エリザベス 001
初投稿になります。
宜しくお願い致します。
私はカワイイ。
とか言ってしまうとイタい女がなんか言っている様にしか聞こえてこないけれども、
そう思ってくれて構わない。
ほとんどの人が私の事を「イタい娘」や「可哀想な子」等と評価すると思う。
それを否定するつもりはない。
所詮は他人の評価なんだし、相手がどう感じるか?を押し付ける事は出来ない。
ただほんの一握りで良い、「この娘の考えは正しい」と思ってくれる人が居てくれれば、私は頑張れる。
それでは始めよう。
エリザベス·チャップマンと接して来た様々な人との軌跡を…
☆☆☆☆☆
「なんでこうなったんだろう?」
「いつもの事だろ」
「私はか弱い」
「そんな事は無い」
「それなのにいつもいつも、所構わず誰彼構わず、私を見かける度にバトルバトルバトルバトル!もうイヤだ!なんでこんな事になってんの!」
「アンタが強いからだ」
「うるさい!!私はただの道具屋の美人店長Aだ!モブキャラだ!」
「Bが居るのかよ?」
「黙れっってんでしょうが!殺すぞ!?」
「こわ…」
とまぁいきなり始まったがこれでは何も解る訳が無いので状況を説明しよう。
まずここは『魔法使い世界一決定戦』通称『M-1』の競技場。魔法なのかマジックの略称かはわからないけど、この大会で優勝した者には100証貨(10億円)以内の願いなら何でも叶えてくれる特権を与えられる。
ちなみに「100証貨頂戴」って言っても貰えない。
あくまでも願い事限定なので出来ない事も有るんだろうけど、とりあえず凄い事なのだろう。
先程突っ込みを入れていた男は今回の優勝者、ナナシ君。名前を誰も知らないからナナシらしい。優勝者に送られる100証貨以内の願いは道具屋の美人店長A…もとい、この話の主人公で道具屋の店長をやっているエリザベス・チャップマン。つまり私との一騎打ちである。
ちなみに「殺すぞ」と強い言葉で相手を脅している矮小な人間が私。
「さぁやろうか?本当の最強を決めようぜ」
「そんなの知らないわよ!!」
「街で『世界最強の魔術師は誰だ?』って質問すれば色んな名前が上がる。だけど『世界最強の人間は誰だ?』って質問したら間違いなくエリザベス・チャップマンの名前が上がるんだよ」
「だから知らないって!!ただの噂よ!鵜呑みにすんなこのハゲ!」
「ハゲてねぇよ!つまりこの満員の観客がいる会場でアンタを倒せば俺は張れて世界最強を名乗れるって訳だ」
この時代の男はこんな輩ばかりだった。やれどっちが強いだの、やれ俺の方が強いだの、そんな事を年がら年中言い合って、喧嘩して…果てはこんな大会まで開催して、全く意味不明である。
漢のロマン?どうでもいい。
「もういいよ。早く終わらせよう」
本当にどうでも良くなってきた。それよりもこの見世物になっている状況を早く終わらせたい。
大観衆の中、何でこんな事に…
堂々巡りだ。
「やっとその気になったか、それじゃ先に行くぜ。頼むから一激で終わってくれるなよ?」
言った瞬間姿が消えた…イヤ、3メートル先の目の前に居たはずのナナシ君は、私の背後に回り、後頭部に蹴りを入れる寸前で止まっていた。
『…全然見えなかった』
と冷や汗をかいていると「チッ!」と舌打ちをして10メートル程距離を取った。
「俺の蹴りを防ける結界?有りえねぇだろ、そりゃ一体何だ?」
自信満々だが…まぁ普通であればナナシ君の言った通りなのだろう。ナナシ君がトーナメント最初の試合で全く同じ事をやって相手の後頭部を消し去っていた。消し去っていたと言うのは何らかの比喩ではなくて、言葉の通り「後頭部だけ」が無くなっていた。
