逆かくれんぼ
どうも 風祭 風利です
今回は「夏のホラー2021」の企画に参加するべく急造で拵えた話となります。
普段ホラーとは無縁の所にいる作者の幼稚な作品となりますが、楽しめたなら幸いです。
かくれんぼ
1人の鬼となった人物が、みんなが見えない状態のまま数字を数え、その間に他の者は隠れる。
そして鬼がそれを見つけ出していく至ってシンプルだが子供は勿論、ある場所を貸し切って、大掛かりな施設利用をして、大人も楽しめるようになっているポピュラーな遊びである。
そんなかくれんぼは僕らの住んでいる地域では少しだけ変わったルールで遊んでいた。 それは、1人が隠れて、他のみんなでその隠れた1人を探すというものだ。 僕達はこれを「逆かくれんぼ」と呼んでいる。 鬼側が隠れるからこう命名された。 誰が始めたかは知らないけれど、僕達はこれで十分に楽しかった。
そんな中学1年生のある夏のある日。 日がまだ高い位置にあり、太陽の日差しが眩しい中、僕は友人と近くの境内で「逆かくれんぼ」で遊んでいた。 遊んでいたと言ってもそんなに大人数じゃない。 学校で仲のいい3人と、僕とを合わせた4人だ。
「逆かくれんぼ」は細かいルールとして、人数は6人以下で遊ぶのだ。 あんまり人が多すぎると、隠れる側の鬼が圧倒的に不利になるからなんだそうだ。 それと必ず全員が探すことの出来る範囲内であること。 例えば公園でやるならば、公園の敷地内とか、学校なら校舎の一部の場所とか、とにかく指定した中でしか行わないことにしている。 数えている間に遠くに行かれてしまったら発見が出来ないからだ。
じゃんけんをして、僕が最後まで勝ち続けた。 なので隠れる側になる。
「よーし、じゃあ俺達はあの賽銭箱の前で数えるから、その間に隠れろよ。」
「分かってるよ。 それじゃ、隠れるよ。」
「行くぞー! いーち、にー・・・」
みんなか数え始めている。 社の裏ではすぐにバレてしまうと思い、少し離れた雑木林に身を潜める。 ここなら簡単には見つからないと思って隠れていた。
みんなが数え終わり、辺りを見回す。 境内に1人探しに行ったのでそこにいるかもと考えたのだろう。 僕の判断は間違っていなかった。
でもここにもすぐに誰かが来るから、見つかるのも時間の問題だろうと思っていた時
「なにをしているの?」
後ろから不意に声をかけられた。 驚きはしたが、振り返りはしなかった。 あの時の事を思い返せば「振り返れなかった」と言った方が正しいかもしれない。
「かくれんぼだよ。」
「なんで君が隠れて、他の人が探してるの?」
その質問に当時は「なんで知らないんだろう」と思ったが、今なら「普通の人は知らないよな。 ましてこの辺りに最近引っ越してきた人なら」と考えられた。
「僕らのかくれんぼは鬼が隠れるんだ。 それで他のみんなが探すの。 見つかるか見つからないかの気分を1人だけで味わうのって、なんだかドキドキしない?」
あの時の自分は何故あそこまで興奮していたのだろうと思う。 喋ったら見つかるかもしれない、動いたら気付かれるかもしれない。 そんな思いはあの時は感じられなかった。
「見つけてくれないかもしれないのに?」
「流石にこの境内の中だよ? 見つけてくれないなんてことは無いと思うんだけどなぁ?」
そう、隠れる範囲は狭いのだから、絶対に近くまでは来ると思うと自分でも自負していた。 実際に細かいルールとして、一度隠れ場所を決めたら後は見つかるまでは動かないという事もある。 だから見つからないことはない。 そうあの時は思っていた。
「でもここは林の中だし、君の身長なら屈めば草むらで向こうからは見えなくなっちゃう。」
「かくれんぼなんだから、見つからないようにするのは普通じゃない?」
その時の声に僕は苛立ちを感じていた。 そう言うものだというのを認めないかのようで、子供ながらに怒鳴りたかった。
「でも、本当に見つけてくれるのかな?」
「・・・え?」
「ほら、ああして探しているけれど、こっちに来る素振りが一切見られないじゃない。 「こんな雑木林には足を踏み入れない」って思ってるんじゃないの?」
「そ、そんなことは・・・」
無いとあの時ハッキリと言えなかったのは、おそらく本当に見つけてくれないかもしれないという不安に陥ったからだ。
「ほら、あの子、また境内の方に向かった。 あそこにはいないの、知ってるのに。」
