no.11
暫くして篤武さんが入ってきた。
アタシを見つけて、目の前の席に座る。
そのしぐさだけで、アタシの胸はどきどきと高鳴った。
「少し遅れたかな。ごめんね」
「いえ! そんなことないです。
お仕事お疲れ様です! 」
アタシは緊張して、言葉に力が入りすぎてしまった。
そんなアタシを見て、篤武さんは少し微笑む。
そして小声で「そんなに緊張しなくていいよ」と言ってくれた。
――たぶん篤武さんは『デートのフリ』でアタシが緊張してるんだと思ってるに違いない。
アタシは篤武さんに緊張してるんだけどな。
「咲、今日はいつも行きたいって言ってたカラオケにでも行こうか」
不意に篤武さんがそう言うので、アタシは驚いた。
すると篤武さんは軽くアタシに目配せをする。
あぁ、そうか。
ここからもう既に「デート」が始まってるんだ。
「ほんと?
やったー! 篤武の歌うとこじっくりみちゃお〜」
アタシは精一杯『普通』を心がける。
……うまく出来たかな? ちょっと自信ない。
アタシたちはコーヒーショップを出て、カラオケ屋に向かった。
受け付けで部屋のリモコンを渡され、アタシ達は指定された部屋へ行く。
部屋に入ると篤武さんはソファーに腰を掛けて、ふぅっとため息をついた。
「井上さんさっきはごめんね」
急に話しかけられて、アタシはどぎまぎする。
「え? 」
「実はちょっとつけられてるみたいだったから、
井上さんに説明も出来ないままお芝居につき合わせちゃって……」
「つけられてる?? 」
意外な言葉を聞いて、アタシは目を丸くした。




