第二十二章
第二十二章
江戸を出、××藩に向かう一行。やがて、峠の茶屋が目に入った。
「あそこで一服していくとしよう」
一同は茶屋に入った。
「あ、こんにちは、お侍さま」
娘は、再び現れた美少年侍に、笑顔を見せた。
「あ、そちらのお武家さまも、こんにちは」
以前、馬で乗り込んできた迷惑な武士もいたので、娘はこわばった笑顔を向けた。
「あれから、無法者はもう来ていないのか?」
志津が娘に尋ねると、娘は頷いた。
「大丈夫です。父の銃が、よほど効いたみたいです」
「そうか。父親には世話になった。彼はどこに?」
「今、猟に出ています」
志津が男の振りをして娘と会話しているのを、刀右衛門と長兵衛は「ほお」と、眺めていた。
「おぬし、男ぶりが板についておるな」
娘が奥に引っ込むと、長兵衛はからかうように志津に言った。
そこへ。
「おうおうおうおう」
聞き覚えのある、耳障りな声。
茶を注いで戻ってきた娘と、志津は目を見張った。
前に茶屋を荒らした下郎二人が、連れだってやって来たのだ。
「またおまえたちか!」
志津は睨み、娘は青くなった。
「どうしよう。今、父はいないし。猟に出たら、夕方まで帰ってこないんです」
娘が怯えた。
「なんじゃい。どうかしたのか?」抜刀斉が訊く。
「こいつら、前に茶屋を荒らそうとしたのです」志津が言った。
「なんじゃ、下郎か。それならば俺が成敗してやろう」
刀に手をかけた長兵衛を、志津が止めた。
「私が相手をする」
「なに?」
長兵衛は眉を寄せた。娘も目を見張った。
「若侍さま。無理をなさらず、ここは、そちらのお武家さまにお任せしましょう」
志津は、前に下郎の親分に無様に打ち負かされてしまったのだ。娘は狼狽えた。だが、醜態をさらしたからこそ、志津は名誉挽回したかった。
道場で稽古を積んだ。今度は負けない。
志津は刀を抜いて、下郎たちの前に立った。
「おや、前回の小僧じゃないか」
下郎二人が笑った。
「また、殴られて泣くかい?」
「黙れ。今度は、前のようにはいかぬぞ」
志津は剣を構えた。その構えに、刀右衛門と長兵衛は「ほお」と感心したように声をあげた。抜刀斉は口元に笑いを浮かべて眺めている。
「大人しく出ていけばよし、さもなくば……」
「さもなくば、何だい?」悪漢どもはニヤニヤと言う。
「こうだ!」
志津は踏み込んだ。峰で、悪漢二人を打つ。
「ぐっ」
子分はすぐに倒れたが、親分は肉が厚い分打たれ強いのか、倒れなかった。
「この野郎」
打たれて本気を出したのか、親分は得物を取り出した。巨大な鉈である。
「ああ」娘が蒼白になって、口を押さえた。
「大変です、お武家さま。若侍さまを、助けてあげてください」
娘が、長兵衛にとりすがった。一同の中では、抜刀斉が一番強いのだが、娘には壮年の長兵衛が頼りになるように見えたのだろう。長兵衛が頷くと、「助太刀無用!」と、志津が鋭く叫んだ。
「死ね!」
親分が、鉈を振り回す。志津はかわした。身軽な志津に、鉈はなかなか当たらない。
「くそう!」
苛立った親分。隙ができた。
「イヤアッ!」
志津は、親分の隙をつき、峰を打ち込んだ。綺麗に、急所に決まった。
「ぐあ……」
親分は、白目を剥いて倒れた。
「よし!」
志津は、剣を鞘におさめると、両の握り拳を高く上げた。
茶屋の娘は目を丸くして、強くなった志津を見つめた。見直し、感心したような娘の視線を、志津は気分良く思った。
「たいした娘じゃな……」
のびた悪漢二人を見下ろし、刀右衛門が呟いた。
弟子の腕前に、抜刀斉は満足そうに微笑んだ。
「ありがとうございました」
茶屋の娘の礼を背に受け、志津たちは××藩に向かった。