「そ、そんなの、分からないだろ!? 大体、君は誰・・・」
そう叫びたかったが、何故か口を閉じられてしまった。 声が出ない。
「そんなに大声だしたら聞こえちゃう。 かくれんぼなんだから、隠れないと。」
その声は何故か背筋が凍るような声だった。 あんなに優しく感じた声が、あの時は恐ろしく感じた。
「ねぇ、ここの雑木林には、実は野良犬が沢山潜んでいるんだ。」
そんな話は聞いたことがなかった。 だがえも知れぬ恐怖でそれどころじゃなかったのだ。
「君は自らこの雑木林に隠れた。 それでもしも、君の事を彼らが見つけてくれなかったら、君はどうなるのかな?」
そんなことはない。 そう言いたかったが、あいにく口を閉ざされているため喋れない。 だからそいつは僕にとことん言い寄ってくる。
「だけど安心していいよ。 今は1人じゃないんだ。 ここで隠れて見つけられなかったとしても・・・ずっと・・・一緒にいてあげる・・・そうすれば君も同じに・・・なれるんだ。 もう少し・・・後少し・・・」
「お、ようやく見つけたぜ! あんなところにいやがったのか!」
その友人の声に、後ろの何かはため息をついた。
「あーあ残念。 もう少し楽しみたかったのに。」
そう言って口元が解放されて一気に空気を取り込むと同時に後ろを振り返った。
「じゃあね。 また会いたくなったらここに来なよ。 待ってるからさ。」
そのぼんやりとした何かは雑木林の中に消えていってしまった。 もう姿すら見えない。
「ちぇっ。 日の光がそこまで届かないせいで、暗くて見えなかったぜ。 ・・・お? どうした?」
その辺りで友人は異変に気が付いた。 確かに木陰とはいえ暑さはある。 だが日向よりはずっと汗は書かない筈だ。 なのにこの時の自分は尋常じゃない程の汗をかいていたとのこと。 どれだけ自分が恐怖していたのかがあの時は恐ろしく思える。
この後自分はあの時遊んでいた友人達に「時間制限」を設けようと提案した。 当然みんな疑問に思っただろうが、この時ほど自分の頭と舌が回ったことが無いだろう。 忘れない一幕とはこの事を言うと、子供ながらに思った。
そしてその提案はなんだかんだで受諾され、地元の中でも更にローカルなルールに組み込まれた。
その当時境内を管理していた宮司に好奇心もあって、あの雑木林について聞いてみた。
「あそこは昔はもっと鬱蒼としていて、子供が隠れるにはうってつけだったんだ。 この境内が建てられる前、あそこの雑木林で遊んでいた子供達が数名行方不明になった事があったらしくてね。 その子達が見つかった時には既に死んでいた。 食べられたんだよ、あそこに蔓延る野良犬に。 子供だったから抵抗出来る力も無かったので、なす術が無かったんだろうね。 今かい? 今は野良犬はいないよ。 犬の嫌う臭いをあそこには撒いてあるからね。 そろそろ効能が切れるからまた新しく撒き直さないとな。」
そんな話をされた。 そうなるとあの時聞いた声はその死んだ子供の1人だったのだろうか? 改めて考えて怖くなっていた。
そんな僕も社会人となり住んでいたこの街からも離れて仕事をしているが、月に一度の休みには戻ってお参りをしている。 理由としては、ここの境内で祈り事をしたことによって結果が良い方向に進んだことがあったので、ここを参拝場所にしているのだ。
あの時の話は飲みの場での自分の十八番話としてよく周りに話している。 だがそんなことを話すのも、この境内に来るのも、実際には理由が別にある。
自分はあのときの体験を忘れられないでいるのだ。 いや、むしろ忘れてはいけないと自分で自負している。 あの時声をかけてきた人物は「見つけてもらえない」と言っていた。 それは自分の存在を、常に誰かに知ってもらいたかったからではないかと、今なら感じる。
風が強く吹く。 雑木林から葉が何枚も風にのって来る。 あれは1つの警告だったのかもしれない。 そう思いながら、境内を後にするその瞬間に
(いつでも君を見ているからね)
そう、誰かに囁かれた気がした。
いかが立ったでしょうか?
ホラー短編自体初めての試みでしたが、正直自分自身上手く書けているとは到底思っていません。
独自のやり方で書いたものなので、全くホラーが無かったと言われても仕方ないと思っています。
それでも最後まで見て貰えたなら、もしよろしければ感想をよろしくお願いします。