no.6
いつもだったら、初めて会った男の誘いなんかには乗らない。
でも、助けてもらったからなのかな? アタシは誘われるままに篤武さんに付いていった。
「ここの料理が、なかなかおいしいんだよ」
篤武さんは落ち着いた感じのレストランへ連れて行ってくれた。
――ちょっと高そうな店なんですけど?
「あ、あの。
アタシこういうところ初めてで……」
てっきりファミレスだと思っていたアタシは、後ずさりをする。
篤武さんは微笑んで「ここ、知り合いの店だから」と言ってくれた。
その時、またアタシのおなかが鳴ってしまい、
恥ずかしさに顔を赤くした。
「さあ、早く入ろう」
カラン カラン
シックな木のドアを開けると、心地よいベルの音が響いた。
「いらっしゃいませ、田辺様」
蝶ネクタイをしたオジサン(オジイサンかな?)が、出迎えてくれる。
アタシはどうしていいか分からず、篤武さんの後ろを付いていく。
「おや、今日はかわいらしいお嬢様とご一緒ですか」
オジサンは私を見て、少し目を細め笑う。
「うん。そうなんだ。
とりあえず、いつもの席空いてるかな? 」
「もちろんでございます」
『いつもの席』だというところに通されて、アタシは席についた。
テーブルマナーも、何も知らないアタシ。
こんな高級レストランなんか来たことも無いのに、一体どうすれば???
「ここは個室だから、マナーなんか気にしなくていいよ」
篤武さんが声を掛けてくれたので、アタシは少しほっとした。
料理は篤武さんがアタシの分まで注文してくれたので、助かった。
だって、メニューで何が書いてあるかまるで分からなかったから。
こんなことなら、もうちょっと勉強してればよかったよ。
「おいしい! 」
アタシは一口料理を食べては、感嘆の声を上げる。
子羊のナントカとかトマトのクリームナントカとか……本当にすごく美味しかった。
食事が終わって、篤武さんはアタシの財布を返してくれた。
「早く渡せば良かったね」
「あ、ありがとうございます!」
アタシが財布を受け取ると、篤武さんが「中身大丈夫だったかな? 」と言う。
「え、と。
多分大丈夫だと思います」
そう言ってアタシは自分の財布の中身を確認する。
定期、テレカ、クオカード、雑貨屋のスタンプカード、お金少々。
今回役に立った、アタシの名刺。
うん、中身は大丈夫。
そう篤武さんに言おうと思ったとき、名刺と名刺の間に何かが挟まっていることに気が付いた。
何気なく出してみる。
それはかわいらしいキャラクターが描かれた、
かかれた……、
カカレタ…………!!! な、なにこれ〜〜〜!!!!
アタシは焦って財布に戻そうとするが、あまりに焦ってしまい財布ごと下に落としてしまった。
しかも「それ」はこともあろうに篤武さんの足元に転がっていく。
篤武さんはそれを無言で受け取ると、そっと見えないようにアタシに返してくれた。
そう。
それは昨日何度も千秋に『いらない』って突っ返した『コンドーム』だった。
チアキ! あとで覚えてなさいよ!!
「あ、のですねっ!
それ! 違うんです!
トモダチが、あの「お守り」とか言って勝手に入れたやつで、
返したはずなのに、知らない間にまた入ってて、あの、だからつまり――
アタシ、処女ですから! 」
アタシは頭の中がぐるぐるしちゃって、変なことを口走ってしまった。




