宇宙と私と地縛霊
pixivにも投稿していた短編です
長編だけ置いてあっても取っ掛かりづらいかな?と思って短編も置いてみることにしました
かなり前に書いた小説なので今以上に拙い部分や粗い部分があるかもしれません
「今回の調査もこれで終わり…っと」
宇宙服を着て荒れた暗い暗い大地の上での仕事を終える、土を取ったり岩を取ったり薬品かけたりなんだかんだとエトセトラ…地球があと数年で住めなくなるだなんて騒ぎ出した2023年からもうかれこれ20年、地球の環境は確かに厳しくなっているが実害としてはエアコンの設定温度が大変低くなったことと暖房器具の需要が上がったこと、あとは「春or秋の新作」って文化が消えたことくらいだろう
「タピオカが絶滅した時はショックだったなぁ〜…まぁ私タピオカ飲んだ事ないんだけど」
技術が進歩して宇宙はもはや行ったことがないお店にカーナビの案内に導かれて行くのと大して変わらなくなってしまった…地球人がアルバイトで一人宇宙に飛び立ち人類が住めるか1年かけて調査して帰ってくるだなんて25年前の私に言っても信じるどころかTwitterでへんな奴が居たって笑ってたと思う。
「もう宇宙の神秘なんてブラックホールくらいしかなくない…?まぁそれも時間の問題だってネットで見たけど」
独り言と考え事が止まない一人孤独な宇宙旅行アルバイトだが業務も終わったので自分の船に帰る、地球との重力の違いにはしゃぐ文化もすっかり廃れたが私は個人的に好き
宇宙船を飛び越えてしまったことに慌てながらもそらを泳いで宇宙船に戻ると勝手にハッチのハンドルが回り出してプシューと勝手に開くので中に入る。宇宙服も随分と快適になったらしいが私のような一般人にとってはただの熱苦しい服だ。後ろで勝手に回って勝手にロックされるハッチの音を聞きながら、またも勝手についた船内の照明が眩しくて視界がチカチカした
「ふぃ〜…汗かく程じゃないけど相変わらずコレ着てると疲れるわ〜帰る前になんか飲も〜」
ここから地球まで何光年あるかは覚えていないがコールドスリープ状態でワープ込みでの移動で片道3年かかるって事だけは店長の指示で知ってる…あとは私の帰りが待ち遠しくてハッチも照明も全自動でしてくれた同居人があまりの退屈に2度目の死を迎えないかの懸念しかない
「そろそろ帰るけど3年間ぼっちで待てる?」
「バカにすんなよ、もうガキじゃねーから」
「あっそ〜、ならいいけど」
何もいない虚空に向かって話しかける私はイマジナリーフレンドと『会話』という名の独り言を垂れ流す不審者なのだろう、だがこの宇宙船には帰る前にはしばらく構ってやらないと寂しくて暴れ出す同居人がいるのだから仕方ない。
「てかアンタ宇宙まで憑いてくるとかホント律儀な地縛霊だよねぇ」
「うっせー、どこに未練持っててもオレの勝手だろ」
「ダメとは言ってないよ、でも根性ある律儀さだなって」
「フンっ!」
「拗ねないでよめんどくさいなぁ〜」
「拗ねてねぇし」
この明らかに拗ねている半透明の子供は、この宇宙船がつくられた工場を見学中に事故でこの宇宙船に潰されて死んでしまったらしい。そのまま出荷する工場もヤバいが自分をミンチにした宇宙船が宇宙に飛び立ってもなおこびりついてくる頑固なシミ…もといお化けになるのもヤバいと思う。
「コールドスリープ前に飲み物飲むけどアンタもなんか飲む?」
「何ある?」
「ビールとコーラといちごミルク」
「オレ炭酸飲めないんだから一択じゃん!いちごミルク以外も買ってこいよなぁ?バナナオレとかさぁ」
「だってお供えするだけなんだから実際減らないじゃんアンタの飲み物、節約よ節約」
「ケチ…じゃあ今回もいちごミルクでいいよ」
「そもそもアンタがいちごミルクが1番好きって言うから買ってきてやってんでしょ?不満そうな顔すんな」
「はぁーい」
宇宙船の中に備えられた収納の一つを開けて火はつけないがお線香といちごミルクのパック、あとはサービスでお菓子とゲームを放り込んでやる。カチンとトビラを閉めてから何となくポンとトビラを軽く叩いてビールを飲む、しばらくテレビを見ながらお化けとしょーもない雑談と毎回白熱してしまう対戦ゲームを楽しんでいるとタイマーが鳴った
「さて、そろそろ寝るかな」
「えーもう寝ちゃうのかよ」
「なになに〜?私が寝ちゃうと寂しいのかな〜?まだまだお子ちゃまだねぇ〜?」
「さっさと寝ろブ〜スっ!」
「言ったな〜?お供えするゲーム全部ホラゲにしてやろうかこのミンチマンがぁ〜!」
もう恒例になってきたコールドスリープ前の彼とのじゃれあいをしばらく楽しみ、私は機械に寝そべる…ケースが閉じられもうすぐ意識は夢に沈むだろう
「そんじゃおやすみ〜」
「さっさと寝ろ寝ろ、おやすみ〜」
2人暗い暗い宇宙の海のうえで眠っていく同居人を見届ける…
あの時キミの代わりに潰れてやった恩も知らずにスヤスヤと死んだように眠ってしまった彼女、オレはいちごミルクを飲みながらゲーム機を起動させる。他人が見れば1人でに動き出した不気味なゲーム機の画面から視線を外して、コールドスリープの機械ごしに彼女の頬を軽く撫でた。
「3年後の明日が待ち遠しいなぁ…」
忘れたくない記憶を少しでも鮮明に留めておきたくて、オレは味もわからないくせに好きだった女の子が飲んでいたあのいちごミルクを今も未練がましく飲んでいる