雨後の筍の王子様
令嬢が住む国には王子様と結ばれる女性が居ました。
「お姉様、私、王子に嫁ぐ事になりましたわ!」
「……? そうなの」
「む! なんですか、その反応は!」
妹のアリーシャが頬を膨らませてそう訴えてくる。
「そう言われてもねぇ」
私はルーメイア・リディエント。王国に3つある公爵家の長女です。
兄と妹が居るのですが、このアリーシャは正確には実の妹じゃありません。
お母様の妹がアリーシャの母親なのですが、彼女の実の両親は幼い頃に流行り病に倒れて帰らぬ人になりました。
ですのでリディエント公爵家で彼女を引き取り、娘として育てる事になりました。
ちなみに公爵位を持つのはお母様であり、その妹であったアリーシャの母親も同じ血筋。
なので公爵家の娘としての血筋自体は確かな子ですね。
父・母との関係は良好ながらも子育てはしっかりな方達。
ただ、実子でない分、少しアリーシャを甘やかしている節はありますね。
「王子と言っても、我が国の王子様達は皆さん、婚約者がいらっしゃったように思いますわ」
「ええ! だから隣国の王子様なんです!」
「まぁ、そういう事」
横恋慕じゃなさそうでその点は安心したわね。
あら、でもちゃんと調べなきゃかしら?
「ひとまず、おめでとう。お父様やお母様には話したの?」
「……まだですけど。それだけですか?」
「それだけって?」
私は首を傾げた。本当に分からないわ?
「もういいです!」
「あら」
お茶を飲んでいたところにやってきたアリーシャは何故か怒って去っていったわ。
あの子、何なのかしらねぇ。
「……羨ましがって欲しかったんじゃないかな、アリーシャは」
「お兄様」
「やぁ、ルーメイア」
公爵家の跡取りであるお兄様が入れ替わりのように私の元にやってきました。今日は天気が良いですものね。
「羨ましがるとは?」
「ほら。ルーはまだ婚約者が未定だろう? あの子はルーに何も勝った事がないからね。勝ち誇りたかったんだろう」
「まぁ。そんなこと? ……自分の結婚なのに、そんなのでいいのかしら」
私がどうこうなんて気にせず、自身の幸福を追求するべきだと思うのだけれど。
「しかし、隣国の王子との婚約か」
「問題のある方なのですか?」
「いや、どうかな。当たりを引いていれば或いは……?」
「当たり」
「だって、ほら。我が国の隣国の王子って言われても……ね?」
「まぁ、そうですわね」
大丈夫かしらね、アリーシャったら。
◇◆◇
「私、王子様と婚約する事になったの」
「え」
友人達とのお茶会に出ました。その場で友人の一人がそんな報告をしましたのよ。
まぁ、適齢期と言いますか、少し遅いくらいというものですけれど。
「ふふ。ルーメイア様、ごめんなさいね、先を越してしまって」
「はぁ……。それは構いませんけれど。王子様ですか?」
「ええ、隣国の」
「隣国の」
隣国の王子ですかぁ……。
こんな偶然もあるのですわねぇ。
「びっくりしましたわ」
「ふふふ。そうでしょう、ええ。器量の良いルーメイア様よりも早くにこんな良い縁談を得てしまって申し訳ないわ」
「まぁ。気になさらず。メリーアン様も伯爵家から王家に嫁ぐだなんて良い縁ですわね。ふふふ」
「…………」
何でしょう。何故か、妹のような視線を向けられているのですが?
