第十四章
第十四章
「うおおおおおお!」
凄まじい怒号に、刀右衛門は目を覚ました。
「なんじゃ、やかましいな。長兵衛の奴か」
わめき声は、長兵衛の声であった。
うんざりしながら、刀右衛門は起き出した。一眠りしたので、少し疲れも取れた。刀右衛門は、騒ぎが聞こえてくる方に向かった。
長兵衛め、わしや刀十郎だけでなく、道場にまで迷惑をかけておるのか……。隅々まで迷惑をかけねば気が済まぬのか、あいつ……。
騒ぎの震源地の部屋に赴き、刀右衛門は残っていた眠気が飛んだ。
「うおおおおおお! 放せ! 俺も死ぬ! 俺も死ぬ!」
半狂乱になって暴れ狂う長兵衛。障子は破れ箪笥はひっくり返り、部屋はひどい有様である。道場の者らが彼を押さえようとするが、次々と跳ね飛ばされてしまう。
「なんじゃあ、長兵衛。どうした!」
長兵衛の傍若無人ぶりには慣れてきた刀右衛門だったが、長兵衛がここまで錯乱して暴れるのを見るのははじめてだった。
「おお、刀右衛門殿!」
長兵衛は、刀右衛門の存在に気づくと、彼の前に手をついた。
「刀右衛門殿! かたじけない! 申し訳ない!」
長兵衛が土下座し、涙を流して床に額をすりつける様に、刀右衛門は目をまん丸にした。
「な、なんじゃ……。この男の口から『申し訳ない』など……土下座など……。おい長兵衛。変なキノコでも食ったか?」
恐る恐る、刀右衛門は長兵衛を覗き込んだ。長兵衛は涙ながらに言った。
「刀右衛門殿。拙者、切腹いたす。ご子息の後を追いまする。しなくてもよい仇討ちのために、刀十郎殿が殺されてしまった。もう、俺は生きてはいられぬ。死にます。死んで詫びます。そしてあの世で、刀十郎殿と結ばれます」
「なにい!」
息子が仇討たれたと聞かされ、刀右衛門は飛び上がった。
「おい、本当か! 息子は、政野助に殺されてしまったのか!」
刀右衛門は長兵衛の胸ぐらを掴んだ。長兵衛は泣きじゃくりながら頷いた。
「ううう……さようでございます。拙者が駆けつけるのが、もう少し早ければ……。申し訳ないいいい」
長兵衛は泣きながら謝った。長兵衛は、刀十郎が与五郎と一緒に崖から落ちていったのを、仇討ちの相討ちだと思いこんでいた。
刀右衛門の全身が戦慄した。
息子が殺された! 一粒種の、可愛い息子が!
「おおお! 刀十郎!」
刀右衛門は叫んだ。まさか殺されるなんて。息子が、こんなわけのわからない滑稽な仇討ちで死ぬなんて。
刀右衛門は長兵衛を締め上げた。
「申し訳ないですむか、貴様! どうしてくれる!」
「死にます。切腹します。うわあーん」
「おお、死ね! 死んで詫びろ、この野郎!」
刀右衛門は長兵衛に怒鳴りつけ、突きとばすと、きびすを返した。
長兵衛には切腹してもらう。すると残るは、清川政野助。
「政野助。許さぬぞ。よくも刀十郎を殺してくれたな。息子の仇をとってくれる」




