no.13
「――井上さんがそこまで言うんだったら、付き合ってもいいけど。
でも、本当にそれでいいのか? 」
篤武さんはアタシの目をじっと覗き込む。
アタシは篤武さんの刺すような眼差しで、心臓が飛び出そうになってしまった。
「……いい、です……」
どぎまぎとしながら、たどたどしい返事をする。
篤武さんに返事はしたものの、アタシは彼の目をまともに見ることが出来なかった。
ふわり。
急に篤武さんの大きな手がアタシの頭を撫でる。
アタシは緊張のあまり、目の前がちかちかした。
足元がぐにゃりと歪んでしまったような錯覚に陥る。
あれ、アタシ、今、立ってるんだっけ? 座ってるんだっけ?
アタシの脳の奥はじわじわと痺れて、考えることを放棄してしまったみたい。
でも、ひとつだけ分かってること。
アタシ、篤武さんの『彼女』になったんだってこと。
――あれ? ――
気が付くと、アタシは篤武さんの胸に寄りかかっていた。
「ご、ごめんなさい! 」
アタシは慌てて篤武さんから離れる。
「急に倒れそうになるからびっくりしたよ」
そうか、アタシ、うれしさのあまり気絶っぽくなっちゃったのか。
恥ずかしさと嬉しさでアタシの鼓動が踊っている。
「ご、ごめんなさい。
ちょっと、よろけちゃいました。
それと、あの、よろしくお願いします!
とりあえず、打倒! 婚約者! です! 」
アタシは右のコブシをグーにして、ガッツポーズをとった。
篤武さんはアタシをみて、少しはにかむと同じくガッツポーズをとってくれた。




