7.夜会の夜に
ルティナへの想いを自覚し、その場で告げたというのに、ルティナは何も応えなかった。
ルティナは…俺のことをどう思っているのか…
分からないまま王家主催の夜会となってしまった。
煌びやかなドレスに身を包み、飾られた俺は、自分でプロデュースしておいて何だが、めちゃくちゃ綺麗だと思う。どうしてルティナの中に入っているのが自分なんだ!!
早く元に戻って、ルティナを抱きしめたい思いに身を焦がしつつ、ルティナの想いが分からず不安に思う気持ちに胸が締め付けられた。
夜会のパートナーとして着飾った俺の中に入ったルティナにすらときめいてしまうほど…俺は重症なのかもしれない。
「綺麗ですよ、殿下」
そっと髪を撫でられ、何もつけていなかった髪に髪飾りを付けられる。
「これは…?」
会場の鏡越しに見ると、幼い頃に俺がルティナに贈った髪飾りが付けられていた。
「これを、母に頼んだのです」
ルティナが大切な物だと言った小箱の中身が、俺からプレゼントした髪飾りだったなんて…嬉しさで頬が緩んでしまいそうになる。
「良くお似合いですよ」
どこか寂しげに微笑んでいるルティナをこの場で抱きしめたくなる衝動を必死に抑えながら、会場へと進んで行った。
華やかなパーティは盛り上がり、俺は張り付けた笑顔で淑女に見えるよう振る舞うので精一杯だった。母上の地獄のレッスンに耐えた甲斐があった!!鬼教官と化した母上を思い出しながら必死に振る舞う。
そんな中、不穏な足音が近づいてきているのに、俺は気付けなかった。
「ごきげんよう、ケイティーン公爵令嬢様。邪魔なので、消えてくださらない?」
目が虚ろになったセルーデが、人ごみに紛れて、階段から俺の背を押そうと飛びかかってくるのが見えた──
俺を庇って、俺の前に飛び出たルティナがセルーデに押され、階段から宙に身を投げ出される。
「ルティナ!!」
俺は必死に彼女の身体に手を伸ばし、庇うように抱きしめた。
二人で階段から投げ出され
衝撃が体に伝わる──
一瞬意識が飛んだような衝撃と、身体の痛みで目を開ける。
「る、ルティナ!!」
まずは彼女の無事が心配で飛び起きる。さっきまで感じていたコルセットの締め付けも、重たいドレスの感触もなく、違和感を感じつつ、起き上がり辺りを見まわすと…
同じように床に倒れているルティナの姿が目に入った。
ルティナの…──
「ル、ルティナ!???」
俺の声にルティナが目を開けて、俺を見つめてはっと飛び起きる。
「で、殿下!?」
そう、俺たちは…
元通りの姿に戻っていたのだった──
「ルティナ、大丈夫か!?痛い所はないか!?」
茫然とするルティナの全身をチェックし、軽い打撲以外はなさそうでほっとする。
「だ…大丈夫です…殿下…」
「ああ、良かった…!!」
ぎゅっとルティナを抱きしめると、驚いたようにルティナが固まった。少し震えながら、
「これで…婚約は終わりですね…。どうぞ、婚約破棄してください」
そうルティナが囁いた。
バッと身体を離してルティナを覗き込むと、その大きな瞳に涙が溜まっていて、どうしようもなく愛しく感じてしまう。
「言っただろう?俺はルティナが好きだと。絶対に婚約は破棄しない!やっと気づいたんだ。俺にはルティナしかいないと。愛している、俺とずっと共にいてくれ!!」
今までの俺を見てたら、絶対信用されていないと思ったが、もうこれは頑張るしかない。
ルティナを好きな気持ちは、絶対に誰にも負けない自信があるのだから。
「正気ですか?」
「当たり前だ!」
「私、可愛げもないし、殿下に御小言ばかり言いますよ」
「ルティナは可愛いし、お小言も俺を思っての事だろう?ルティナのようには出来ないけど、俺も頑張っていい王太子になるから」
ぽろぽろと流れるルティナの涙を拭いながら、そっと抱きしめる。
「ルティナを生涯をかけて愛するとここに誓う。」
「殿…ディアス様──」
その瞬間、心配そうに俺たちを囲んでいた者達から拍手が起こり、皆に祝福され俺たちは初めて思いを通わせたのだった──