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婚約破棄できませんでした!  作者: ひとまる
5/8

5.女の世界


王宮でのお茶会が開かれ、俺は意気揚々とそれに参加している。何とか裏で手を回し、セルーデにも招待状を送った。


やっと…俺の天使、セルーデと再会できる!!


気分よく参加したお茶会で、俺は女の怖さを知ることになる。


「ケイティーン公爵令嬢様は、殿下に溺愛されて羨ましいですわ」


「本当、ノイトン男爵令嬢も、身の程を知るべきですわよねぇ。」


いつも可愛く俺に近付いてきていた令嬢達が、嬉々として俺のセルーデを虐めているではないか。

可愛そうにセルーデは下を向きながらギュッと手を握り締めている。


「お、お前たち、言い過ぎではないのか!ちょっと、彼女と二人きりにしてくれ!」


慌てて、セルーデの手を取り、庭園の方へ進む。

ああ、俺が馬鹿だった。どうしてこんな敵だらけの所にセルーデを呼んでしまったのだろう。セルーデを傷つけるつもりはなかったのに…


反省しつつ、セルーデを見つめると、物凄い冷たい表情で俺を見つめ返す未だかつて見たことのない彼女が目の前に居た。


「いいご気分でしょうね。殿下を私から取り返し、取り巻き達に攻撃させて!どんな手を使ったか知りませんが、殿下の愛は私のものです!」


え…、これ、俺の天使セルーデなのか?

険しい表情で怒鳴り散らす彼女を初めて見て動揺してしまう。


「ルティナ様は、殿下にちっとも愛されていないはずよ。何か薬か呪術か使ってるんでしょう?貴女みたいな冷たくて可愛げの無い女をディアス様が私を差し置いて選ぶはずが無いもの!!」


興奮したようにルティナの悪口を言うセルーデに俺は何も言えなくなってしまった。


『ディアス様、私はディアス様が大好きです。例え王太子で無くなったとしても、貴方自身が好きなの』


そう言ってくれた彼女は…


「王太子妃の座は渡さないわ!私がどれだけ苦労したと思ってるの?あのおバカな王太子様に散々付き合ったのに!」


もう、何処にも居なかった──




◆◆◆




「殿下、今日はやけに大人しいですね。どうされたんですか?」


茫然と遠くを見る俺にルティナが話しかけてくる。

俺はほぼ放心状態で俺の顔をしたルティナを見つめ返した。


「お茶会で愛しのセルーデ嬢と会ったにしては浮かない顔ですね」


「っな!知っていたのか…!?」


内密に起こした行動が、全てルティナに筒抜けだったと分かり、狼狽えてしまった。こいつ…油断も隙もない…!!


「殿下はもっと色々と知るべきかと思いまして。どうでしたか?女の世界は」


何があったかなんてお見通しのようなルティナに少しイラつきを覚える。俺の理想の令嬢像が崩れたことも、こいつの掌の上で転がされた感が否めない。


「俺の知っている令嬢達は…全て嘘だった!もう女の世界なんてこりごりだ!」


「殿下は綺麗な所しか見ておりませんもんね。これから王太子妃として社交界で渡り歩かなければいけないのに…困りましたね」


すっと近づいてくるルティナに俺は一歩後ずさる。いくら執務室に二人きりだといっても…近すぎないか?


「な、何だ!?」


「いえ、傷心の殿下を慰めて差し上げようかと」


壁際に追い詰められ、背中に汗が流れ落ちる。こいつ…どうしてこう妖しい雰囲気を作るんだ!!自分の顔に追い詰められるとか…妙な気持ち何だが…


複雑な気持ちでルティナを見上げると、唇が触れるか触れないかくらいの至近距離で見つめられる。


自分の顔なのに…何故か鼓動が早まってしまう。

口付けされると思って目をぎゅっと閉じると、すっと顔が離れていく気配がした。


「期待しました?殿下」


「っな!!全くしてない!断固としてしてない!」


ドキドキと早鐘を打つ心臓に気づかれまいとルティナを睨み付けると、唇を指でなぞられ、唇が重なった。


「っ…!!」


どうしてこいつはこんなにも俺を搔き乱すんだ!!

不本意ながら、ルティナにときめいてしまい、悔しくてたまらない。


「では、おやすみなさい、殿下。私はもう少し書類を片付けます」


さらっと余裕そうに仕事に戻るルティナに恨めしい視線を送りつつ、執務室から出て行こうとして、ふと思う。


こいつは、俺の身体に入ってから、いつもこうやって仕事ばかりしている。夜遅くまで執務室の灯りが付いているのを寝ぼけ眼で見たこともある。


本来は…俺が、やるべき仕事なのに…


「る、ルティナ」


「何か?」


「俺にも…手伝わせてくれないか…?」


俺の言葉が余程予想外だったのか、目を丸くしたルティナは、しばらくして嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。では、明日から一緒に行いましょう。今日はお肌に悪いので、もう休まれて下さい」


「お、おう、分かった。では、明日!」


照れくさくてそのまま執務室を飛び出てしまった。

あんなに王太子の仕事が嫌いで、ルティナに押し付ければいいと思っていたのに…


俺は灯りの消えない執務室を見つめながら、生まれて初めて罪悪感のようなものを感じるのだった──




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