3 もはや変態と呼べるような変身。変態変身!
あれから数日、転校した。
土門です。
自己紹介を済ませると
俺は志道修二よろしく。
好青年が話しかけてきた。
彼とは仲良くなれそうだ。
自転車で坂道を下りながら
命のために戦います!と書かれた警察のポスターの前を通過すると人だかりができていた。
パトカーが複数台見えるが事件だろうか。
バッチを見せて捜査現場に入ると
コートを着たおじさんたちが現場にいた。
その中の若い人が話しかけてくる。
民警の人?
はい、土門です。
まあ、義務だからね。はい、これ。
捜査資料を渡される。
一家惨殺事件、被害者は父、高木まさお(30歳)、母、高木かおり(20歳)、娘、高木さき(13歳)
父まさおは頭部に擦過傷、頭蓋骨陥没が死因、母かおりは腹部損壊、即死か。娘は生存しているが重体でいまも集中治療室行き。
凄惨な事件だ。
犯人は玄関から入って裏口から逃げていったようだが。
ドアのぶをよく見ると何かがついている。
鑑識さん。ここお願いします。
はいはい、
鑑識の人がドアのぶを虫眼鏡で見て検察すると
ああ、気が付かなかった。よく気が付けましたね。
わずかに鱗粉が付着していることがわかりそれを採取する。
俺も変身能力を持ち肉眼の力を底上げしていなければ気が付かなかっただろう。
俺とは別に民警の人が入ってくる。
これ以上推理のしようがない。
いまは学校を優先しよう。
その場をあとにした。
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ジェノサイド、噂では3人いるといわれる都市伝説のように語られる正義の使者、ネットの都市伝説サイトにそう書いてあった。
他にも奇妙なツチノコならぬ、ツチノコ虫などと呼ばれる見た目カブトムシのUMAも出没するそうだ。
しかし、この教室にいるクラスメイトたちはまさか俺がジェノサイド本人だとは思っていないことだろう
もっとも都市伝説として怪物たちと戦っていたジェノサイドたちはすでに死んでいるのだが。
そんなある日、クラスでこんな光景を目にした。
授業中、目の前の席にいる志道の首にカブトムシが止まっていた。
ぼーっとそれを眺めていたら
志道の首にカブトムシが噛みついた
ブス!
イッタッ!
バン!
自分の首を叩いた志道が首をさすると手につぶれたカブトムシの死体がへばり付く。
そのときだった!
ブス!ブス!ブス!ブス!ブス!ブス!
痛っ!
バン!バン!バン!バン!バン!バン!
無数の針で刺されたような痛みがして自分の首を力強く連続平手打ちする。
ネトネトする手のひらを見ると糸を引いていた。
ヘラクレスオオカブトとコーカサスオオカブトとアトラスカブトとギラファノコギリクワガタとアルキメデスヒラタクワガタとパラワンオオヒラタクワガタの死体が手にへばり付いていたのだ。
首筋にさながらガトリング砲で撃たれたかのような噛み傷が!
放課後、トイレの個室で事件は起きた。
ぐぬぬぉぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!、体が・・・熱い・・・ぐぁあああああああああああああああああああああああ!
俺の体が光に包まれると体が怪物風の鎧のような体に変身した。
モチーフが昆虫でありながら生物ではない。
機械的な甲殻系の整頓された美しいフォルムだ。
体格も8つまわりほど大きくなった。
た、たぶん、さっきの虫たちのせいだ!それしか思い当たるものがない!
