no.22
「アタシ、騙されてなんていませんよ」
アタシは微笑を絶やさずに言う。
東雲さんはアタシの笑顔に少し顔をこわばらせたけど、
彼女もなかなかの人物のようで、立ち話はなんだからと、
半ば強引に近くのコーヒーショップに連れて行かれた。
ここ、この前篤武さんと待ち合わせしたところのコーヒーショップだ。
そう思っていると、東雲さんはふっとため息をついて、話始めた。
「ここ、何度も篤武と来たことがあるのよ。
それと――篤武が他の女性と来ているのも、何度か見たわ――」
別に聞いてないんですけど?
アタシの頭の中に? が三つくらい浮かんだ。
別に過去、篤武さんに何があろうとアタシにはどうしようもない話だし。
歳の差を考えてみても、女性と付き合ったことがないほうが変だし。
それに、アタシ(仮)の彼女だし。
東雲さんは(仮)のことを知らないから、篤武さんが気の多い男だとアタシに印象付けさせようとしているのかも?
そう思って話を斜めからきいてみることにする。
いちいちのしぐさが『あたしって不幸な女』をアピールしていて、しつこい。
多分この人、女子に嫌われるタイプの人なんだろうな。
男の子の前だと途端にぶりっこになるアレ。
アタシはいちいち鼻に付くしぐさを見て、おもわず笑いそうになったけど、なんとかかみ殺した。
それにしても、きつい。
最初の見た目の印象とはかなり別だ。
篤武さんが結婚したくないのも、わかる。
アタシは心の中で篤武さんに同情した。
「――だから、貴女はまだ高校生なんだし、もっと素敵な彼がいると思うの」
東雲さんはまだアタシと篤武さんのことでぐちゃぐちゃと言ってくる。
アタシはうんざりした。
これはいったい何の拷問なんでしょうか?
アタシはキャッチセールスにつかまったんでしょうか?
限界は近い。
だってさっきから頬の筋肉がぴくぴくしてるし。
「アタシ、もしそうでも、篤武さんが好きなんです。
篤武さん以外の人なんて考えられないです」
そう言って、ぺこりとお辞儀をし、席を立とうとしたそのとき。
「何度言っても分からない子ね」
東雲さんが低い声で言った。
「え? 」
「貴女には篤武は似合わないって言ってるのよ。
それに、貴女のことちょっと調べさせてもらったわ」
さっきまでの「いい人ぶりっ子」じゃなくなってる。
これは――チアキの言う1、の攻撃タイプ?
複合系で来るとは! 侮れないぞ東雲!
彼女は大きめのバックから茶封筒を取り出した。
そこには『井上咲 調査報告書』と書いてある。
「……何ですか? これ」
「貴女の調査票よ。
色々調べさせてもらったわ。
顔はまあまあだけど、おつむのほうは弱い見たいね。
成績は……あら、これは酷いわね。
それと、父親はうだつの上がらない課長、と。
ほかにも貴女について色々書いてあるわ」
まるで魔女のような顔で、アタシを一瞥すると口の端を歪ませて笑う。
なんて性悪な女なんだろう!
大体お父さんのことは関係ないじゃない!
アタシは胃がむかむかしてきた。
魔女はそんなアタシにお構いなく話を続ける。
「篤武はね、貴女みたいな馬鹿を相手するほど暇じゃないのよ。
お遊びなの。わかる?
貴女なんて遊ばれて、捨てられるだけよ」