「ルーメイア様はまだ婚約をお決めになりませんの? お早くなさらないと良家の子息は売り切れてしまいましてよ」
「ふふ。それはご心配なく。リディエント公爵家の跡取りであるお兄様は婚約者とも仲が良いですし、リディエントは安泰ですわ」
「……でも、いつまでも家に居られるワケではございませんでしょう? それこそ公子様夫妻のお邪魔になるのでは?」
「そうですわねぇ。もちろん家は出ていく予定ですけれど。ふふふ」
そこは滞りなく進めていますので問題ありません。
リディエント公爵家は抱えている領地が広いですからね。
飛び地になる領地をお母様に分けて頂きまして、私、いずれは女伯爵となる道を選ぶ予定ですの。
普段は代官を立てて領地運営を任せている地ですわね。
まぁ、これを明かすと妙な騒ぎとなってしまいますので直前まで黙っておく次第でございます。
最悪、私が生涯独身で死んでも領地はリディエント家へ返るだけですからね。ふふふ。
「それにしてもメリーアン様も隣国の王子と婚約とは。おめでたいですし、奇遇ですわね」
「は?」
「実は私の妹、アリーシャも隣国の王子と婚約する運びとなりましたの。今、リディエントではその事で大騒ぎしておりますわ」
「は……。妹が、ですか? ルーメイア様は……」
「ええ。妹のアリーシャの婚約ですわ。ふふふ。あの子もこれで落ち着いてくれるかしら? 昔から『ずるいずるい』が口癖で私の物を欲しがって手の焼ける子でしたのよ」
本当。困った子でしたわねぇ。
お父様やお母様に甘えればいいのに、どうしてああも私に関わってくるのかしらね。
ふふふ。
「は、はぁ……。でもルーメイア様の婚約ではありませんのね?」
「はい? ええ、そうですわ」
何かしら。お顔が少し引き攣っていらっしゃるような?
「あ、そ、そうなんですね! リディエントもそうなんですか! 実は……ルーメイア様。私もなんです」
「私も? カリーチェア様」
「はい! 私も隣国の王子と婚約する事になりまして! このお茶会で報告できたらなと! 言い辛かったですが、リディエント公爵令嬢もなら私の事も報告いたしますね!」
「なっ……!」
あら。カリーチェア様の婚約報告に、メリーアン様がいよいよ眉間に皺を寄せていらっしゃるわ?
「皆さん、良い縁が結ばれたようで良かったですわねぇ。ふふふ」
「はい! これもルーメイア様のお陰です!」
「私は関係ないと思うけれど……?」
「何をおっしゃるんですか! 子爵令嬢の私が王子様に見初めていただけたのはルーメイア様が私の礼儀作法を見てくださったからですよ!」
「それは結局、貴方の努力が実っただけよ。でも感謝は受け取っておくわね。そんな風に思える貴方は素敵だもの。カリーチェア様。ふふふ」
「ありがとうございます!」
カリーチェア様は素直ねぇ。
メリーアン様は何故か不機嫌になってしまわれたけれど。
せっかく婚約が決まったのですもの。喜ばしい事ではないのかしら……?
◇◆◇
「最近、聖女が現れたらしいよ」
「聖女?」
私は親友であるマルタン公爵令嬢のソフィアとお話をしています。
「ええ。治療魔法を誰よりも高位の御業で修めているらしいの。なんと、その方は欠損した手足すらも治してしまわれるとか」
「まぁ! 本当!? それは凄いわ!」
はい。この国では魔法を使える人がいらっしゃいます。
治療魔法が主に体系化され、広く使われているのが現状です。
そういった魔法が使える方は教会が保護し、育成するようになっており……国を跨いだ活躍をなさるとか。
素晴らしいですわね、ふふふ。
「ねぇ、ちょっと会ってみたいわ。私」
「もう。ソフィア。聖女様は大変なお仕事をなさっているのでしょう? 邪魔をしてはいけませんわよ」
「はぁい。ふふ」
ソフィアは噂好きの令嬢です。私よりも交友関係が広く、夜会へ出る事も多い。
そこで様々な話を仕入れては私に聞かせてくれるのです。
女伯爵になっても付き合いは続けていきたいところですね。
「ねぇ、ソフィア。貴方は『隣国の王子』と婚約なさったりしませんわよね?」
「え? 当たり前よ、ルーメイア。だって私は侯爵家への嫁入りが決まっているもの」
「そ、そうよね。良かったわ」
身近で立て続けて隣国の王子と婚約なさる方が出たものだから心配してしまったわ。
「ああ、でも」
「はい」
「……センドリアン公爵家に最近、隣国の王子様がいらっしゃってるらしいわ」
「ええ?」
リディエント、マルタンに次ぐ3つ目の公爵家センドリアンですわね。
「また何故でしょう?」
「留学という事らしいけれど。目的は嫁探しだとか」
「まぁ……。でも大丈夫ですの? だって」
センドリアン家にはモニカ・センドリアン公女がいらっしゃいます。
そのモニカ様は、我らが王国の第3王子殿下の婚約者でして……。
その。あまり仲がよろしいとは噂を聞きませんの。
王太子殿下と第2王子殿下はしっかりしていらっしゃるので王家としては問題ありませんけれど。
「……センドリアン公爵が何をお思いになって隣国の王子を招いたのかは定かではありませんわ。ただ招かれた方はモニカ様とは旧知の仲でいらっしゃったとか……」
「まぁ、まぁ」
それは……とても、含みがありますわねぇ。
そんな私達のやり取りの数日後のパーティーの場でした。
懸念していたよりも想定外の事態が起こったのです。
「モニカ・センドリアン! 俺は悪辣な貴様との婚約を破棄し、代わりに麗しいこのマリア・ローゼ男爵令嬢を婚約者とする! モニカ・センドリアン! 貴様はいずれ王となるこの俺の婚約者には相応しくない!!」
「……婚約破棄、承りました!! 他の言葉は聞かなかった事に致しますわ! ごきげんよう、さようなら! ターリン様!」
「なぁっ……!?」」
ターリン第3王子がやらかしましたわ!
