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第二話 リピート

リピートにリクエストがありました。

リピート小説は、次の通りです。


◎貰った言葉を、何度も何度も繰り返し使って、小説を書く。

◎最低10回は、その貰った言葉を使用する。


【ごめんください、〇〇と申します】

これが、貰った言葉です。

よろしくお願いします。

『隣のおじさん』


 このアパ一トに引っ越してきて、一ヶ月が経った。今は珍しく、静寂に包まれている。本当に、久し振りだ。

 いつもは、隣のおじさんがうるさい。電動ノコギリとか、ドリルの音が響いている。壁が薄いから、丸聞こえだ。

 正直、苦手だ。早く帰った夜は、テレビも聞こえない。蚊が耳元に来ても、たぶん聞こえないほどだろう。


 家に帰ったら、両耳の穴に、物体を突っ込む。たまに、両耳を物体で押さえつけたりもする。そして、そこに爆音を流す。それが、日常化していた。

 おじさんは、愛想も良くない。挨拶をしても、いつも1ケタ角度の会釈しかされない。だから、最近はしていない。

 でも、数日前に、発明品をくれた。特殊な光で起こしてくれる、目覚まし時計らしい。まだ、怖くて使えていないのだが。



「ごめんください、発明おじさんと申します」

 チャイムが鳴り、そんな声が聞こえてきた。

「ごめんください、発明おじさんと申します」

「はい」

 関わりたくないが、返事をした。とりあえず、声を出した。ここで、無視するわけにはいかない。


「ごめんください、発明おじさんと申します」

 何かがおかしい。ずっと同じだ。まったく同じ抑揚とリズムが、続いているような。

「ごめんください、発明おじさんと申します」

「どうぞ」

 そう言っても、返事はない。録音を流している。その説もある。だが、声はとてもクリアに聞こえた。


「ごめんください、発明おじさんと申します」

 また、同じ文句。とりあえず、ドアを開けるしかない。

「ごめんください、発明おじさんと申します」

 このままでは、うるさくて何も手につかない。

「ごめんください、発明おじさんと申します」

 止まない言葉に向かって、恐る恐るドアを押した。そこには、誰の姿もなかった。


「ごめんください、発明おじさんと申します」

 聞き飽きた言葉は、開けても止まらなかった。

「ごめんください、発明おじさんと申します」

 その声の先に、もうひとつの声が聞こえた。

「ごめんください、発明おじさんと申します」

 もうひとつの声を確認したい。そのために、完全に廊下に出た。


 おじさんの部屋の前から、声がしていた。

「こっちです。こっちです。こっちです」

 これも、おじさんの声だ。

「こっちです。こっちです。こっちです」

 助けを求めている。そう感じた。

「こっちです。こっちです。こっちです」

 リピート再生のような、声に導かれ、ドアを三回叩いた。そして、すぐにドアを開けた。

 

「ごめんください、隣の者です」

 そこは、がらくたの山。木材や金属片などがあった。乱雑すぎる。そのなかに、おじさんの頭らしきものが見えた。

 右半身を下にして、床に倒れていた。すぐに、スマホを取り出し、救急車を呼んだ。

 助かってほしい。その気持ちだけが占拠し、頭は、ほぼ真っ白だった。





 あの日のことは、よく覚えていない。おじさんの部屋に入ってからの記憶は、ほとんどない。

 でも、あのしつこい言葉の繰り返しは、覚えている。まだ、脳にしっかりと刻まれている。


 おじさんのお隣さんは、ふた部屋あるはずだ。なのに、発明品をこちらの部屋だけに取り付けた。理由は、特にこちらを信頼していたってことか。

 ずっと、仲良くなりたかったのかもしれない。そうじゃないと、あんなに立派な目覚まし時計はくれない。

 朝が弱いことも、察してくれていたってことか。そのことに、今さら気付いた。


 不器用なだけで、誰も嫌ってはいなかったのだろう。おじさんは、きっといい人だ。戻ってきたら、また挨拶くらいはしたい。たとえ、返事が返ってこなくても。


 あれは『SOS発信器』という発明品らしい。拍動の異変で、発動するものみたいだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 早速リクエストにお応えいただき、どうもありがとうございます。 早々に書いていただいたのに、当の自分がこちらに来るのがほぼひと月ぶりでごめんなさい。 まず最初に、不謹慎かもしれませんが冒頭部分…
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