ヘラクレスカブト
コーカサスカブト
アトラスカブト
ギラファノコギリクワガタ
アルキメデスヒラタクワガタ
パラワンオオヒラタクワガタ
の力を授かった。異形の力を感じさせる。
すでに一度、4個の宝石を手に入れジェノサイドと呼ばれる異形へと変身している俺だからこそ何もショックを感じる要素がない。平常心だ。
初めて宝石の力を得た頃は深刻に悩んだ。
でもそれも割り切ることで平静を取り戻せた。
そしていま新たな力を手に入れても動じない。
世の中にはそういう計り知れない存在があることを知ったからだ。
しかも宝石の鎧の力と合わさって俺の体はルビー、サファイア、エメラルド、イエローダイヤモンドカラーに光輝いている。
この縦横過剰に付いた頭の立派な角も惚れ惚れする。
何より外来種のカブトムシと外来種のクワガタのパワーとボディーは凄まじい力を秘めているようだ。
赤、青、黄、緑の鎧だけでも強力だったのに。
怪物たちは、もはや俺と会ったら死ぬ!そんな気がするほどのパワーを得た。
インセクターという名称をこの力が俺に教えてくれる。
そうか、都市伝説にあったツチノコ虫とはこのことだったのだ。
この力の名前がインセクターなら俺はジェノサイドインセクターということになる。
2つの力がミックスされたハイブリッド戦士が誕生した。
もはや変態と呼べるような変身を解除すると不思議な六角形の固形物が現れた。装飾品か?と思えるほど細部まできらびやかな模様が刻まれている。
どうやらこれもインセクターと呼ぶようだ。
六角形の固形物はあの不思議な昆虫、インセクターに刺された影響で生まれた力の結晶のようだ。
これを使い変身できるぞ。
そのあとで俺は校内を探し回った。すると
ぐううううううううううううううううはあああああああああああああああああああああ!
やはり、両手足を地面に膝間付き、カブトムシの力に目覚めている最中の志道がいた。
メカメカしい鎧の異形に変身していく手と、人間の手を見比べて衝撃を受けているようだ。
棒状の固形物インセクターが現れ志道の手に握られる。
志道は言った
お、俺は・・・俺は・・・うわあああああああああああああああああああああああああああ!
ショックなことだ。誰にも相談できず不安だろう。
だからこそこのことはお互いのために黙っておこう。
そう思った。
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それから数日後の放課後、もうすぐ日も暮れる。
吹奏楽部の女子たちは居残りしておしゃべりに夢中になっていた。
でね~美代ったらね~。
楽しそうに会話をする女子たちは気がつかないカーテンの裏に蛾の怪物がいることに
あっ、
風が吹いて白いカーテンが揺らぐと裏面に2mくらいの蛾の怪物が止まっていた。
まるで醜い顔についた目玉ような模様がこちらを見ている。
きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
バサバサ!
女子生徒の一人の顔面に蛾の怪物がべったりと張り付く。
いやあああああああああああああああああああ!
鳥肌が立ち、悲鳴をあげながら図書室へと逃げ込むと本棚の下に隠れた。
ここから扉が見える
しばらく隠れていると
ペタ、ペタ、ペタ。
足音が聞こえてくる
あまりの恐怖に体がガクガクと震え、息を潜めた。
ガラガラ!
誰かが扉を開いてあれが入ってきた。
ペタ、ペタ、ペタ。
醜い足が足音を立てる。
声にならない悲鳴をあげ怪物の足を見ていた。
はあ・・・。
誰かが一息ついたところで急に部屋が暗くなる。
背後の窓ガラスに巨大な翼を広げた蛾の怪物が張り付いて、日光をさえぎっていたからだ。
あははははははははははははははははははははははははははははは!
蛾の怪物が高笑いをあげる
きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!
バリーン!
怪物が窓ガラスを破り入ってこようとしたまさにそのときだった。
大丈夫か!
そこに駆け付けたのは志道だった。
うわぁ!
驚きの声をあげるのも無理もない。つい最近まで一般人だった志道は怪物の存在など知らないのだから。
あはははははははははははははははははは!
高笑いして窓辺に立つ蛾の怪物は人型でありながらまぎれもない怪物だった
はあ!
志道がとっさに飛びかかると、思いっきり拳を振るい蛾の怪物のおっぱいをぶん殴る。
大きなおっぱいがぷるんと揺れた
うふふ、もみたいの?
小ばかにしておおいかぶさるように両腕を志道の首に回す蛾の怪物
このおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
志道は両手をバンザイして蛾の怪物の腕を振りほどく。
いままで体感したことがないほどに体が身軽に動く。
ど、どうなっているんだ。俺の体は・・・。
はからずもそれは異能の力を手に入れた影響だった。
身体能力が底上げされているのだ。
これなら!
自分を能力の高さを実感し
うおおお!
殴りかかる。
バキ!
怪物の羽が志道を打つ
ぐあ!
志道もろとも椅子が吹き飛ぶ
さらに羽根が志道を打つ
ぐあ!
机が割れ
さらに羽根が志道を打ち
ぐあああ!
黒板が砕け散る
女子たちが叫ぶ
志道くん!
く、ダメだ!来るな!
