no.24
涙も止まって、少し落ち着いたところで、アタシは気になる質問をした。
「それにしても、どうしてアタシがここにいるって分かったんですか? 」
篤武さんは不思議そうな顔をして、こう言った。
「メール、行ってなかった?
今日出張から帰ってくるからこの前のコーヒーショップで待ち合わせしようって」
「え? 」
そんなメールもらってないぞ、と思ったそのとき。
アタシのケータイからメールの着信音が響いた。
メールの差出人は……篤武さん。
「い、今届きましたよぉ〜」
篤武さんとアタシは顔を見合わせて笑った。
「それにしても、メールも電話も出来ないだなんて、
いったいどこに行ってたんですか? 」
アタシは少しすねたような口調で篤武さんに言う。
「仕事だよ。
俺の仕事は建築系だっていっただろ?
山奥に別荘を建てるって言う客が居たから、下見とかしてたんだよ。
なかなか大変だったんだぞ。
アクセスは悪いし、
泊るところも車で一時間かかったところにある民宿だったし。
なにより現地は車で入れないところだったから、山登りまで堪能してしまったしね」
篤武さんはそう言うとふわりと笑った。
ってか、仕事。建築系だったんだ?
アタシ聞いてないと思ったんだけど、聞いてたんだ……
『ぼんやりするにもほどがあるぞ! 』と怒るチアキが目に浮かぶ。
「それより、あの東雲さん相手になかなかのものだったよ。
俺、ちょっと前からいたんだけど、いつ話しに入るか迷ったし」
コーヒーを飲みながら、篤武さんはアタシを見る。
「え〜!
来てたんなら、すぐに助けてくださいよ〜!
もー、いじわるだなぁ」
「いやいや。
適当なところで出て行っても、また来るかもしれないだろ?
だったら、化けの皮が剥がれたところで一気に行かないと」
そう言うと篤武さんはにやりと笑った。
「それはそうかもしれないけどぉ〜。
でも、危なかったですよ?
チアキの助言がなかったら、アタシあの東雲さんにやられてたと思うし」
「助言? 」
「あ、チアキってのはアタシの親友なんです」
そう言いながら、アタシはクリアファイルに挟んでいた、
チアキ特製の『打倒! 許婚攻略! 』を篤武さんに渡す。
篤武さんはルーズリーフの文字に目を落とす。
その仕草におもわずうっとりとするアタシ。
やっぱりかっこいい!
「――女性ならではの視点だね。
咲はいい友達を持ってる」
チアキのことを褒められて、アタシは嬉しくなった。
そうなのよ。
チアキは本当にいい友達なんだ。
「それと……咲にお礼をしよう。
明後日の日曜日、県立図書館に9時。
筆記用具を持ってくるように」
「え?
それって? デート? 」
「デート……と言えなくも無い。
勉強といえばそれまでだけどね」
篤武さんはクリアファイルから一枚の紙を取り出した。
それは、なんと、まさか、うそでしょ?
アタシの散々な点数のテストだった。
――点数は恥ずかしくて教えられないほどの――
アタシはさっと血の気が引いた。
まさかあんな散々なテストを、ほかでもない篤武さんに見られてしまうなんて!!
クリアファイルに入れた覚えなんて無いのに〜!!
頭がぐるぐるしているアタシに、篤武さんは言う。
「俺の彼女なら、頑張れるよな? 」
爽やかに笑う彼の顔が、悪魔に見える。
でも、アタシは、悪魔であろうと、鬼であろうと、
彼のことが好き。