でも、そのやらかしに便乗するように、しれっと婚約破棄を認めるモニカ様!
婚約破棄を突きつけておいて何を思っていたのかターリン王子は驚愕していますわね?
「──じゃあ、モニカ。君は晴れて自由の身、という事でいいのかな?」
と、婚約破棄の場に乱入する者が現れました。
そしてモニカ様の前に跪いていますわね?
あちらの方は……まさしく隣国の王子様!
「モニカ・センドリアン公爵令嬢。貴方に婚約を申し込みます。私の婚約者になっていただけませんか……?」
「喜んで!」
まぁ、まぁ、やっぱり公爵家に留学してこられた王子様がいらっしゃったのは、モニカ様が目的で?
「なっ! ま、待て!」
「何かな? ターリン第三王子」
「モニカは俺の婚約者だぞ!?」
……何をおっしゃっているのかしら、あの第三王子は。
困った方ですわね。
「……何を言っているんだ? その婚約は今、君自身が破棄しただろう。もう彼女は君の婚約者ではない」
「そ、それは……だが、まだ決まったワケでは!」
「……ふざけるのもいい加減にしてくださるかしら。王族といえど、第三王子に過ぎない貴方に、公爵令嬢である私がそこまで蔑ろにされる謂れはありません。……ましてや貴方様は『いずれ王となる』と宣いませんでしたか? 既に王国には王太子殿下がいらっしゃるというのにです! 付き合い切れませんわ!」
そうですよねぇ。あの発言はよろしくありません。
というか、こんな場所で婚約破棄だなんて何を考えていらっしゃるのか。
「それにモニカにはもう僕が求婚し、彼女はそれを受け入れてくれた。彼女を君に渡すなどありえないよ」
「ふふ……」
わなわなと震えるターリン第三王子。どうしましょう。
ここまで流れるように話が続きましたので固まってしまいましたわ。
手早く他の王族の方をお呼びして場を治めませんといけませんわよね。
「その婚約、ちょっと待った!」
「!?」
「あ、貴方は……!?」
と、その騒ぎに新たな参加者が現れました。
あ、あちらは……隣国の王子様ですわ!
「モニカ・センドリアン公爵令嬢! どうか……どうか私にもチャンスを頂けないだろうか! 私も貴方の事が以前から好きだった。ようやくバカ王子の呪縛から解放されたと言うのに、こんな形では諦められない……!」
「え、ええ……? 貴方まで……?」
まぁ、モニカ様。おモテになるわね。
でも騒ぎがより大きくなってしまったわ?
ターリン王子とマリア男爵令嬢まで、その光景をあっけに取られてみていらっしゃるわよ。
「騒ぎはそこまでだ!」
と、そこでようやく誰かが呼んだのか、国王陛下がいらっしゃいました。
私達は揃って頭を下げます。
陛下の言葉があって頭を上げる事を許されて……どうやらターリン第三王子とマリア嬢は頭を下げてもいらっしゃらなかった様子ですわね。
「ち、父上……」
「この大馬鹿者めが! 不出来なお前の為に優秀な婚約者を用意してやったというのに! このような事をしでかすとは!」
「あ、い、いや、これは……」
「言い訳など無用だ! すべて聞いていた! 婚約破棄だけでも度し難いのに、ましてやいずれ王になるだと!?」
本当にあの発言は頂けませんでしたわね!