あはははははははははははははははは!ぼうや、ザルタス幹部の力を思い知りなさい!
蛾の怪物が口元に人差し指を当てて怪しく高笑いをする。
残虐な笑顔がこちらを見ていた
ガシ!
首を締めあげられる志道
ぐう・・・うう。
悲鳴をあげる女子生徒たち
いやあああああああ!いやあああああああああああああああああああ!
ここで自分が負ければ次は彼女たちが狙われる!
悲鳴を聞きながら志道は覚悟を決め、数刻前に得たであろう。その力を呼び覚ます!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
守らなければ!その一心で戦いにおもむく!
強い光が彼を包むとその聖なる光の力に弾かれ吹き飛ばされる蛾の怪物
な、何んだ!
戸惑う蛾の怪物
そして光の中から昆虫モチーフでありながら機械的な質感のカブトムシの戦士が現れた。
変身しただと!カブター!生きていたのか!
驚愕する蛾怪物は志道のことをカブターと呼んでいた。
きゃあああああああああああああああああああああああ!
そんな志道を見て悲鳴をあげる女子生徒たち
ふと、振り返り数秒じっと動かなくなる志道
・・・ごめんね。
そう言い残して
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
意を決して志道は戦いを挑む。
はあ!
右拳を振るい蛾怪物の頬を殴り
はあ!
左拳を振るい蛾怪物の頬を殴り
はあ!
右拳を振るい蛾怪物の頬を殴り
はあ!
左拳を振るい蛾怪物の頬を殴り
はあ!
拳を振るえば視界の隅には異形の手と足が見える。
泣きたい気持ちを我慢して戦い続ける。
ここで彼女たちを守ったところで騒ぎになって世間から非難されることは避けられない。もう安穏とした生活など戻ってこないのだ。
理解されずとも人を守るために戦う。
いまこの瞬間、彼の決意に嘘はない。彼こそが真のヒーローだった。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
女子生徒を襲うとする蛾の怪物、それを守ろうとするカブトムシの戦士
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正義の味方の誕生だ。
特撮ドラマを見ている気分になって来る。
志道はカブトムシに刺されて変身した。
それであの怪物と互角に戦っている。
カブトムシだけであれなら今の俺の力はどれほどなのだろうか?
予想では十倍以上の力を秘めていてもおかしくない。
赤、青、緑、黄、の宝石にプラスしてカブトムシの倍は力がありそうな外来種たちが7匹、ざっと14倍とプラス4つで18倍だ。
振るってみればどの程度の力か正確にわかるはず、試してみるか
全身の力を感じ取り精神を集中させる。
ぬん!
大気が震えた。
足の周りが砕け散り、周囲の窓ガラスが吹き飛んでいく。
床のかけらが浮遊すると腹に赤、青、緑、黄の光が灯る。
手の中に六角形の謎の固形物が現れ、それを目の前に構えた。
変・身!
体から出た18つの光がすべてを吹き飛ばすと光に包まれ中からが姿を現す。
頭部が縦横縦横無尽な角のある体が赤、青、緑、黄の四色の宝石の輝く鎧へとチェンジする。
さしずめルビーサファイアエメラルドイエローダイヤジェノサイドヘラクレスコーカサスアトラスギラファノコギリアルキメデスヒラタパラワンオオククワガタカブトインセクターだ。
そうしてあらかじめ変身してから俺は図書室の扉を開いた
ガラガラガラ。
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蛾の怪物、戦い慣れてない俺にはやっぱり無理だったのか?そうじゃない!やるんだ!俺が頑張らなきゃあの子たちが!
きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
悲鳴を上げ恐怖に表情をゆがませる女子たち、泣きたくなった。
はあああああ!
躍動感のある二頭筋をうならせ、左右の拳を何度も振るい。蛾の怪物を殴りつける。
必死だった!
あはははははははははははは!変身には驚かされたけど、お前本当にあのカブターなの?
何言ってんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
拳を振るうので精いっぱいで聞く気などない。
その反応を見て蛾怪物は気がついた。
ああ、そう。これでわかったわ。あなたカブターではないのね。
あはははははははははははは!それなら何も問題ないわ!それよりあいつは死んであなたが新たなカブターってことかしら?
戦士になって日が浅いのね。まるでダメ。これがザルタスの宿敵とまで恐れられた戦士と同じ力を持っているなんてね!
蛾怪物が羽根を振るうとカブターを殴り飛ばした
うあああああ!
