no.4
「ねぇ、さっきからカレシでも待ってるの? 」
不意に横から声を掛けられた。
みると、いかにもチャラ男みたいなのがアタシの横に居る。
「べつに」
アタシは不機嫌そうにそうつぶやくと、腕時計に視線を落とす。
「あんたさっきから一時間もここにいるじゃん。
暇なんだろ?
約束すっぽかすようなカレシほっといて、俺とあそばねー?
飯ぐらいおごってやるからさ」
チャラ男はにたにたと気味の悪い笑みを浮かべている。
はっきり言って、こいつ、アタシのタイプじゃない。
なんかさっきからガムをくちゃくちゃ噛んでてキモイし。
そもそも、ロン毛が似合ってない、ってか汚い。
「いかない。
ほかの子誘ったら? 」
アタシはチャラ男を横目でチラッと見て、つっけんどんに答えた。
「あんた、怒った顔もかわいいね。
俺、マジ好みだわ。
別にとって食うみたいな真似しねーからよ。
カラオケとかいかね?
もち、俺のおごりだから」
アタシの顔を覗き込んで、チャラ男はますますにたにたと笑う。
アタシは顔を背けた。
するとチャラ男は急にアタシの左腕を掴んだ。
すごい力。
なんなの? コイツ。
「なぁ、俺が下手に出てるからっていい気になってんじゃねーぞ。
あぁ?
お前は俺に黙ってついてくればいいんだよ」
――サイアク――
今日はなんてサイアクな日なんだろう。
財布を落としちゃうし、ケータイは切れちゃうし、
財布を届けてくれる人は来ないし、
変なチャラ男に付きまとわれるし……
「やめてください」
アタシはチャラ男の腕をふり払おうとする。
でも、アタシとの力の差は歴然。
チャラ男はアタシの両腕を掴んで、壁に押し付けた。
「――何するんですか? 」
アタシはチャラ男を睨む。
チャラ男はぺろりと舌なめずりをして、「俺の女になれよ」と耳元で囁く。
キモイ。
アタシはおもわず鳥肌を立てた。
ちょっと、だれか助けてよ!
辺りを見渡すと、ひょろっとした男と目が合った。
が、
彼はすぐに視線を逸らし、そそくさと改札の中へ消えていく。
この、根性なし! 薄情者!
アタシは思いつく限りの罵声を心の中で言った。