とは言ってもその試合を観戦していたほとんどの人間が(私を含めて)何が起こったのか分からなかったと思う。開始の合図と共にナナシ君が相手選手の後方に瞬間移動したかと思うとその相手選手はバタンと倒れた。よく見ると後頭部が無くなっていたのだから、私からするとたった今『あぁ、あの時の試合はこうして終わったのか』と気付いたぐらいだ。
つまり
ダッシュ→後頭部に延髄蹴り?→着地。
ナナシ君がやったのはこれだけという事、ただし超高速で。
そしてさっき言っていた防御結界だけど…これはちょっと説明し辛い。
通常の防御結界は自分を中心に1メートル程の水の様な抵抗で守られていると思って貰えれば解りやすいかもしれない。
一般人が防御結界を使っている人に剣で切り罹っても水の様な抵抗が邪魔をして切る事は出来ないが、上級の魔法使いにとっては普通の防御結界など紙きれ同然なのだ。
プールに張られた水を一発で吹き飛ばせる攻撃が出来るからね。
まぁ、私はそんな欠陥品は使ってない。
「教える訳無いでしょ?バカなの?バカでハゲってどうなの?」
精一杯余裕を見せながら挑発する。こちらはさっきの一撃で震えあがっているのだ。声が震えるのをなんとか我慢していたけどバレてはいないだろう。
今大会はトーナメント方式。今までナナシ君の試合は全部見て来た。
対策もバッチリだ。
「ハゲてねぇよ。てかそんな安い挑発に乗るかよ」
ナナシ君は徐に床に手を伸ばし、競技場の石版へ指を差し、卵大の石にして持ち上げた。
そしてダーツを投げるようなフォームで半歩踏み込んだ瞬間、腕が消えた。
同時に私の顔近くで大きな音と砂ぼこりが発生する。
さっき蹴りが通じなかった事で私が何をしているのか知る為、見に回った様だ。
思ったよりは冷静。
石はおそらく私の顔面を狙ったのだろうが当然のごとく私には当たらない、これもまた当たる直前に粉々になって砂塵の一粒すら体に触れる事はなかった。瞬きの必要もない。
てか見えなかった。
どんな肩してんだあのヤロウ。
だけどこのまま好きにやらせるつもりはない。私はさっさとこの試合を終わらせたいのだから。
挑発は失敗したみたいだから最初に考えていた作戦は通じない。
だけどナナシ君は粉々になった石を観察して何やら考えている。あんな風に一ヵ所に留まっていてくれるなら…
私は空間圧縮魔法の効果があるウエストポーチから、魔法陣の描かれた1辺5メートル四方のシートを2枚取り出し、1枚を裏向きで地面に置き、その上に表向きにシートを重ねる。
本来この大会は魔法道具禁止だけど私は魔力を持たない。だから本来なら魔法も使えない。代わりに魔法道具の制限を解除されていると言う訳だ。
因みに魔法道具の定義は『自身の魔法力を底上げする物』。
例えば魔法の杖は魔法を出す際に魔力を効率化して威力を高める効果があるし、魔法剣は精霊を憑依させて特定の属性効果を与えている。
私が今使っている魔力バッテリーなんかはもうそのまんまドーピングと変わらない物だろう。
魔力バッテリー…つまり魔力を貯めて魔力の無い人でも魔法を使えるようにする魔道具だ。
さっきナナシ君が床として使われている石版を割って投げて来たけどあれはギリOK。
『魔法の技術を競う大会で武器を使うってどうなのよ?』
『いや。投げた力は魔力による物だからアリじゃね?』
みたいな。
まぁこの試合、大会自体は既に終わっていて、優勝者の願いとして「もう1試合やりたい」と言って急遽設けられた。言わばエキシビジョンなのだからルールにそこまで縛られる必要もないのだけどね。
