くらいは平気で足切りするかな。だったらウチに引き入れちゃう?」
牛丼を食べ終わり、インスタントコーヒーをいれる榊は冗談を言う。そんな仲間信用できないだろうと。「軍人なら一人とびっきりのがいるじゃないですか、あんなのがもう一人とか僕ここ辞めますよ」
「そりゃ困る。…………玉ちゃんがいないと火急の時にみんなと連絡がつかないもんね」全員のスマートフォンにGPSを取り付けており、連絡一本ですぐに居場所がわかる。「ボス、その件なんですけどね? クロ子ちゃん。高確率でスマホ忘れていくのでどうにかならないですかね? アクセサリーの類は嫌いますし、困ってるんじゃ......ですよ」
念のため監視ツールを起動すると今もクロのスマホはブリジットと一緒に暮らしている部屋から動いていない。
「毎回も言ってるんだけどね。約束その4!仕事にスマホは忘れない!」
クロに関してはこのボス榊もブリジットも、なんなら自分も少し甘い。真面目で純真でなんでも言う事を聞くので娘や孫くらい可愛がっている。ただし、元大量殺害者だが......「僕からもまた言っておきます」人間としての楽しいという感情を食以外から知らなかった少女。彼女が一体何者なのか榊は話そうとしない。今は新人教育という事で歳の近い冬雪と関わらせている。「新人の彼大丈夫ですかね?」
「多分」
玉風は立花冬雪という少年の履歴書をみてある程度彼について調べた。裏家業をするにも十分たる資質がある。
「この前、クロ子ちゃんにのされて自信失っちゃったらしいですよ」
「得意の忍術が役に立たなかったらしいね」
「一番の驚きはこの世の中に本当に忍術なんていう暗殺術が存在していた事ですけどね。しかも羅志亜忍術なんて聞いた事ないですよ」
「この世界にいるとほんと世の中の広さを知るね」
「今、クロ子ちゃんが彼に戦い方を教えてあげるみたいですけど、彼、クロ子ちゃんの距離感に今ごろ赤面していたりしてね? 今後の事もあるんで恥じらいという事もちゃんと教えてあげないとですよ! この前、僕のシャワー中にマッパで入ってきたんだから!」
「……俺、クロのお父さんみたいやん」
「実際お父さんでしょうよ。僕はお兄ちゃんですね! クロ子ちゃんにオニイチャンって言われたいですねー!」
拾った榊にはそれ相応の責任があると玉風は言う。「……こんな仕事してて思うんですけどね。クロ子ちゃんは幸せになって欲しいなって」
「あぁ……うん」
それは難しい。「クロは人を殺す事に関しては何も思っていないでしょ? 罪の意識はないし、だからこそ“普通の幸せ“はあの子にはおとずれないよ」
クロは今まで無差別に人を殺しすぎた。それ故、クロに恨みを買っている人間の数なんて榊にも分からない。そんなクロが人並みの幸せを手に入れたら、
「……まぁ報復はされるでしょうね」だとすれば榊はクロにどうして欲しいのか? 「ボスはクロ子ちゃんどうするんですか?」
「フランケンシュタインのお話って知ってる? 玉ちゃん」
「えぇ、ざっくりとですが、勝手に人造人間としての自分を作った博士に自分の花嫁を……ってまさか!」
「まぁ、できればね」榊はクロの為に同じまともな幸せを掴めないつがいを用意してあげようと言うのだ「……流石に人殺しカップル、ボニーとクライドなんて笑えませんよ」
玉風のツッコミに「やっぱり?」と目は笑っていない榊をみて玉風はこの話題をここで終わりにした。




