no.2
アタシと篤武は三週間前に知り合った。
結構最悪なカタチで。
思い返しても、ホントに恥ずかしくて、
顔から火が出そうになる。
――そう
あれは、何のヘンテツもない日だった。
昼のチャイムが鳴り、アタシはいつも通り購買でパンを買おうと、かばんに手を突っ込んだ。
「あれ? 」
なぜか財布が見つからない。
アタシは机の上にかばんを乗せて、もう一度探した。
「おっかしいな……」
つかまるのは友達と授業中に回したメモばかり。
仕方がないので、机の上にアタシのかばんの中身を出してみる。
クシ、ケータイ、メモの手紙、結構前にもらった学校のプリント、化粧ポーチ……その他どうでもいいものがアタシの机の上を占領した。
「ない、ない、ないないないないないない〜〜〜っ! 」
どこにもアタシの財布がない。
三年前から愛用しているアタシのショッキング・ピンクの財布だけがないのだ。
――落としちゃったの? ――
さっと目の前の色がなくなったような気がした。
冗談でしょ?
財布には定期も入ってるのに。
しかもその定期は昨日かったばっかりのやつなのに。
――うそ――
アタシは力なく椅子に座った。
今日の昼ごはんどうしよう? いや、それよりも帰りどうしよう? おかーさんになんていおう?
アタシの頭の中はどうしようもないくらいぐちゃぐちゃだ。
その時、アタシのケータイがぶるぶると体を震わせた。
あんたもアタシのこの不幸を嘆いてくれるのね。と、ぐちゃぐちゃの頭で考える。
「咲。あんたの電話なってるよ」
不意に後ろから声を掛けられて、アタシははっとした。
「あ、ありがと」
友達の千秋にお礼を言って、ケータイを見る。
するとそこには、見たことのない番号が表示されていた。
「? 誰だろ?もしもし? 」
「井上咲さんの携帯ですか? 私、田辺と申します。あなたの財布を拾ったものです」
ケータイから響いてくるその声は、低音で、なぜかアタシをどきりとさせた。
「さ、財布?! 」
「えぇ――失礼かとは思いましたが、
財布の中身を見せていただきました。
定期券とあなたの名刺が数枚入っていたので、
携帯の番号の方に掛けさせていただきました」
名刺。
あぁ、そういえばこの前、ゲーセンで名刺を作る機械があったから、
千秋たちと作ったんだっけ。
人生、何が自分を助けるのかわかんないなぁ。
「あ、ありがとうございます。
アタシ、今財布を無くしたことに気が付いて……定期も入ってるので、
今日返してくれると嬉しいんですけど」
「今日……そうですよね。
ただ、私にも仕事があるので――、
午後6時頃に、波佐間台駅の改札辺りで待ち合わせ、というのはどうでしょうか? 」
「それで大丈夫です!
ホントありがとうございます!! 」
アタシは電話の相手にぺこぺことお辞儀をした。
見えてないって分かってるんだけどね。
前にどっかのテレビで言ってたけど、
電話の相手に向かってお辞儀をするのって、日本人だけなんだって。
これって、おかーさんとかが、電話のベルが鳴ってるときに
「はいは〜い。今出ますよ〜」なんて言ってるのと同じレベルなのかな?
……まぁ、とにかく。
アタシは田辺って人にものすごい感謝した。
お昼ごはんは、友達にカンパしてもらったので何とかなった。
……ちょと、足りなかったけど……
そのうち面倒くさい授業も終わり、
アタシは待ち合わせの時間が来るまで、駅の近くの本屋で立ち読みをすることにした。