私は重ね合わされたシートの上に乗りポーチから小瓶を取り出して中の白い粉をシートの上に撒き、更に2メートル程の長さの鎖とクルミ程の大きさの黒いボールを取り出して…準備完了。
何の準備かって?もちろん反撃の。
「何をやって…イヤ。教えてくれる訳無ぇわな」
「当然」
私はしゃがんで魔法陣を起動させる。
瞬間。
移動する。
ナナシ君の目の前に。正しくはやや上方になったけれど狙い通りである。
先程の魔法陣。あれはテレポート用の魔法陣である。
2枚用意したのは競技場の石版も一緒にテレポートさせる為だ。
表面は私を、裏面は石板を移動させる用。
一緒にテレポートして石版でナナシ君の心臓を真横に真っ二つにした。
私の予測では下半身(と言うにはやや上気味だけど、この場合石版より下の半身と受け取ってくれると助かる)は石版の重みぐらいでは潰れないで倒れる程度だろう。つまり先に石版が下半身を支点として競技場に着地してそれから斜めに力が加わった下半身が倒れ込む形になる。
石版が着地するまで(落下中?)多少のタイムラグが発生する。その間に上半身の首に鎖を巻き付ける。
両腕も切断されているナナシ君は咄嗟に抵抗出来ない。
そこに黒いクルミを叩きつけて…ボンっと。
「着地した瞬間に防音効果付きの煙幕ボールを叩き割って決着」
「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「うわ!喋ってる!?気持ち悪!」
心臓から上だけの状態で叫んでるけど…どうやってるのこれ?
「くっそ!てめぇ、何しやがった!?なんで回復しない!?」
「あぁ、なるほど。わずかに残った肺の中の空気を増殖したんだ?それで横隔膜が無くても喋れるって訳ね、なんて器用な」
人間が言葉を発するには絶対に息を吐かなければ声を出せない。しかも声帯を振動させてちゃんとした発音しようとするなら息を吐く量も細かに調節しないといけないのに、それを増殖魔法だけでコントロールするなんて、ものすっごい繊細な作業だ。
神がかっている。
「んなこたぁどうでもいいんだよ!?どうなってんだコレ!?」
さっきは教えてくれる訳ないって言ってたのに、あまりの事態に脳が対応出来てないのか…まぁいいや。勝負は決まったし。
いや、もう負けを認めてるのかな?
「どこから解って…てか、最初の蹴りを防いだ時から解って無かったか。んじゃそこから説明するけど、まずあの結界は時空間結界って言って物理攻撃を完全に遮断出来る結界なの。物理攻撃しか出来ないナナシ君にとっては天敵でしょうね?2枚の魔法陣シートは解っているだろうけどテレポート用魔法陣。私自身と下の石版を瞬間移動させたの。後は鎖で魔法を封じさせて貰っただけよ。その鎖は魔力封じの効果がある魔法道具。魔力を外に出せないってだけだから体内で魔法を使う分には問題ないはず。心臓が無くても酸素入りの血液を増殖すれば生きてはいられるからね。白い粉はただの痛み止めの薬。今はもう痛くないでしょ?」
「ちょっと待て。確かに痛みは気持ち悪いくらいにどんどん引いて行くけどなんだ時空間結界って?そんなもん聞いたこと無ぇぞ!それにテレポート用魔法陣なんてどこで手に入れんだよ!?あれは扱いが難しく危険…今の俺みたいな事になるから国の公的機関だけでしか取り扱っちゃいけないはずだろう?後なんで俺の魔法が増殖だって決めつけてんだよ!?」
まぁそれくらいなら話しても大丈夫でしょう。
