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003 聖都アルテリア

 目を覚ますと、俺はストーンサークルのような遺跡の真ん中にいた。

 とりあえず辺りを見回してみるが、どうやらここは草原にぽつんとある、忘れられた遺跡のようだった。


 周辺には誰もいない。そしてそれほど遠くない場所には、とてつもなく長い城壁が見えた。


 ――あれが女神様の言ってた都だろうか……。


 そんな事をぼんやりとしながら考えるも、俺はすぐに城壁よりも後方に目を奪われてしまう。

 その都の遥か後方には山脈が連なり、その上には……なんと巨大な島が浮かんでいたのだ。


「イースかよ……」


 呆気に取られながら、思わず呟いてしまう。

 俺は暫く空に浮かぶ島を眺めながら、本当に異世界へ来てしまったんだな……と感慨に(ふけ)ってしまった。




 はっ! いかんいかん!

 ここは魔物が普通にいる世界なんだった。いつまでもこうしていちゃまずい。

 とにもかくにも都に向かおう。


 だがその前に……、まずは所持品の確認だ。


 服装は夜勤帰りのままのツナギに、安全靴と下着と靴下。

 ポケットには百五十ミリの鋼尺(こうじゃく)と百均のカッター、後はペンとメモ帳しかなかった。


 ――これ、死んだときの恰好そのまんまじゃないか……。


 これは女神様の配慮だろうか。まるで死んだ直後からの再スタートという感じだった。

 とりあえず他に所持品が無いか確認してみる。


 財布もスマホも無かったが、代わりになのだろうか、硬貨の数枚入った革袋があった。

 女神様の植え付けてくれた知識によると、この硬貨はこちらの通貨らしく、慎ましく生活すれば一月は過ごせる金額というのが、なんとなく分かった。


 他には水の張った手桶があり、中には人参芋(にんじんいも)切り苗(きりなえ)が数本入っていた。

 この手桶もサービスしてくれたっぽいな。女神様ありがとうございます。


 水に浸かる苗を覗いてみたら、ちょっと節から根が出てきている。

 女神様の情報だと、この地域はこれから初夏に向かうようなので、植えるには丁度良さそうだ。

 家庭菜園させてもらえる宿が見つかったら、早速植えさせてもらおう。


 俺に与えられた荷物はこれだけか……。

 正直生きていくための荷物が全く無いので、少しでも早く都に入った方が良いと判断する。


 よし、都に向かうか! たしか女神様は、最初に冒険者ギルドを目指せって言ってたな。




 都の城壁が見える距離だった事もあり、すぐに街道と思われる道を見つけることができた。

 何食わぬ顔で道に出ると、俺も道を行き交う人に紛れて、都へ向かって歩いていく。


 これから向かう都は女神様の情報だと、聖都アルテリアという名前らしい。

 なんでもこの地を治めるアルティナ神聖皇国の首都なんだとか。


 聖都に向かう街道のため、人の往来がかなりある。

 どの人もまさに 『ファンタジー!』 な恰好をしているため、むしろ俺の方が目立っているんじゃないかと、少々不安になってしまった。


 都に近づいてみると、しっかりと整備された河川がいくつもある事に気が付いた。

 ひょっとしたらこの都は、治水と利水がかなり整っているのかもしれない。


 聖都への入場待ちの列に俺も加わったものの、思わず門兵には何て答えたら良いのか悩んでしまう。

 もしかしたら身分証のような物が必要だったりするのか? なんて不安に思っていると、前の方で 「冒険者になるために村から出てきました」 と答えている若者がいたので、俺も彼に倣う事にした。




 おぉ~普通に入れてくれた。ありがとう、名も知らぬ若者よ!


 ここはダンジョンのある大きな都のため、一旗(ひとはた)揚げようとする冒険者志望の若者が多く集まってくるらしい。

 ちょっと年は食っていたが自分もそのうちの一人と見てくれたようで、思っていたよりもすんなりと入れてもらう事ができた。

 むしろ 「すぐに死ぬなよ」 と、門兵に励まされてしまった。まぁ俺の今の装備、手桶一つだもんなあ……。


 さて、門兵には冒険者ギルドがどっちにあるのか教えてもらったので、早速行ってみるとしよう。


 完全にお(のぼ)りさんな状態で、聖都の景色をキョロキョロと眺めながら冒険者ギルドを探していく。

 思っていた以上に綺麗な街並みに驚き、想像していた以上に多種多様な種族の人達に目を奪われてしまう。


 異世界といえば定番の、エルフと(おぼ)しき耳の長くて見目麗しい男女が仲睦(なかむつ)まじく歩いて行くのを見た時は、思わず 「おおっ!」 と声を漏らしてしまった。


 獣人の姿も多い。漫画やアニメにありがちな、人の顔にケモ耳と尻尾が付いただけって感じではなく、どちらかといえば少々獣よりな顔立ちだ。

 しかし全く(いびつ)な感じはせず、むしろ誰もが非常に美しいと感じる顔立ちやプロポーションをしていた。


 見る物全てが新鮮で、街を歩くだけでとても楽しい。本当にファンタジーな世界に来たんだと実感してしまう。

 ついこのまま一日中散策していたいところだが……まずは冒険者ギルドだ。




 暫く歩き、目的地である冒険者ギルドと思われる建物までやってきた。


 ――あっこれだ、ここに違いない。


 堅牢な作りの建物には、いかにもな絵柄の看板があり、文字も書かれている。

 読める! 読めるぞ! と心の中でムスカのようなセリフを呟き、すんなりと文字が読めた事に安堵する。


 意を決し中へ入ると、意外と人が少なかった。この時間帯はあまりギルドへ用事がある人は少ないのだろうか?

