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第2話『灼熱の砲口』


 昨夜までの穏やかな森の姿が嘘のようだった。

 木々や大地は炎に包まれ、天を喰らうかのように赤い舌を高く伸ばしている。木漏れ日が星空のようだった林冠はとうに焼失し、炎と煙が空を分厚く覆っている。澄んでいた空気も、立ち込める煙によって、厚い霧の中のようだった。

…実際は霧なんてもんじゃなくて、焼き焦げる木々のにおいでむせ返りそうになるけど…


「この臭い、装備に染みついたりしないよな…」


「いいじゃん、煙くさくても。いぶし銀、って言葉があるくらいだし~」


「お、たまにはいいこと言うやん。渋くてかっこいいって意味だよな、ありがとう」


「あはは、ハルキじゃなくて装備のことだよ~。ハルキは燻されてもせいぜい燻製チーズでしょ」


「あーあ最悪だ、急にオタクくんになっちゃった」


 悪びれる様子のない悪魔の子に、燃える森に引きずり込まれて、かれこれ一時間くらいが経過していた。

 現在の位置は森林の中腹、オルデン山脈の山裾とまではいわないが、だんだんと標高が高くなってきており、燃えている樹木の中にもだんだんと背が高いものが混じりだしている。


 暑いというか熱い…もう早くラニエットに帰りたい…


「よ~し、もっと奥まで行くよ~!今日は長い夜になりそうだね」


 それで、こんな地獄みたいな環境でもキノヒコは相変わらずのペースを貫いていた。


 ほんと元気だよなぁ。


 キノヒコは大きな丸いシールドを手に携えてはいるものの、鼻歌を歌いながらまるで遠足をしているかのように炎の中をずんずん進んでいく。


「ちょい…キノヒコあんまり速く行くなよ…おまえ小さいんだから、遠く行くと煙で見失うよ」


「あはは、ごめんごめん。楽しくってさぁ」


 キノヒコは立ち止まりおれが追い付くのを待つ。

 森に入ってから既に何度も炎と煙の中から飛び出す魔物の襲撃を受けて、おれはびくびくしているのだが、キノヒコはまったく怖気ずく様子もなく、楽しそうに周囲を見回している。

 キノヒコの無邪気な笑顔が炎の明かりに照らされ、赤や黄色に点滅する。木から木へ、空気を殺しながら広がる炎。まさに地獄という言葉が似合う雰囲気の中、キノヒコの笑顔だけが不釣り合いに輝いていた。


「なんでそんなピュアに楽しめるんだよ。熱いし…煙で息苦しいし、視界も悪いし…」


 ゲーム内では激しい痛覚などの不快に感じる感覚は1/10程度に軽減されており、火の中を進んでいると言え、感じる熱気はぬるめのサウナくらいのものだ。


 しかし、


「…うわアッツ!!」


 おれの目の前を木が爆ぜて倒れ、火の粉と煙を吹きあげる。


 大なり小なりゲーマーであれば誰しも共感してくれると思うが、痛覚なんて脳みそが勝手に補完してしまう。2Dの格闘ゲームですら、ダメージに身体が反応してしまうんだ。フルダイブのVRMMOであれば言うまでもないだろう。


「あはは!大丈夫だよ、SAOじゃないんだから。死なない死なない~熱くない熱くない♪」


 そんなおれをキノヒコは軽く笑い飛ばす。

 そりゃ『死ぬはずない』なんてことは分かってるけど、大なり小なりゲーマーであれば…(ry)

 おれはため息をつくと、覚悟を決めてキノヒコの横まで走った。走ると燃える空気をさらに肌で感じる。関節や髪の毛の隙間に新しい熱気が注ぎ込まれ、オーブンで焼かれるパンになったようだった。


 ユグドラシルの根から受け取った環境情報により更新されたマップには、アイズナ森林の部分が赤いトーンで覆われ、火災が発生していることが示されていた。

 しかし、いつものように詳しい魔物のスポーン状況や、採取アイテムのマップを細かく見ようとしてみても、エラーを吐いたように「詳細不明」の表示が出る。なんだかちょっとホラーチックな演出だった。