「時空間結界ってのは私が開発した新しい結界魔法道具。これから売り出される事になるから。テレポート用魔法陣も私が開発した物だから持っていて当然。もちろん扱い方は誰よりも心得ています。んでもって秘密にしてるみたいだけどあなたの魔法は無属性の増殖と圧縮でしょ?世間では『戦闘に関する多種多様な魔法をマスターしている偉大なる魔法使い』なんて言われているけどそんな訳無いじゃん。どんなに才能が有っても同属性の魔法を2種マスターするのが人間の限界だ。ってのは昔から言われて来た常識でしょ?『魔法使いの突然変異』なんてそうそう出て来る物じゃないのよ。確かに『人一人での総魔力量』と『魔力操作の繊細さ』は世界一かも知れないけどね?」
「アレはアンタが…なんで圧縮魔法も使えると思ったんだ?」
「思ったんじゃなくて圧縮魔法を持っていると考えないと説明つかないから。そうじゃないとあの急加速やあの破壊力…それに以前の戦いで見せていた超重力や硬化魔法に説明がつかない。アンタが使っている移動方法は、増殖と圧縮を利用して見た目に見えない様に体重移動して自分の身体を吹っ飛ばしているだけ。ただ吹っ飛ばしただけじゃあんなに精度は出ないから空気を圧縮して飛んで行く方角を微調整したり途中で向きを変えたりブレーキに使ったりしていたはず。例えばアンタが目に見えない程の速さで石を投げる事ができたのかを説明するなら…人間、魔力を使わず素の力でも100km以上の速度で卵大の石を投げる事は可能。何故それを可能にしているかというと、まず後ろの押し脚で体重を前に倒し、止め脚で体重を上半身に集めて石に乗せる事によって剛速球を投げる事が出来る。ならば力はそのままでも体重が重く、その体重を上手く石の重さに乗せて投げる事が出来れば速さが増す」
簡単な物理学だ。
その体重移動を体内だけでやってのけたのだろう。おそらく数千トンもの質量を一瞬で移動させて…
ダーツを投げるようなフォームだったのは身体への負担を減らす為と、狙いやすさを重視したナナシ君の発想じゃないかな?
もしナナシ君が圧縮を持っていないとすると速さももちろんだが、固さ、攻撃力、正確性全てに説明がつかなくなる。と言うより本当に10種類ぐらいの魔法をマスターしていると言う事になる。
「…んで?この煙幕は?まさかこんなおしゃべりを隠すためにこうやって話している訳じゃないよな?」
「そうね…ここからが本題。あなた、前に重力を操って見せたわよね?あれ二度と使わないでほしいの」
「はぁ?なんで?」
「あなたは魔法のことをどれほど理解しているのかしら?」
「そりゃ…どういう意味でだ?」
「そうね、質問が曖昧過ぎたわね。それじゃもう少し講義を続けようかしら。まず魔法と物理現象について。物理現象として鉄の箱のような密閉空間で火を起こしたらどうなるでしょう?」
「…酸素を燃焼し尽くした時点で火が消えるだろ」
「正解。ではその火が魔法で起こしたものだったら?」
「なめてんのか‼んなもんずっと燃え続けるに決まってんだろ‼小学生でも解るわ!」
なるほど。小学生の知識はあるみたいね。
「正解。では中で火が燃え続けた鉄の箱の上に紙を置いたらどうなるでしょう?」
「あぁ?焦げるとかか?温度によっては燃えるんじゃねぇの?」
「正解。ではその燃えた紙は魔法現象?物理現象?」
「物理現象だ。酸素を燃焼させて二酸化炭素を排出する。普通の燃える紙だ。魔法現象とは使用した魔法そのものだけで、それによる副次効果は物理現象に該当する。それも小学生で習うようなことだろうが!」
「正解。…とここまでを前提条件として、ナナシ君の重力魔法ってあれ、地面の質量を変化させただけのただの物理現象でしょう?」
「…それが?」
「重力を変化させる程の質量を増やすとねこの星の軌道が変わるの」
「………へ?」
「この星は太陽の周りを回っている。それは遠心力と太陽からの重力が釣り合っているから今の状況を維持できている。だけどね、もしこの星の質量が変わってしまったらどうなる?」
