噂話
俺は都会に出てきて。
夢を追い掛けた。
田舎は、嫌いだったし。
近所の目がウザかった。
一生懸命突っ走ったが。
それでも上手くはいかなかった。
途中。何処かで。
区切りを付けなくてはならない。
誰かに言われからとかではなく。
才能や、実力が。
いくら時間を掛けても。
発揮できないのなら。
諦めなくてはならない時が来る。
時間の使い方や。努力の仕方が。
きっと。
悪かったんだと思う。
それに、、
そもそも向いてなかったのだ。
そんな人生じゃなかった。
こうして俺は、大型複合ビルの。
トイレ掃除という職業に就いた。
地下を合わせると全部で9階になっていて。
沢山のお店や会社が入っている。
良い歳して。
何かの資格があった訳でもなく。
貯金がある訳でもなかった。
俺よりも若い者達が汚した。
汚くしたトイレを。
俺は、掃除するんだ。
「はあ、、」
仕方ない。
俺は、これをするしかないないのだから。
ある程度仕事に慣れると、
清掃員のおばちゃんとも仲良くなった。
「お疲れ様。
そう言えば聞いた??
また出たらしいよ??」
土地が元々悪いのか。
この建物が悪いのか。
小さな女の子が。
時間問わず、トイレに出現するらしい。
言わなくても分かるかも知れないが。
それは、存在し得ないヤツだ。
赤い服を着た。
三つ編みの髪を下げた幼稚園児くらいの少女。
それと。
その子供の親らしきお婆さんみたいのが。
エレベーターで移動してくるらしい。
表示されている数字とは違い。
エレベーターの扉が変な音を発てると。
ゆっくりと、扉が開いて。
布を被った老婆が出てくるのだと言う。
話だけだと、ホラー映画みたいだ。
なんでも。その老婆を見てしまうと、
老婆は、呻き声を上げながら。
その者の方へと突っ込んで来るらしい。
それは自分へと当たる前に。
老婆は煙の様に消えるのだとか、、
清掃員のおばちゃん「もぉ。
怖いわよね、、
嫌になっちゃうわよ。
それと、、」
関わると分かるが。
大抵の情報は、ネットよりも早く。
正確な事が多いし、自分にとって利益な話もある。
またに、個人的な私情も挟まれるが。
それ以外の情報は、聞いてて殆ど損は無かった。
この歳にして。
改めて、会話の重要性と。
おばちゃんのコミュニティや、
おばちゃんのコミュニケーション能力に。
感心させられた。
清掃員のおばちゃん「だから気を付けてね?」
「はい。
ありがとうございます。
何かあったらまた教えて下さい。」
清掃員のおばちゃん「任せといて?
じゃあね?」
人と関わって行き。
もう、人生の半分を過ぎてから。
根本的で初歩的な。
掃除
をすると言う、職業を通して。
沢山の学びがあった。
今まで。
そう言ったモノからはかけ離れていて。
改めて、実感さられるモノばかりだった。
「ちょっと君。」
「はい。」
クレームだろうか。
少し嫌な気持ちを抱えながら、
声のする方を見る。
声の主はここのオーナーだった。
「オーナーさん。
お久しぶりで。」
オーナー「いやあ。
君の働きっぷりは、見事だ。」
そう良いながら、
自然と肩を組まれた。
「あははは、、」
こんなに仲良かった覚えは無いんだが、、
オーナー「それで。
相談なんだが、、」
耳元で囁く様に。
小さな声で話し出す。
オーナー「あの。
"噂"
になっている件なんだが、、」
「はい、、
存じ上げております。」
オーナー「だよね、、
君。
幽霊とか大丈夫な感じ?」
「まあ、、あまり。
得意な方では、
無いですかね、、」
オーナー「そうか。。
ああゆうのって、
お祓いして貰わなきゃいけないのかね?」
「どうでしょう、、
モノによるんじゃないでしょうかね?」
端から見れば。
何を話しているのかと。
逆に、注目を浴びてしまっているのだろう。
オーナー「でもさ?
来て貰うとさ、、
ほら。
いかにもって感じが出ちゃうじゃん?
だからどうしようかなーってさ。」
「、、まあ。
あくまでも個人的な意見ですが。
大っぴらにやって、信用を勝ち取るのか。
放置して。
例の噂を、どんどん拡げていくか。
ですかねえ、、」
オーナー「だよなあ、、」
というか、、
いつの間にこんな関係性になったんだ。
オーナーも魔が差したのだろうか。
オーナー「よしっ!!
君にこの件を一任する!
後は任せた!
良い報告を待っているよ。
じゃあ。」
逃げる様にして言葉だけを置いて行った。
丸投げかよ、、
任せるって何だ。。
結局。
余計な仕事を押し付けられ。
その日から俺は。
清掃員兼、幽霊対処係になってしまった。