 火災により乱れたエーテルによって、ユグドラシルの根にも情報が届いていないってことなのだろうか。初めて見るインターフェイスの異常は、ことの緊急性や事件性を強調し、それを見るプレイヤーの不安を煽る。


 冒険者ギルドはこの【山林火災】という環境をすでに異常事態として認識し、対応を開始しているようで、ラニエット周辺のプレイヤーに対して、緊急のギルドクエストを発令していた。




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【ギルドクエスト】

≪詳細≫

 冒険者ギルドが発行するクエスト。多くの冒険者で協力して立ち向かう必要があり、通常のクエストに比べて危険かつ緊急性が高い。



≪クエスト名≫

 【特務:アイズナの焔封じ】


≪依頼主≫

 冒険者ギルド


≪依頼文≫

 アイズナ森林にて異常環境【山林火災】を確認。

 現在火災はアイズナ森林の広範囲にわたり、森林の生態系、および周辺地域の安全が著しく脅かされている。

 火災の原因には一帯の環境を変質させるほどの、強力なエーテルを有す未知の魔物の存在が危惧される。

 冒険者ギルドは、これを『異常事態』と認識し、可及的速やかに対応するため、ラニエットの冒険者に以下ミッションを含む緊急のクエストを発行する。

 勇敢なる冒険者諸君の協力を求める。


≪ミッション≫

 [火災原因の調査]

  アイズナ森林を調査し火災の原因を特定し、冒険者ギルド担当者へ報告すること。


 [火災の抑制]

  火災により環境エーテルが変質し、平常時と異なる魔物がスポーンしている。炎を扱う魔物を討伐し、火災の拡大を防ぐこと。


 [火災の鎮火]

  火災の原因を取り除き、鎮火すること。


 [特需生産]

  生産職の冒険者は、異常事態対応により発生する回復アイテムや耐火装備の特需に対応すること。


≪報酬≫

 [基本報酬]

  クリア時、貢献度に応じて支給。

  最大500,000G


 [特別報酬]

  炎を扱う魔物のドロップアイテムの高価買取、特需アイテムの納品報酬増加。



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 プレイヤーインターフェースにはわかりやすくギルドクエストへの参加以来がポップアップしており、おれたち以外にも沢山のプレイヤーがこの依頼に応じ、燃え盛る森林へ足を踏み入れていた。



 山火事は破壊的な災害として知られるが、実際のところは自然界の森林循環機能の一部だ。

古い森林は高く伸びきった枝葉により天を覆い、地上へ降り注ぐ陽光を独占する。結果、木々は地に芽吹く自らの子孫を腐らせ、影に強い下草が密集し、大地は停滞に支配されてしまう。そこで山林火災だ。炎は古く淀んだ植生を焼き払い、森林の世代をターンオーバーする。

 しかし、山林火災の機能や合理性はあくまでも超越的な視点からの結論にすぎない。脚で地を生きる一人称しか持ち合わせていない生命体にとって、火に飲まれた森林は『過酷』以外の何物でもなかった。




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【環境情報】

 ≪地帯≫

  アイズナ森林


≪環境≫

 【山林火災】


≪強制付与≫

 【状態異常】


 【熱傷】

  ≪効果≫

   5秒に一度、最大HPの1~10%のスリップダメージ(周囲の温度により変動)。


 【煙幕】

  ≪効果≫

   視野が狭まり、探索や戦闘を妨げる。魔物や採取アイテムの探知範囲縮小。



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―――『先に教えたら、ハルキ絶対嫌がったでしょ?』


 アイズナ森林に足を踏み入れる前に、キノヒコがおれに言ったセリフ。遊園地でジェットコースターを強要してくる悪童のような表情はちょっとむかついたが、図星だった。

 このゲームは良くも悪くも本当によくできてるんだから、嫌がるのも無理はない…と自分では思っている。キノヒコみたいなのが身近にいるから、感覚麻痺しちゃうけど。


 綺麗な景色を目にした感動も、魔物との戦闘で感じる躍動も、ゲーム内での経験は現実のそれと遜色がない。

 痛みなどの不快な感覚は1/10程度に軽減されてはいるものの、死の迫る恐怖や、絶望は現実そのままのスケールで脳に届く。


 それこそ、こんな炎の中の魔物との戦闘なんて…


―――ッ!?