「そりゃ…重くなれば太陽から離れていく…この星の重力も増える訳だから太陽を引き付ける力も増えるが…遠心力の増大に比べれば焼け石に水か…」
考え込むようにうつむき答えをはじき出す。これは中学生で習うことだけどそれも解っているみたいね。
「正解。まぁすぐに魔法を解除してるし重力による影響は微々たるものだけれど、あなたの魔法は本気を出せばこの星を殺しかねない程の力を持っている。それは覚えておいてくれる?」
「…解った。今後は気を付ける」
「あら?ずいぶんと物分かりがいいのね?」
てっきり『ふざけんな!俺様の魔法を俺様がどう使おうが俺様の勝手だ‼』とか言うものだとばっかり思ってた。
「なめんな!俺だって別に好き好んで人を殺したい訳じゃ…」
「スコット・グリーンワルド」
「…っ‼」
悲痛な顔を見せるナナシ君。
ま。あれはナナシ君が正しいんだけれどね。
「大丈夫よ。あなたがあれで多くの人を助けたことは解ってる。ちょっと意地悪をしてみただけ」
「何が意地悪だ。俺がどんな反応をするか試しただけだろうが!」
ふふっ
やっぱりナナシ君は単純だけど頭が良い。
これならきっと使い物になりそうね。
「わたしはあなたのことが気に入ったわ。ナナシ君。あなたはわたしの物になりなさい」
「んな⁉っと…突然何を言ってやがる⁉」
いきなり顔を赤くして動揺し始めるナナシ君。一体何をそんなに…っっっ⁉
「違うわよ!バカっ!そういう意味じゃなくて!わたしの下僕になれって言ってんのよ‼」
誰がお前なんぞに告白なんかするか‼
「いや!この状況だったら普通そう思うだろ⁉煙幕を張ったのも二人きりになりたいがため…とか」
「てめぇの勘違いだ!」
何を言い出してるんだこいつは?まったく…顔があっつい。
「っつか下僕かよ⁉せめてパートナーとか」
「誰が誰のパートナーだー‼」
「ちょっ…それこそ勘違いも甚だしいぞ!そういう意味じゃなくてだな」
「もういいわ‼煙幕はあんたの魔法の秘密を公開したくなかっただけよ!それ以上でもそれ以下でもないわ!とにかく!下僕の話ちゃんと考えときなさいよ!」
「…誰がなるか‼️」
☆☆☆☆☆
こうして私は名実共に世界最強の美人店主になったの。ちなみに煙幕を解く前に鎖を解いてあげたんだけどナナシ君はホントに凄かったよ。血管や神経、骨、内臓、筋繊維の全てを細かく再現し増殖して身体を直してたよ。あれは確かにマスタークラスの回復魔法にしか見えないのも頷けるってもんよ。一般人から見たら強化魔法と防御魔法、重力・飛行・加速・変化・不老。それに加えて結界魔法や回復魔法までマスタークラスに見えただろうからそりゃ『突然変異』なんて言われても当然。
ん?あっけなく終わり過ぎ?そんな事言われてもそんな物で終わったんだから仕方ないじゃない。ナナシくんが弱いのが悪いのよ…ちょっと違うか。
私に何度も自分の戦闘を見せて、対策を講じられるのが悪いのよ。
私と良い勝負が出来る人は貴女ぐらいじゃないかしら?
何よその『はいはい、そうですね』って態度は?ちょっとムカつくんですけど?
まぁいいわ。
確かに十ページ程度で終わらせるつもりはないわよ。これはただの入り。私がこんなに強くなる前はどうだったのかもキチンと教えて上げるから。
そうね、それじゃ私が何故道具屋の店長なんてやっているのかを教えましょうか?
あれは確かそう。14才で専門教養学校を卒業した日だったわ。
☆☆☆☆☆
「リザ。お前に店を持たせてやろう。好きにやりなさい」
「は?」
何言っているんだこの父は?とうとうボケたか?