「センドリアン公爵令嬢。この度は王家の不始末だ。追って正式に謝罪と……、諸々の事を話し合いたいと思う。ただ、これだけは言っておこう。愚息、ターリン『元』第三王子とセンドリアン公爵令嬢の婚約破棄は、王家の有責で認める!」
「な……!?」
「ありがとうございます! 国王陛下!」
あら。元が頭についてしまいましたわ。
お怒りですわね、陛下。
「……センドリアン公爵令嬢の婚約については今後一切、王家の者は干渉できぬものとここに定める。……そちらはそちらで困った事になったようだからの。追ってどうなったか教えて欲しい」
「あ、その、はい。……まさか私もこうなりますとは」
モニカ様、2人の隣国の王子に挟まれてしまっていますわねぇ。
「色々とすまなかったな。3人とも退室して良い」
「ご配慮、ありがとうございます。では……」
「あっ……!」
「……そこの2人は今すぐ捕らえて連れて行け!」
……とまぁ、大波乱のパーティーでございました。
ターリン第三王子は、あの分では廃嫡となりましょう。
マリア令嬢との愛が本物であれば男爵家に嫁ぎなどするのでしょうか?
モニカ様と隣国の王子様達の今後も気になりますわね。
◇◆◇
「凄かったわねぇ、モニカ様」
「そうですわねぇ。それにしてもあの後、どちらの王子様と婚約なさる事になったのかしら……?」
「なんでもお2人共、幼い頃からの友人だったそうよ。決めあぐねているから決闘でもするんじゃないかって」
「まぁまぁ。それは大変ですわね」
ターリン様はやはり廃嫡となったそうで。幽閉となるそうですわ?
マリア嬢は男爵家ごと取り潰し、平民となったそうで。
結局どういう方だったのか分かりませんでしたわね。
でも処刑ではなかったのは幸いだと思いますわ。
王家もやらかしてしまったのがターリン様主体だとお分かりでしたのね。
「そう言えばお聞きになって? ルーメイア」
「なぁに、ソフィア」
「……なんでも聖女様が隣国の王子様に見初められて恋愛関係になっていらっしゃるそうよ」
「え、ええ……?」
まさか聖女様も隣国の王子様と……!?
そんな事ってあるのかしら!
「それだけじゃないのよ」
「な、なに……?」
なんだか恐ろしいわ。
「あのターリン様を篭絡した男爵令嬢、マリア様。平民に落とされる事で処罰は終わったそうだけれど……その後」
「そ、その後……?」
「なんと! 隣国の王子様に見初められて、嫁ぐ事になったらしいわ! むしろ、もう国外だそうよ!」
「まぁ! なんてことかしら!?」
ターリン王子が失脚した途端、すぐに次に行かれましたの?
なんとまぁ、強かな令嬢ですわ!
「……はぁ……。隣国の王子様ブームなのねぇ。大衆の小説では様々に描かれるんじゃないかしら?」
「もう劇にしようとしている劇団がいるらしいわ」
「あらまぁ。アリーシャもヒロインの一人になるのかしらね……?」
「なりそうねぇ」
困ったものだわ、隣国の王子様。
「ルーメイアも他人事じゃあないと思うわ」
「え?」
「公爵令嬢でまだ婚約が決まっていないのだもの。貴方の元にも現れるんじゃないかしら?」
「現れるって……何がですの? まさか」
「──隣国の王子様が」
ひ、ひぃ……? もう、なんだか恐ろしくなってきましたわ!
ですが、ソフィアのこの指摘は悲しい事に当たってしまいましたの。
◇◆◇
「え、何ですか?」
「……ルーメイア。お前に求婚したいと言ってきている。屋敷の前の馬車はその一団だ」
「どなたが」
「……隣国の王子が」
「はぁ!?」
まさか釣書も送らず、いきなり求婚しに押しかけてきたと!?
「ありえません! 無礼ではないですか!」
「そ、そうですわ! お父様、今すぐ追い返してください!」
あら。珍しくアリーシャが私の味方をしてくれているわ?
