第7話
「それではウクライナを見捨てる事になりませんか?ロシアが勝利した方がいいだなんて、誰も納得しませんよ!」
感情を露わにしたウィリアムに対して、校長はあくまでも冷静に返答する。
「ウィリアム、多くの人が納得する答えが正しい答えとは限らないぞ。では聞くが、君は何故ロシアの勝利を誰も納得しないと思うのかな?」
「世界中の人々がマスコミの報道を通してウクライナ市民の窮状を知っています。ロシアの勝利に納得しないと思うのは当然ではないですか。」
「それは感情論だな。にもかかわらず、恣意的なマスコミの報道により、今や感情論が世界を覆い尽くそうとしている。これは危険だ。感情論に基づいた判断は冷静な分析を経ていない分、間違う可能性が高い。」
「待って下さい。マスコミは今起こっている事実を報道しているだけで、嘘は言っていないと思います。それなのに何故公正な報道ではないと断言出来るのですか?」
「ウィリアム・・・確かにマスコミは「事実」を報道している。しかしマスコミが報道する際に「事実」が取捨選択されているという点を見逃してはならない。」
「取捨選択?」
「例えばロシアの世論は君が想像するものとはおよそ違っている。戦争が始まってからもプーチン大統領は80%以上の高い支持率を保ち続けているが、君はその事実を知っていたかな?」
「・・・いいえ、今初めて知りました。」
「それだけではない。ウクライナ軍は捕虜にしたロシア兵に対して虐待を行っているが、君はそれを知っていたかな?」
「本当ですか!?」
「事実だ。ウクライナ軍の行為は捕虜虐待を禁じたジュネーブ条約に明らかに違反しているが、マスコミはそれを全く報道しない。何故だ?」
「・・・・・・」
「いいかねウィリアム、マスコミにとってそれは『不都合な真実』なんだ。私が今話した情報は、全てマスコミも掴んでいる。だがマスコミはそういう『不都合な真実』に対し、知っていながら無視を決め込む。報道しなければ、それは『無かった事』に出来るからね。これが恣意的報道と呼ばれるものの正体だ。」