「卒業祝いだと思ってくれればそれでいい」
「ちょっと待って私まだ子供なんだけれど?何その子供店長?出来る訳無いじゃない。ボケるのは6年後にしてくれる?」
せめて私が成人するまで。
「リザ。お前は頭が良い。お前の言ってくれた様々なアドバイスのおかげで我がYOROZの総売り上げは1000倍以上になり世界一の商社と呼ばれる様になった。もういっその事お前に全てを託して私は引退しても良いとさえ思っているのだ。しかし委員会の連中共はそれを許してはくれないだろう。だからまずは実績を作って欲しい。最初は小さなチェーン店の一つとして立ち上げてそこから売上ナンバーワンになってくれ。そうしたら私の顔も立つ。そこで正式に副社長として取り立て、時期を見て社長に就任しようと思うが…どうだろう?」
「私家継がないよ?」
「え?」
「え?」
はぁ…これからはボケた父を面倒見る事になるのか…憂鬱だ。
「なんで継がないといけないの?」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや可笑しいでしょ?何を言っちゃってんのリザちゃん?社長だよ?お金持ちだよ?将来安泰だよ?代々続いて来た由緒ある仕事だよ?いや、て言うかその商才を活かさないなんてありえないでしょ!?」
半泣きで縋り付いてくる。
弱…
さっきまでのハードボイルドな雰囲気はどこへ行ったのだろう?
「はぁ。そうは言われましてもこちらとしても都合が有りますので…」
「なんで敬語!?ねぇリザちゃん!お願いだから継いで?ね?」
「私そのうち自分で会社立ち上げるつもりだから継ぐつもりはないの。ごめんね」
「え?自分で会社を立ち上げるってどうやって?いや、お金の工面ぐらいならいくらでもして上げるけど」
「大丈夫。そんなんいらない」
「じゃあどうやって!?お金が無いと何も出来ないよ?」
「私まだYOROZがそこまで儲かってない時にお小遣いを貯めて株を買ってたのね。それが結構な金額に、具体的には10証貨(1憶円)ぐらいになってるから」
「ウチの株買ってたの!?はっ!儲かる前って…もしかしてリザちゃん、まさかワザと自分が株を買うまでアドバイスするの待ってたんじゃ…」
「当たり前でしょ?」
私が幼い頃、父が経営するYOROZはそこまで儲かってはいなかった。そこで私が経営について色々アドバイスしたり新技術の魔法道具の開発を行ったりする事によって10年足らずで急成長したのだ。
「あぁ…リザちゃん…」
もうボロボロ泣き始めた。しかもこれは悲しくて泣いているのではなく、間違いなく嬉し泣きだ。『ウチの娘はそんなに小さな頃から先を見据えてお金儲けのタイミングを計っていただなんて。こんな立派な娘が出来てお父さん嬉しい!!』みたいな?
「そうか…それじゃそのお金を元手にお店を立ち上げるんだね?」
泣きながら『もう全て娘のやりたい様にやらせよう』的な感じで悟った様に話を進めて行くが。
「だから子供店長になんかならないって。たかが10証貨でぱっと出来る店なんて、そんな物に興味はありません」
「え?でもそんな話じゃなかった?」
「10証貨は確かに元手だけどお店を立ち上げる為の元手じゃないよ。あくまでもコネクションとお金を作る為の元手。取り敢えずお金を稼ぎながら6年ぐらい旅に出るから」
「りざぢゃあああああぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」
鼻水を垂らし、号泣しながら抱き付いて来た。うるさい。汚い。ウザい。
「ヴまれでぎでぐれでヴぁりがどおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」
どんな感謝だ。
「あーはいはい。どういたしまして」
ぽんぽんと頭を叩いてあげる。まったくこの父は。
「リチャード。リザが開発した転移魔法陣の展開方についてなんだけd…………どういう状況?」
母がリビングに入ってきた。いつもはクールな母でもこの状況には困惑した様だ。
「オードリー。リザがわだしを置いて旅に行ぐぞうなんだ」
まだ泣いてはいるがそれでもなんとか説明する。こんな説明じゃ絶対に通じる筈はないのだけれど、この夫婦に関しては例外で。
「あらそ?良いじゃない。どうせお金もアンタならどうにかするでしょ?」
何故か通じる。なんだコイツ等?