 中は俺が思い描いていた冒険者ギルドそのまんまで、受付カウンター、納品カウンター、そして依頼の張られた掲示板などが見える。

 そして、どうやら酒場兼食堂も併設されているようだった。


 辺りをキョロキョロとしていたら、掲示板の横にある椅子に座っていた可愛らしい少女が、こちらに気が付きやってきた。


「冒険者ギルドは初めてですか?」


「あっ、ああ……。冒険者になりたくてここに来たんだ」


「でしたらあちらのカウンターから登録する事ができますよ。――今は空いている時間帯ですので、どの列でもすぐに登録できると思いますっ」


「そうなんだ、ありがとう。――君はここの職員さんかい?」


「私は見習いです。あちらの掲示板で文字の読めない方のために、依頼のご案内をするのがお仕事なんです」


 俺の問いかけに、少女はにこやかに答えてくれた。可愛いなあ。


「文字が読めるのか、えらいなあ。――また何かあったら教えてね」


「はいっ!」


 少女は元気良く俺に返事を返してくれると、再び掲示板の方へ戻っていった。


 さて……どのカウンターでお願いしようかなと、ざっと見回してみると、どの受付嬢も美人さんばかりでびっくりしてしまう。

 良い意味でテンプレどおりの冒険者ギルドのカウンターだったので、思わず感動してしまった。


 ――その時 『ちりりーん……』 と、清らかな音色の持鈴(じれい)が鳴ったような気がした。


 そして何となく、耳の長い女性に目が留まる。

 なんだろう……何か直感めいた感じがしたので、俺はそのエルフのお姉さんのカウンターへ行く事にした。




「アルテリア冒険者ギルド本店へようこそ。本日はどのような御用でしょうか?」


「えっと、冒険者になりたいんですが……」


「了解致しました。登録手数料は小銀貨一枚となりますが、よろしいでしょうか?」


「はい、ちょっと待ってくださいね……こちらでお願いします」


 俺は慌てて革袋から小銀貨一枚分の価値である銅貨十枚を渡した。


「はい、……確かに小銀貨一枚分確認致しました。――それでは身分証となります冒険者証(ギルドカード)を発行致しますので、こちらの用紙へあなた様の情報の記入をお願いします。もし読み書きが困難でしたら口頭での受け答えでこちらで記入させていただきますが、いかがいたしましょう?」


「ああ、自分で書きます」


「ありがとうございます。読み書きは技能の一つとして評価致しますので、こちらに(まる)を付けておいてくださいね」


 受付のお姉さんが指差してくれた箇所に(まる)を打った後、とりあえず上から順に記入していく事にする。

 種族、名前、年齢、出身地とあるんだが……出身地どうしよう。


「あの、出身地って書かないといけません? 自分のいた場所がよくわからないんですが」


「そちらは亡くなられた場合の遺留品をご家族等に届けるために必要な場合が殆どですので、必要なければ空白で構いません」


「分かりました。とりあえず空白にしておきますね」


 前職もどうしよう。期間工なんて書いても意味不明だろうしなあ。実家が農家だったし、農民にしとこうかな。


 所属パーティ関連全て無し。


 習得技能は……一応、徒手格闘技って書いておこうかな。実は前の職場に勤めていた時に習得したんだよね。

 俺は航空専門学校から自衛隊に就職して、航空機整備員をしていた期間が十年ちょっとの間あったので、その時の訓練で身につけた。

 もちろん陸自の連中のような練度は無いんだけど、訓練で日本拳法をベースにした徒手格闘をやっていたから、一応体はまだ動くはず。

 後は芦原会館(あしはらかいかん)て流派の空手にも参加していた。

 余談だけど、今はもう自衛隊って徒手格闘じゃなくて総合格闘技に変わっちゃったらしいね。

 

 あっ、ギフトを書く欄もある。

 うーんどうしよう、なんかこの部分は正直に書かない方が良い気がする……。


「あの、ギフトって書かなきゃいけません? 俺ちょっと残念な感じのギフトなので、あまり人に知られるの恥ずかしいなーと……」


「ああ、ギフトも自己申告なので、空白で構いませんよ。実はほとんどの方が空白だったりします。えっと……、お名前はケイタさんですね。――ケイタさんのように他者に知られるのが恥ずかしい方もいますが、殆どの方は切り札を知られたくないって理由で空白ですね。記入される方は少しでも階級を上げる際の評価に繋げたい方や、職能関連で有利になりたい方などです」


「なるほど。――では俺も空白のままにしておきます」


「そのような理由でギフトを秘匿(ひとく)とされている方が多いので、他者にギフトを尋ねる時は注意してくださいね。最悪、殺傷沙汰になる場合もありますので。パーティメンバー内でも親しい方でないと教えないって人もいるんですよ」


「うっ、気を付けます……」


 俺も尋ねられても答えないように気を付けておこう。折角教えたのに笑われたら心にダメージ残りそうだし……。

 あんまり記入できる箇所は無かったが、とりあえずこれで提出してみる。


「ではこれでお願いします」


「確認させていただきますね。……はい、問題ありません。それでは登録してまいりますので、少々お待ちください」


 そう言うと受付のお姉さんは奥の方へ行ってしまったので、暫く待つ事に。

 しかし、いよいよ俺も冒険者かあ……。


読んでいただきありがとうございます。

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