ふふふ。
「ありえない。お姉様に、求婚? なんで今更、それに王子様って、なんでそんなに居るのよ……!?」
「あら。何を言っているの、アリーシャ」
「そうだぞ」
「な、何がですか? だっておかしいじゃないですか! 隣国の王子様と結婚するのは私だけで十分です! なのに、なのに……センドリアン公女も、聖女も、伯爵令嬢も、子爵令嬢も、男爵令嬢も、みんな隣国の王子様に嫁ぐっておかしいです!」
あら。それの何がおかしいのかしら?
「ついでに言うとケイント侯爵令嬢も隣国の王子に嫁ぐらしいが」
「なぁっ……!?」
あらまぁ。まだ増えますの? 凄まじいですわ、隣国の王子様!
「なんでそんなに隣国の王子様がいっぱい居るんですか!!?」
「なんでって……」
「ふむ?」
え、そこからかしら。アリーシャ、本当に大丈夫かしら。
「だって、アリーシャ。私達が住む王国の周りには……沢山の小国があるのよ?」
「え?」
呆れた。この子、地理とか他国の歴史とか勉強していないんだわ。
リディエント家が仕える王国は、大陸で一番の大国と言っていいでしょう。
我らが王国は内陸にあり、海に面してはいません。
山林などはあるものの、全方位が他国の領土に囲まれています。
とはいえ、国土は雲泥の差というもの。我らが王国には広大な国土があり、戦力があります。
周囲にあるのは我らが王国に比べれば小さな国々。
それでも『隣国』は隣国ですからね。
だって領土に面した隣の国なのですもの。我らが国が大きいせいで隣国も沢山あるのですが……。
そして周りの国もまた王政国家であり、そこには王子様がいらっしゃいます。
それらの王子様が我が国の令嬢をこぞって娶りたいと来ているのは……ひとえに我らが国と繋がりを持ちたいから。
王国としましては、わざわざ侵略する必要もない国々です。
王家との結び付きなどは流石に簒奪の懸念がありますのでしませんが、貴族令嬢となれば周辺国からは狙い目。
ですので、公爵令嬢、侯爵令嬢、伯爵令嬢、子爵令嬢、男爵令嬢、ついでに聖女様。
そういった方々にはこぞって求婚なさるそうですよ。
正直、聖女様が他国に娶られるのだけは問題だと思いますが、もうこの状況に至っては似たようなものかもしれません。
元より複数の国に拘らず活動するのが教会であり、聖女様ですからね。
……といった事をアリーシャに噛み含めるように諭してあげます。
そうしましたら、何故か青い顔をしていますわね?
「え、嘘、そんなに王子様が居るの?」
「え? ええ、まぁね。一国につき3人ぐらいは王子様が居らして、さらに隣国は10はありますから……およそ30人の隣国の王子様が、あらゆる年齢層をカバーしながらいらっしゃいます」
「30人!? 王子様がそんなに居てどうするのよ!?」
「一国は3人程度ですし、我が国も3人いらっしゃいますし……」
「今は2人だがな」
「ああ、そうでした」
この大陸に王子様は溢れかえっているのよねぇ。
「さ、30人の王子様の内の、ただの1人……」
あら。絶句しているわ、アリーシャ。
「ええ? でも、王子様には違いないのだけれど。アリーシャのお相手の方は……」
「マシな方だな。国力も程よい。私としても申し分ないよ」
「あ、あの! 屋敷の前にいる隣国の王子様は!?」
「あれはアリーシャじゃなくてルーメイアに求婚しに来たそうだが」
「どっちでもいいの! 私が婚約した王子様より上なの、下なの!?」
大丈夫かしら、この子。
「……むぅ? どっちもどっち……か?」
「ど、どっちも、どっち……?」
「国力としては、童の背比べ程度の違いしかないな。ただ今、屋敷の前に来ている者は身勝手に押しかけてきているような者だ。あまり薦められんな」
「ですよねぇ。帰って貰えます?」
「そうするか」
「……え!? でも王子様に失礼だからお姉様が出ていくべきじゃ……」
「我が国の公爵令嬢が、小国の王子風情になめられて良いワケがない。ルーメイアも乗り気でないのなら追い返すのみだ」
「で、でも私の時は……受け入れていらっしゃったのに、お父様……」
「それはアリーシャがお相手に好意を持っていたからでしょう?」
「そうだ。お前の気持ちが大事だったからな」
「…………」
という事でお父様は無礼な隣国の王子様を追い返してくださったわ。
アリーシャはその後、何故かショックで寝込んでしまったの。
困った子ね、本当。
その後もしつこい隣国の王子様はいらっしゃいました。
護衛をしっかり付けて活動しまして、いつも追い返しています。
迷惑ねぇ。隣国の王子様。
「何故だ! 王子である俺が求婚しに来てやってるんだぞ!」
「はぁ……。王子には何の興味もございませんので。どうぞ、お帰りくださいまし」
「くっ!」
国力の差というものを考えて欲しいですわね。
様々な隣国の王子様達。流石に30人全員が王国に入り込んでいるワケではございませんので、対処も可能です。
そんな日々を送りつつ、私はお母様より女伯爵の地位を与えていただける日が参りました。
「は? お姉様が女伯爵……?」
「ええ、そうだけど?」
アリーシャは婚約者である隣国の王子様に不満なのかしら?