「あぁ、うん。お金は大丈夫なんだけど名前だけ貸してくれないかな?リチャード・チャップマンの娘っていう身分証明だけして欲しいんだけど…ほら私まだ未成年だし」
「う~ん。私としては旅に出るからには独り立ちするって事だから名前をコネに使われるのはどうかなのかな?って思うけど、一般的には14才は子供だからね~」
「そうそう。私って子供だから」
母の顔色を窺いながらやんわり話を誘導する。旅に出る事を決めた時から一番の壁はこの母だと思っていた。ニヤニヤと厭らしい顔でこちらを見ている。私が強気に出られない事を解っているのだ。
くっ!
なんて意地の悪い性格!
だけどホントに身分証明は必要なのだ。それが無くては国を越えるどころか宿に泊まることさえ苦労する事になる。それを解消するついで、ほんのちょっとのついでとして、『世界一の大富豪。リチャード・チャップマンの娘』と言う何の事はない肩書が付いて来るだけなのである。
その肩書きは使うつもりはないのか?って?何言ってるの?使うに決まっているでしょ?
「まぁ仕方ないか。『良し』とします」
「ありがとうございます!」
………で?
「ただし!」
ほら来た。
「18才迄よ。それからはチャップマンの性を捨てなさい」
「オードリー!」
父が止めようとするが後の祭り。母の決定は絶対なのだ。
しかしそれにしても厳しいな?これでは親子の縁を切ると言われたも同然だった。しかも20歳迄の計画として企てていたのに2年も早めなくてはいけなくなってしまっている。
勘当はむしろ望む所だが私にとっては後者の方が痛い。
「勘違いしないでね?別に貴女が嫌いで親子の縁を切る訳じゃないの」
あ、やっぱり親子の縁は切るんだ?
「周りに喧嘩したと思わせる為。アンタは本当の意味で独り立ちして、自分の力だけで会社を大きくしなさい。そうなった時にアンタの会社とYOROZを対等な立場として合併しましょう」
……あ、なるほどね。
この母親、気付いているな?
私がYOROZを乗っ取ろうとしている事に。
先にこう言われてしまえば、私の会社がYOROZを喰える程大きくなる前に。対等な立場として合併の申し込みがあれば、絶対に受けないといけなくなる。
逆に言えば『申し出を受けなければ潰すぞ?』と言われたのだ。
『素直に社長になった方が良かったのでは?』って?冗談。言ってたでしょ?委員会がどうとか。あんな爺共の言う事なんか聞きたくないもの。わたしは自分の好きな様に会社を動かしたいのよ。
その為には…
「了解。それで手を打ちましょう」
私は素敵な笑顔で握手を求める。
怪訝な顔をしながらも握手に応じる母オードリー。
くっくっくっくっく!甘いわ!!そちらがその気ならこちらには別の方法がいくらでも用意出来るのだ!
アドバイスと称して変えさせた商業方法や、今現在私が開発した転移魔法陣の運用方や展開方は全て私の頭の中に入っている。
解りやすい例を挙げるなら、私が開発した特許技術は全て、私がYOROZに預けている状況なのだ。
今思いつくだけでこれだけの武器があるのならば、数年後には何も言わせない程の材料が揃っている事だろう。この女の泣き顔が目に浮かぶわ!!
はぁーーっはっはっはっは!
え?『もうフラグにしか聞こえない?』言ってる意味が解らない。
「あとメラニー貰っていくね」
「え!?駄目だよ!彼女が居なくなったら誰が父さんの秘書をやるの?」
「メラニーは私が拾ったの。だから私の物。それにヘッドハンティングなら文句付けられないでしょ?」
「うっぐ…」
「貴方の負けよリチャード。いいわ、持って行きなさい」
「愛しています!お母様!」
☆☆☆☆☆
そんな感じで家を出る事になった訳。って貴女は知っているわよね?
そうね、あの頃は若かっt…って今でも若いわよ!!失礼な!
ん?そうね。それじゃ続きはまた今度にしましょうか?
付き合ってくれてありがとう。メアリー。