2.婚約破棄はこんな感じでした 前編
相変わらずの無表情で公爵邸に迎えに来た第二王太子ブルータスは、両親の前ではスマートに私をエスコートしてみせた。
明るいプラチナブロンドに、ブルームーンアイと呼ばれる碧眼に長い睫毛が揺れる。
対する私はまるで猛毒の水銀、アイスシルバーの髪、鮮血のように気が滾る緋い瞳。
天使と悪魔。
そう揶揄されることにもう慣れてしまった。
王宮で行われるデビュタントボールには、社交界デビューに緊張する令嬢子息はピンクやアクアブルーのような淡色、結婚相手探しの紳士淑女は赤や紺といった原色、そして私達のように婚約者を披露するペアは白いドレスやスーツに、女の子は白いグローブとティアラも。
王宮のデビュタントに出た後は、NGOデビュタントバル(非政府組織、つまり民間、といっても貴族主催の舞踏会)がある。全身白で統一した令嬢子息だけの舞踏会で、社交界デビューの女の子達はこっちが本命だったりする。
されども、王宮デビュタントボールは貴族にとって、王族や高位貴族に顔を売る絶好の機会である為、ここぞとばかりに着飾らされた紳士淑女は多い。
ブルータスにエスコートされて入場した会場を見て、これなら私でもそんなに浮かないで済むかも、と思ったのは一瞬だけで。
会場に入った途端「始まるまで自由にしたまえ」とブルータスから突き放され、壁の花となった私に。
「ご覧になって。ウエディングカラーをお一人で纏われていらっしゃる方が。」
「ティアラが可哀想。あんな汚れた頭上に乗せられて。」
「ウエディングカラーなのに婚約者の姿が見当たらないが、、ぷっ、、よく一人で来られたものだ。」
くちさがない批判に耐えきれず、舞台裏に移動すると、物陰に人の姿が。
「ごきげんよう。お姉様。」
私の妹が、慇懃無礼に頭を低く下げカーテシーで膝を折った。
「やめて。なぜロティがここにいるの?」
妹シャルロッテの後頭部を見ていると、司会の声が「それでは、紳士淑女になられた皆さん!」と会場を盛り上げ始めた。
「嫌だわお姉様。お分かりにならなくて?」
そう言ってくるりと回る純白のドレス。グローブにティアラも。
ストロベリーブロンドとコバルトグリーンの翠眼は、シャルロッテの幼い丸顔に良く似合い、透け感の素敵なシフォンティアードフリルのドレスは王宮御用達ブランドMの最新モデルだ。
なぜそれをロティが着ているかなんて、聞かなくても分かる。
父の家系に現れるシルバーの髪と赤い目の私とは違い、母の家系に現れるブロンドの髪と翠眼の妹。
仕事に追われて家庭を顧みない父。母はそんな父に似た私を遠ざけて妹ばかり可愛がった。
せめて、ブロンドか翠眼、どちらかを受け継いで生まれてきていれば、、鏡に映る姿を見て涙が溢れる日々のたった一つの希望。それは。
生まれたばかりの私を見て、国王陛下が同じく生まれたばかりの第二王太子との婚約を決めた。
初めての謁見は五歳。一つ違いの妹と共に、国王陛下と王妃殿下、第一王太子殿下と第二王太子殿下が有らせられる謁見の間には、ジャック・ラジロフスキー(この国で有名なデザイナー)のシャンデリアが国王の頭上に二つも輝き、その隣に座る第二王太子ブルータスは。
「妹の方が可愛い。」
と無表情に吐き捨てた。
「気分が優れないので下がっても?」
第一王太子フェリックスが国王に許可をいただいて下がろうとした時、彼の瞳が真っ直ぐに私を見ていた。
ホワイトブロンドは星のように煌めき、ベイビーブルーの碧眼は目尻が垂れて優しく微笑んでいるように見えた。
病弱で引き篭もりがちなフェリックス殿下には婚約者がいなかった。だから心の中で、私の婚約者はフェリックス殿下だと妄想するのが唯一の癒しだった。
けれど彼は十五歳の時、デビュタント前に血を吐いてから長く寝込むようになる。