悪くない相手だとお父様もお墨付きでしたけれど。
「ルーメイアは領地運営の勉強を頑張ってきたものね。私も厳しく見定めさせて貰ったし、あの人もそうよ。ええ、伯爵の名を与えるに相応しいと思うわ」
「ありがとうございます、お母様、お父様」
ふふふ。晴れて女伯爵ルーメイアの誕生です!
楽しくて厳しい領地運営の日々ですわ。領民を豊かにしてあげませんとね。
「それは……どっちが上なの……?」
どっちが上って。もう。
「アリーシャ。もうルーメイアに変な拘りを見せるのはやめなさい。貴方は貴方の人生を歩むんです。でないと貴方自身の幸せを逃してしまいますよ」
「…………お母様、……はい」
アリーシャの中ではどうしても私と優劣をつけたかったのかしらねぇ。
小国の王子妃になるアリーシャ。
大国の伯爵になる私。
どっちが上かと問われたら微妙じゃないかしらね?
私の方にはそんな拘りはないわ。
「お姉様は……王子と結婚されるんですか?」
「しないわよ? そんなつもりも予定もないわ」
「……そうですか」
「そもそも私、好きな殿方、居ますもの」
「え!?」
あら。驚く事かしら……。家族はみんな知っているのだけれど。
「ど、どなた!?」
「嫌よ。アリーシャには教えないわ。結婚してからなら教えてあげてもいいわ。でも……王子様じゃないから安心しなさい?」
「なんで!」
「なんでもよ」
この子のずるいずるい癖が出て婚約が破綻したら流石に可哀想だものね。
でも身分に拘っていたこの子にしては満足なんじゃないかしら? ふふふ。
そうして私は正式な手続きを踏まえた上で伯爵位を賜った。
領地に向かい、アリーシャも婚約前にあちらの国で過ごす事になる。
今の内というところね。
私は、しれっとそのタイミングで長年、一緒に居た護衛騎士と結婚する事にした。
流石に邪魔されたくないものね。ふふふ。
護衛騎士の彼は王子様じゃないわ。平民の、公爵家お抱えの騎士だった人。
ふふふ。公爵令嬢のままだったら平民との結婚は難しかったけれど。
女伯爵となった私は、特に他貴族と縁を結ぶ必要もない。
元から後ろ盾に公爵家がありますもの。
上位貴族の一人と言っても伯爵家に平民が婿入りしてはいけないなんて事もないわ。
結婚式は伯爵領で行われた。親しい友人と両親を招いての慎ましい式。
婚約期間はなかったけど、ずっと一緒に居た彼だもの。
両親も私の気持ちを分かっていたので不満はなかったわ。
「ルーメイア、おめでとう!」
「ありがとう、ソフィア。身分は変わってしまったけれど、これからも仲良くしてくれる?」
「ええ! もちろんよ! 本当におめでとう! これからも幸せにね!」
「ええ!」
こうして私は愛する人を伴侶にし、女伯爵として幸せになれました。
ふふふ。
王子様となんて結ばれなくても、幸せにはなれるんだって、これからも証明し続けていかなきゃね?
雑にキャラ掘り下げずに生えてきて令嬢をかっさらっていく記号的ポッと出な王子様、多過ぎ問題。