no.9
「ちょっと咲。
なににやけてんのよ? 」
休み時間に、千秋がアタシに問いかけた。
さすがはトモダチ。
アタシの変化にきがついたのね〜。
「え?
だって、ふふっ。
今日いいことあったんだもん」
アタシはそれだけ言うと、また篤武さんとの約束について思いを馳せる。
「なに? いいことって!
ちょっと〜! 気になるって!! 」
千秋はアタシの顔を覗き込んで、ぷうっと頬を膨らました。
「えへへ〜
な・い・しょ! 」
アタシはわざとじらした。
なぜかというと千秋のむくれた顔を見るの、結構好きだから。
――アタシって結構Sなのかもね。
「ヒント!
なんかヒント頂戴よ! 」
千秋も負けじとアタシにヒントを求めてくる。
その押しに負けてアタシは、今日デートすることを伝えた。
「で、デート?!
相手の名前は? 馴れ初めって?
どこの高校? 年上? 年下?
顔はどんな感じ???? 」
千秋はアタシの予想を裏切らず、かなりびっくりしてくれる。
こういうトモダチってある意味貴重かもしれない。
アタシは掻い摘んで説明した。
財布を拾ってくれたこと。
チャラ男を撃退してくれたこと。
痴漢にあったとき、助けてくれたこと。
年上でサラリーマンだということ。
それと、すごいアタシ好みの顔をしてるってことまで。
とりあえず、デートの趣旨だけは言わないでおく。
だって、多分。
いや、絶対。
「そんなのやめたほうがいい! 」って言われるに違いないから。
まぁ、本当にデートする仲になるべく、アタシは頑張るんだから、
篤武さんがカレシになた時、その時改めて千秋に言えばいいか。
「あ」
アタシは急に思い出した。
そして千秋を睨むと、おもむろにハンカチに包んだあるものをぐいっと目の前に出した。
「千秋がアタシの財布にこんなの入れるから、
アタシすっごく焦ったんだからね!! 」
「?
なんだっけ? 」
千秋はアタシからハンカチごと受け取ると、中身を確認する。
千秋の口の端がにやりと動いた。
「今日こそこの、おまもり、必要なんじゃない? 」
ぱっと顔が赤くなるのを感じて、アタシはにやにやと笑う千秋を睨みつける。
「初デートでそんなことあるわけないじゃん!
ばっかじゃないの!? 」
「いやいや〜
だって、相手はオトナじゃん?
咲はかわいいし……ねぇ?
そういう雰囲気に流れちゃって――もぅ! 咲!
そんなことしちゃいけませんよ!
あぁ! でも……ふふふっ 」
千秋は勝手に妄想を膨らまして、一人で突っ込みを入れてる。
つーか、声でかいって。
いくら女子高とはいえ、アタシはちょっと恥ずかしくなった。