人間ごときがザルタス相手に歯向かおうだなんて無駄と知りなさい!
そのとき、そいつは教室の扉を開けて入ってきた。
ガラガラガラ。
なんだあいつは!
そいつはデカい。蛾の怪物なんて目じゃない。12まわりほど俺よりも巨大だった。
1まわりデカいと言えば2倍ではないが1より大きいくらいの大きさ、おおまかに1.5倍くらいだ。それが12まわりデカいと言えば1.5倍×12=18
つまり俺に18枚の装甲板を張り付けたような厚みを感じさせる体だ。筋肉の鎧とでも言えばいいだろうか。
危険な相手だ。蛾の怪物以上の脅威を肌で本能的に感じとる。
俺は蛾の怪物を無視して謎の怪物に殴りかかった!
はあああああああああ!
渾身の一撃が
ガシ!
片手で軽く受け止められる。
右手がビクともしなくなる。
くっ!なんて力だあ!
むん!
うわあああ!
謎の怪物が俺の拳を投げると引力に引き寄せられるように床を転がった
謎の怪物は言った。
カブター。貴様と俺は同じ力を持ち、俺は怪物に味方し、貴様は人類のために俺たち怪物を裏切る。
光と闇の世界を生きる俺とお前の道はたがえているようだな。
同じインセクターを持ちながらこうまで決別するとは、まあいい。蛾怪物、裏切りものは粛清する。
何を言っているううううううううううう!
蛾怪物がそう叫ぶと謎の怪物目掛けて口から火を噴く
ブワ!
火は怪物の体にぶつかるが
信じられないことに火だるまになった怪物は平然していた。
き、効いてないのか!
謎の怪物は素早く踏み込んでから
ぬん!
蛾の怪物の腹を本気で殴り飛ばす
ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
蛾の怪物がダンプカーにでも跳ね飛ばされたかのように4枚の羽をバラバラにぶちまけゴロゴロと床を転がって壁に激突した。
な・・・なんて凄まじい怪力だ!
何とか息のある蛾の怪物が苦しそうにうめいている
あ、あんたはいったい・・・。
謎の怪物は首だけ振り返ると言った
俺か・・・。
ジェノサイダー。大いなる闇だ。
そう言ってゆっくりと背を向けて去っていく。
あ、待て!
俺の静止を聞かず悠然と去っていく。
ガラガラ、ピシャン
教室の扉が閉まる音が響いた
大いなる闇・・・だと・・・。
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俺は悪役になれただろうか?
女子たちの前で志道は人間の味方をする悪魔的なポジションを確立できるよう手助けしたつもりだ。
これで志道に対する彼女たちのイメージも少しは払しょくされただろう。
カブトムシのインセクター、カブターと言ったところか。
貴様と俺は同じ力を持ち、俺は怪物に味方し、貴様は人類のために俺たち怪物を裏切る。
光と闇の世界を生きる俺とお前の道はたがえているようだな。
同じインセクターを持ちながらこうまで決別するとは、まあいい。蛾怪物、裏切りものは粛清する。
などと嘘をのたまう。
ジェノサイドとインセクターの中間的存在、ジェノサイダーの名も即興で考えたにしては筋の通った嘘と呼べるだろう。
大いなる闇はやりすぎかもしれない。
さて志道、適度に怪物を弱らせておいた。あとは頼むぞ。
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瀕死の重傷でフラフラと立ち上がる蛾怪物。
まだ生きているのか!
俺は両手の拳を構える。
・・・いくぞ!
はあ!
大ジャンプすると不格好なかかと落としを叩き込む
しゃがみ着地してそこから
蛾の怪物の羽根スイングを避け、ローリングして背後に回り込み
はあ!
正拳を背中に叩き込み吹っ飛ばす
立ち上がる蛾の怪物
全精神を集中させていく緑の力が右の拳に宿った。
不思議なその光が圧倒的な力を秘めているのを直感的に理解する。
はああああああああああああああああああああああああ!
駆け抜け、拳を突き出す!
ズバッ!
蛾の怪物を斬り裂いた
うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
蛾の怪物は悲鳴を上げ大爆発を巻き起こした。
これこそが最強の攻撃、カブタースラッシュが誕生した瞬間だった。
爆心地に立つと図書室が燃え上がる。砕けた本のぺー氏が灰となって降り注いでいた。