「ホラゲ―より、怖いって!!」


 4体の黒い影が炎と煙の壁を突き破って高速で突っ込んでくる。


 突然の襲撃に肌が痺れるような恐怖が走る。

 おれは身体を翻して突進をよけつつ、反射的に腰から取り出したタガーで、飛び出してくる影の一つを下から切り上げた。

 キノヒコも手にしていたシールドで身を守ると、すぐさま腰の銀剣を引き抜くモーションを始める。


 突然の邂逅エンカウント


 環境によるデバフ、【煙幕】の弊害だ、目の前に現れるまでその存在を感知できなかった。


 飛び出してきたのは燃える蝙蝠の魔物【エンバーバット】。

 蝙蝠って言っても、羽の生えた小型犬くらいのサイズ感をしており、顔もちょうど威嚇するチワワをグロテスクにしたような見た目をしている。でかくて気持ちが悪い。

 いつものアイズナ森林にいる【グリンバット】の亜種だ。


 翼膜を切り付けたエンバーバットが、「ギャギャギャ」と汚い鳴き声を上げながら地面に墜落する。おれは速やかにとどめを刺すために接近する。

 翼や翼膜をもつ魔物は地面に落としても、飛ばれたり翼膜で暴れられたりしてめんどくさい。

 だから、


グシャ。

「ギャンッ!」


 まずは接近と同時に、エンダーバットの右の翼膜の関節を踏撃で砕いて動きを制限する。

エンバーバットは短く叫び、痛みに悶えているのか、逃げようとしているのか、暴れようとしているのかわからないが、じたばた地面でもがく。

 だが、おかしな方向に折れ曲がった翼膜は思い通りに動かない。


「…よっと!」


 おれは、そうしておとなしくなった背中に、タガーを振り降ろす。

動く獲物の骨を避けるほどの技量はないので、力を込めて突き立てたタガーはゴリッと骨を断つ感触を伝えながら内臓を貫いた。


「あはは、『怖い』って言いながらも、全然動けるくせに~」


「反射だから!命からがらに動いてんの!」


 キノヒコはおれの戦闘を見て、「はいはい、大げさだなぁ」と笑う。


 残った三体のエンバーバットは空中ですぐに体勢を立て直し、「キィーーー」という甲高い不快な超音波を放ちながらまとまって突進を開始する。


 三本の鋭い矢のような斜めの直線に相対するは、低身長の騎士。

彼はその小柄な身を隠すようにシールドを構えると、エンバーバットの勢いに合わせて、左足を一歩強く踏み込む。

 低重心の安定した下半身は、踏み込みにより、その体重を左手に構えるシールドに伝える。


「う~りゃっ!」


 空をえぐる盾打シールドバッシュ

 三匹中二匹のエンダーバットが、この一振りにより強打され、空中に力なく弾き跳ばされる。

 そして迫る三つ目の直線。振り上げたシールドは、胴体をノーガードに晒し、既に直撃は避けられないように見えたが、さすがキノヒコ。前作からの歴戦の盾使いは突然の一対多にも筒がない。既にシールドの裏で、三体目の突進コースに銀剣の切っ先を合わせている。

 エンダーバットは自分の勢いのまま、為す術なく串刺しになって絶命した。


「ハルキとどめお願い~!」


「はいよ!」


 キノヒコの指示コール

 おれはすぐさま跳躍し、盾打で打ち上げられた、二体のエンバーバットの処理を行う。空中で一匹を雑に右手のタガーで刺し、もう一体の頭を左手で掴む。

 エンバーバットの燃える身体により、ちょっとダメージを受けるが気にしない。

 二体のエンダーバットは、盾打により既に昏倒しているため、暴れる様子はない。このまま放置しても大丈夫そうだが、ちゃんと殺さないとこの燃える森林の中では少し不安だ。


「よっ、おらっ!!」


 おれは着地の慣性を利用し、刺したタガーで一匹を引き裂き、左手に掴んだエンダーバットを地面にたたきつけた。

―――エンダーバット四匹を掃滅。


「ふぅ…また急に飛び出してきた…やめてくれよ、心臓に悪い。全然気が抜けないなこれ」


「う~んと、今のところ、エンバーバットに、ブレイズウルフに、レッドスパイダー…基本的にいつもアイズナにいる子たちが炎属性になって、全体的に強くなってるって感じだね~」


 キノヒコは銀剣についた肉塊を振り払いながらつぶやく。

 既に一時間くらい探索を続けているが、さっきみたいに魔物が飛び出してきては戦闘、ちょっと進んではまた戦闘、をくりかえしている。

 今のところの感想は、


「…ちょっとやりすぎじゃない?」


 といったところだ。


「ボクはこのぐらいハードが楽しいんだけどね~」


「そっか、やりすぎっていう感想を補強してくれてありがとうな」


 戦闘ジャンキーくんは本当に楽しそうだが、『ハード』とは言っているあたり、難易度が高く設定されていることに関しては同じ認識でいるようだ。


 おれたちは、簡単に魔物を蹴散らして、すいすい森林の中腹あたりまで来てしまったが、本来ここは初心者もたくさんいるような場所。それを踏まえるとやりすぎ感がどうしても否めない。


 現在のアイズナ森林は、プレイヤーが足を踏み入れた瞬間、強制的に常態異常を付与してくる。

【熱傷】によるスリップダメージは、平常時に致命傷になるようなものではないが、存在を忘れていると気が付いたら体力が半分以下になっている、なんて事故が起きかねない。戦闘中だといつも以上に体力への意識を割く必要があり、非常にやりにくい。

 特に、エンバーバットのような炎属性の魔物と戦うとき、彼らの扱う炎によって周囲の温度が上昇すると、【熱傷】の割合ダメージが増加するというハードな仕様がある。これ、かなり殺意が高い。


 長期戦を強いられ、周囲の温度が上がれば、この【熱傷】のダメージだけで致命傷になりうる。ダメージが上昇した状態で,、魔物の攻撃を受けてしまうと、あっという間に体力が尽きて死ねる。

 パーティに後方支援職の冒険者がいたら回復してもらえたりできるが、あいにくおれはたちは盗賊と騎士という近接職デュオ。

 回復ソースは最大体力の30%を徐々に回復する、回復ポーションしかない。


 【煙幕】のデバフも厭らしい。立ち込める煙と、壁のように押し寄せる炎によって、太陽の光が届かなく視界が悪い。方向感覚も掴みにくく、探索中も味方の位置を意識していないと、すぐにはぐれてしまうだろう。

 【煙幕】の効果はただの視界不良にとどまらず、『魔物や採取アイテムの探知範囲縮小』という副次効果も持ち合わせている。おれ的にはこれがかなり厄介。

 さっきのエンバーバットとの邂逅でもそうだが、戦闘が突然始まるので、気が抜けない。それに、リアルなグラフィックをしている、このゲームの魔物が煙の中から突然飛び出してくるのは、本当にびっくりさせられる。


「よ~し、ハルキも慣れて楽しくなってきたみたいだから、もっと奥までいっちゃお~!」


「他人の感情がわからなくなるMODとか入れてる?」


 ドロップアイテムを拾い終わり、ガンガン行こうぜ!を継続させるキノヒコに、おれはまた地獄の奥地へと引きずられていく。

 でも、一時間前のアイズナ森林に入ったばかりの時に比べればだが、この異常な環境への慣れは多少感じている。

 出てくる魔物は炎を纏っていたりするだけで、モーションなどはさほど変わらないし、攻撃力やスピードなどが強化されているといっても、前作からの戦闘経験のアドバンテージが覆るほどではない。


「はぁぁぁ……よし!」


 おれはドでかいため息をついてから、気合いを入れ、また炎の森を進むための一歩を踏み出した。



―――そしてその瞬間、幻想世界はそんなおれの『慣れ』をあざ嗤う。


『勘違いするな』


 そうおれたちに言い聞かせるように、突然燃え盛る茂みの向こうから、巨大な影が飛び出してきたのだった。


「―――ボオウウウゥゥゥゥウ!!!!」


 重たいものを引きずるような低い唸り声。現れるのは、丸い液体がぷるぷると揺れるシルエット。

 RPGをやったことある人なら誰しもが知っている、序盤のアイツ。おれとキノヒコもこのゲームの中で既に数えきれないほど倒したことのある魔物だ。

 しかし、おれたちはそんな手慣れた相手との邂逅に、異様な緊張感を走らせた。


「デカすぎるだろ!!!」

「めちゃくちゃ燃えてる~!」


 見慣れた姿の5倍ほどに膨れ上がったスライムはメラメラと赤い炎を纏って、周囲を飲み込みながら飛び出してきたのだ。




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【ファイアスライム】

 ≪生態≫

  スライム状の粘液で体を形成。感覚器官やエーテル器官からなる核を身体の中心に有している。

  周囲の物質を粘液で飲み込み、エーテルを吸収し成長する。

  ファイアスライムはスライム種の中でも攻撃性が高く、

  外敵を見つけると可燃性の液体を噴射し攻撃する。


 ≪大きさ≫

  50cm~周囲の環境濃度により変化


 ≪生息地≫

  火山地帯など、炎属性のエーテルが満ちた環境



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「ボオオオオオオオオム!!!」


 ファイアスライムはおれたちを見つけると、短く唸り、すぐにおれたちに攻撃を仕掛けようと、半径3m以上はある身体を縦方向に激しくぶるぶると振るわせ始める。


「うわぁ~~殺意マシマシだ!」


 シェイクされた粘液は、ファイアスライムの体内で、ペットボトルのコーラみたいに外側への圧力を生み出す。体内で圧力からの逃げ場を失った粘液は、身体の上部へせりあがり、身体のてっぺんに空けられた出水孔から、鯨の潮吹きのように空高く噴射された。


ブシュワアアァァァァァ!


 炎の輪郭に包まれた空を、塗りつぶすように粘液が覆う。

 一枚の膜のように広がる粘液は帳を下すように空間を縁取り、その中にギラギラとした炎の雨を降らせる。


 ただでさえ火災で動きを制限されているのに、この状況下で広範囲攻撃!?


「わ~、ギラギラ!きたない花火だ~!」

「言ってる場合か!?」


 のんきな人がいるが、あたりには頭上を覆うものなんてなく、このままでは直撃は免れない。


「ハルキ、入ってね~!」


 キノヒコは左手に持っていたシールドを傘のように頭上に構える。

 おれは相棒の指示コールに反応し、身を寄せて炎の雨から逃れる。


ドチュドチュドチュ!ボトボトボト…


 キノヒコノ構えるシールドにべたべたした物が勢いよく降ってくるが、キノヒコは微動だにせずそれを受け止める。それほど衝撃はない。


 しかし、


「くっ、熱い…!」


 まき散らされた液体が地面に落ちると、その粘液が炎を誘引し、おれたちの足元があっという間に火の海になる。


「あ~…これ【熱傷】だいぶ痛いね…」


 周囲の熱が強まったことで、強制付与された【熱傷】による割合ダメージが増加し、みるみるHPが削られていく。


「くそっ、ポーション切ろう!」


 おれもキノヒコもインベントリから回復ポーションを使用するが、回復したそばからHPが失われていく。

 防御をしていてもこんなに体力が削られていくなんて、


「これじゃジリ貧だ!」


「スライムのくせに生意気~!」


「ボウウウルルルッ!」


 ファイアスライムは地面に炎が燃え広がったのを確認すると、満足げに粘液の散布を止めて低く唸る。


 そしてブルブルとさっきより小さな身震いをすると、何気なく粘液の表面に波紋を走らせた。


 あ…


 電撃のような悪寒が肌をなでる。


 それは予兆。


 何度も見たことのある予備動作。

キノヒコはまだシールドを構えて上を見てる、気づいてない。


 おれは全身で警鐘を叫んだ。


「キノヒコ!()()()が来る!!」


 まだ降り止まない炎の雨を必死に受け止めるキノヒコに、最低限の言葉で未来を共有する。


―――()()()


 それは燃える森には似合わない、滴落の音。


 波紋は、体表に広がると逆再生の様に再び一点に集約。

 共鳴した粘液は隆起する。

 成形されるは、赤き円錐の出水孔。


―――その魔物は、おれたちに灼熱の砲口を突きつけた。


読んでくれてありがとうございます!

色々細やかな設定は、もう少し後で美人なお姉さんが教えてくれるので、それまでご不便かけますがお付き合いください!



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